77 / 121
本編
婚約式
しおりを挟む学園祭の夜会が始まる頃。
私とマックスは会場に戻った。少し遅れて会場入りしたのに、皆が此方に視線を向けてくる。
ハイ。分かってます。
ニールたんの策略で聖女認定されたからですね。
気にしないようにしよう。私は空気私は空気。
しばらくマックスのエスコートで会場内を進んでいくと、少し先に殿下やニールたん達の姿が見えた。
それと、久し振りに見る大好きなお父様も。
「ああ、来たね。アリス。それから……」
「ラジアーネ伯爵家次男、マクシミリアンです。リトフォード侯爵閣下」
「前に何度か会ったね。けれど、君とこんな形で縁が出来るとは思ってもみなかったよ。……ネルファスは元気かな?」
「はい。元気過ぎるくらいです」
「それは良かった。……アリス」
「はい、お父様」
お父様は私を見て、いつもの優しい柔らかな笑顔を見せてくれた。
それが嬉しくて、私もにっこりと微笑み返す。
エミリーナ魔法学園には、沢山の人々が居る。貴族の子供は魔力持ちがほとんどだから、皆当然のように通っているし、爵位の高い人はもれなく入学している。学園祭等の行事には、一部のお偉いさんなんかも来たりする訳で。
ニールたん経由で、そのお偉いさんの一人、司祭のディオン様に今日は頼み事をしていた。詳しくは知らないが、ニールたんに借りがある方らしい。
頼み事とは他でもない。今日の学園祭の夜会で、私とマックスの婚約を承認してもらうのだ。
本当はマリアーノ様が無理矢理マックスとの婚約を進めようとした場合、それを阻止する為にと考えた事だった。
けれど―――
「もし婚約破棄したくなったら、私が全力で破棄してあげるからね」
「お、お父様?」
「父上、その時は全力で僕もお手伝いします!」
「ああ、二人でぶち壊そう!」
ちょ!
お父様もアルも楽しそうになんて事話してんだ!!
これから婚約するとこだからね?!
「マクシミリアン君。そういう事だから、くれぐれもアリスの事を宜しく頼んだよ」
「はい。……婚約を許して下さって、ありがとうございます」
「……アリスもアルも、本当に手のかからない子達だった。お願い事なんて滅多にしない。そんな二人からのお願いだったからね。出来るだけ叶えてあげたいと思うのが親心だろう?」
「え?」
二人からのお願い?
「父上!!」
焦ったようなアルの声に、私とマックスは思わず顔を見合わせた。
最後まで『僕は認めない』って反対してたのに、お父様に私達の婚約を認めてくれるように、お願いしてくれてたって事?
「アル……?」
私が呼び掛けると、アルは少し困った顔をしながらも、目元を赤くして、少し拗ねたように視線を逸らした。
「……認めた訳じゃない。だけど僕だって、アリスには幸せになって欲しいと思ってるんだ。だから……」
「アル!」
私は思わず、大好きな弟に抱きついた。
なんて可愛い弟なの?
私の天使!!私は本当にアルが弟で幸せだよ!!アルとお父様が、私の家族になってくれて良かった!!
うるっと涙が滲みそうになったけど、何とか必死に堪える。ついさっきライラを呼んで、お化粧を直してもらったばかりだからね。ドレスの皺もめちゃくちゃ怒られた。必死に直してくれたけど。
「さぁ、アリス。司祭様の承認をもらっておいで」
「……うん。本当にありがとう、アル」
「俺からも言わせて欲しい。ありがとう、アル」
「マックス。アリスと婚約しても、結婚するまでは手を出しちゃ駄目だからね」
「………………善処する」
「目が泳いでるんだけど。そういえば、アリスの髪型が変わってるよね。……どういう事?」
ギクリ。
「へぇ。私もそれは気になるな。マクシミリアン君、どういう事?」
?!
お、お父様がにこにこしながら怒ってる?!なんか冷気出てるよ、ここ!!
あ、殿下が、フィーがこっち来た。
「二人とも、もうディオン司祭が準備万端で待っている。早く会場中央へ来てくれ。そろそろ始めよう」
「は、はい。マックス、行きましょう」
「はい!」
何とか逃げれたけど、アルとお父様がにこにこしながら怒ってるので、婚約式の後で何か言い訳を考えなくては。
会場中央へ行くと、少しだけ段差があり円を描くように高くなっている所がある。そこに司祭のディオン様が居た。ディオン様の横には、シンプルで腰ほどの高さがある四角い台座が置かれていた。台座の上には、私とマックスの婚約書がある。
会場内は、突然始まった婚約式に驚いて一時騒然としたが、すぐに殿下達の呼び掛けで静まり返った。
本来、光属性持ちで聖女の称号までいただいてしまったら、一生聖教会で過ごす事になっただろう。
けれど、既に婚約していれば話は別だ。周囲に聖女だと今日認知されてしまったけど、大丈夫。
あの日、ニールたんに相談した時点で、こうなる事は決まっていたのだろう。
聖女となれる実力を持っているんだと周囲に知らしめて、平民とかアレコレ言わせないように黙らせて、その上で聖教会に目をつけられる前に、好きな人と婚約させちゃうという……
拘束されたマックスの事を相談したのに、あの時ニールたんはどこまで読んでいたのだろうか。
「アリス」
ここで私の思考は中断する。
そう、私は今日これから、マックスと婚約するのだ。
別に特別な事はしない。
ただ誓いの言葉を言って、司祭様に承認のサインを貰うだけ。
結婚式じゃないから、キスとかする訳でもない。だけど。
一度婚約してしまえば、余程の事がない限り、破棄する事はない。
私達は今夜、沢山の人々をわざと証人にした。この婚約は間違いなく承認されたのだと。
私達は今日この日、正式に婚約したのだ。
* * *
20
お気に入りに追加
2,893
あなたにおすすめの小説
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~
Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが…
※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。
※設定はふんわり、ご都合主義です
小説家になろう様でも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる