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本編

婚約式

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学園祭の夜会が始まる頃。
私とマックスは会場に戻った。少し遅れて会場入りしたのに、皆が此方に視線を向けてくる。

ハイ。分かってます。
ニールたんの策略で聖女認定されたからですね。
気にしないようにしよう。私は空気私は空気。

しばらくマックスのエスコートで会場内を進んでいくと、少し先に殿下やニールたん達の姿が見えた。
それと、久し振りに見る大好きなお父様も。


「ああ、来たね。アリス。それから……」

「ラジアーネ伯爵家次男、マクシミリアンです。リトフォード侯爵閣下」

「前に何度か会ったね。けれど、君とこんな形で縁が出来るとは思ってもみなかったよ。……ネルファスは元気かな?」

「はい。元気過ぎるくらいです」

「それは良かった。……アリス」

「はい、お父様」


お父様は私を見て、いつもの優しい柔らかな笑顔を見せてくれた。
それが嬉しくて、私もにっこりと微笑み返す。

エミリーナ魔法学園には、沢山の人々が居る。貴族の子供は魔力持ちがほとんどだから、皆当然のように通っているし、爵位の高い人はもれなく入学している。学園祭等の行事には、一部のお偉いさんなんかも来たりする訳で。

ニールたん経由で、そのお偉いさんの一人、司祭のディオン様に今日は頼み事をしていた。詳しくは知らないが、ニールたんに借りがある方らしい。
頼み事とは他でもない。今日の学園祭の夜会で、私とマックスの婚約を承認してもらうのだ。

本当はマリアーノ様が無理矢理マックスとの婚約を進めようとした場合、それを阻止する為にと考えた事だった。

けれど―――


「もし婚約破棄したくなったら、私が全力で破棄してあげるからね」

「お、お父様?」

「父上、その時は全力で僕もお手伝いします!」

「ああ、二人でぶち壊そう!」


ちょ!
お父様もアルも楽しそうになんて事話してんだ!!
これから婚約するとこだからね?!


「マクシミリアン君。そういう事だから、くれぐれもアリスの事を宜しく頼んだよ」

「はい。……婚約を許して下さって、ありがとうございます」

「……アリスもアルも、本当に手のかからない子達だった。お願い事なんて滅多にしない。そんな二人からのお願いだったからね。出来るだけ叶えてあげたいと思うのが親心だろう?」

「え?」


二人からのお願い?


「父上!!」


焦ったようなアルの声に、私とマックスは思わず顔を見合わせた。
最後まで『僕は認めない』って反対してたのに、お父様に私達の婚約を認めてくれるように、お願いしてくれてたって事?


「アル……?」


私が呼び掛けると、アルは少し困った顔をしながらも、目元を赤くして、少し拗ねたように視線を逸らした。


「……認めた訳じゃない。だけど僕だって、アリスには幸せになって欲しいと思ってるんだ。だから……」

「アル!」


私は思わず、大好きな弟に抱きついた。

なんて可愛い弟なの?
私の天使!!私は本当にアルが弟で幸せだよ!!アルとお父様が、私の家族になってくれて良かった!!

うるっと涙が滲みそうになったけど、何とか必死に堪える。ついさっきライラを呼んで、お化粧を直してもらったばかりだからね。ドレスの皺もめちゃくちゃ怒られた。必死に直してくれたけど。


「さぁ、アリス。司祭様の承認をもらっておいで」

「……うん。本当にありがとう、アル」

「俺からも言わせて欲しい。ありがとう、アル」

「マックス。アリスと婚約しても、結婚するまでは手を出しちゃ駄目だからね」

「………………善処する」

「目が泳いでるんだけど。そういえば、アリスの髪型が変わってるよね。……どういう事?」


ギクリ。


「へぇ。私もそれは気になるな。マクシミリアン君、どういう事?」


?!
お、お父様がにこにこしながら怒ってる?!なんか冷気出てるよ、ここ!!

あ、殿下が、フィーがこっち来た。


「二人とも、もうディオン司祭が準備万端で待っている。早く会場中央へ来てくれ。そろそろ始めよう」

「は、はい。マックス、行きましょう」

「はい!」


何とか逃げれたけど、アルとお父様がにこにこしながら怒ってるので、婚約式の後で何か言い訳を考えなくては。


会場中央へ行くと、少しだけ段差があり円を描くように高くなっている所がある。そこに司祭のディオン様が居た。ディオン様の横には、シンプルで腰ほどの高さがある四角い台座が置かれていた。台座の上には、私とマックスの婚約書がある。


会場内は、突然始まった婚約式に驚いて一時騒然としたが、すぐに殿下達の呼び掛けで静まり返った。

本来、光属性持ちで聖女の称号までいただいてしまったら、一生聖教会で過ごす事になっただろう。
けれど、既に婚約していれば話は別だ。周囲に聖女だと今日認知されてしまったけど、大丈夫。

あの日、ニールたんに相談した時点で、こうなる事は決まっていたのだろう。

聖女となれる実力を持っているんだと周囲に知らしめて、平民とかアレコレ言わせないように黙らせて、その上で聖教会に目をつけられる前に、好きな人と婚約させちゃうという……

拘束されたマックスの事を相談したのに、あの時ニールたんはどこまで読んでいたのだろうか。


「アリス」


ここで私の思考は中断する。
そう、私は今日これから、マックスと婚約するのだ。

別に特別な事はしない。
ただ誓いの言葉を言って、司祭様に承認のサインを貰うだけ。
結婚式じゃないから、キスとかする訳でもない。だけど。

一度婚約してしまえば、余程の事がない限り、破棄する事はない。


私達は今夜、沢山の人々をわざと証人にした。この婚約は間違いなく承認されたのだと。


私達は今日この日、正式に婚約したのだ。



* * *

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