上 下
59 / 121
本編

ご褒美を下さい

しおりを挟む


そういえば、女子寮へ男の人が見舞いにくるのって大丈夫なの?ニールたんは一応先生だからいいのかな?

……まぁ今は、騎士団長の件が先だ。

私は上体を起こした状態でベッドに居る訳だが、とりあえず理由だけは訊いておくかと、ベッドの横の椅子に座っているニールたんへ質問した。


「……一応訊きますけど、どうして騎士団長を氷漬けにしたんですか?」

「騎士団長の頭が悪かったからです」


……おいコラ。
駄目だろ、その理由。
結果的には捕まえられたから良かったのかもだけど、話してみて聞かないから武力行使、みたいな。
それ駄目なやつじゃない?いや、頼んだのは私だから、そもそも頼んだ私が悪かった訳なんだけど……


「アリスお嬢様。ああいう人に説得は無理なのです。仮に根気強く何度も説得を試みたとしましょう。恐らく生意気な口を利くなと激昂して、余計に聞く耳持たずとなる可能性が高い。ではお金を積んでお願いしてみてはどうか?調子に乗ってその後も強請ってくるか、別の誰かに情報を売るでしょう」


え。
それは…………


「今度は軽く相手を懲らしめてみてはどうか?それは一番の愚策です。下手な脅しや暴力は逆に相手を刺激してしまい、此方への報復を企んでくるでしょう。最も効果的なのは悪事の証拠等を掴む事ですが、何故かああいう人は隠す事だけは上手いですからね。証拠を掴む事は可能だったでしょうが、時間はかかったでしょう。恐らく三日くらいは」


いや、三日で見つかるなら探そうよ!!
途中納得しかけたけど、最も効果的な事があるの分かってて、あえてやらなかったんでしょ?!


「ですが、仮に悪事の証拠を掴んで一時的に此方の言う事を聞いたとしても、やはり後々面倒な事になるのは明白です。なにせ彼は魔物より頭が悪かったので」

「頭が悪かった事を主張しますね……」

「ええ。実は彼と接してる間、ずっと微量の殺気を放っていたのです。魔物ならば、その殺気から危険を察知し、相手がどれ程強いか本能的に理解します。……しかし騎士団長殿は全く気付かなかった。魔物以下な彼は先程の理由から、ずっと黙っていて貰うのが一番良いと判断したのです」


……なんか、上手く丸め込まれてる気もしなくもない。だけど確かに、普段から平気で悪い事をしている人だったなら、ニールたんの言う通りなのかも……?

いや、国の騎士団長がそんなクズだったなんておかしくない?本当に悪人だったの?


「……一応、これでも一度は説得を試みたんですよ?アリスお嬢様のご希望でしたから」


そうなの?本当に?


「ふふ。疑ってるんですか?本当ですよ。例え後で報復してきたとしても防げる自信はありましたし、その場で大人しくしているなら何もする気はありませんでした」

「え……?」

「ですが、彼は剣を抜いた。その場で攻撃してくるなら、此方もそれに応えなければ。その結果が氷漬けです。殺す気で向かってきた相手を無傷で生かしておいたのですから、褒めて下さるでしょう?ね、アリスお嬢様」

「…………」


私は、本当に馬鹿なお願いをしてしまったようだ。いくらニールたんがめちゃくちゃ強いと言っても、本当に馬鹿なお願いをした。

ニールたんの命を、危険に晒したのだから。


思えば、最初から規格外過ぎたニールたんを、私は一番ゲームキャラだと思っていたのかもしれない。
単独でレッドドラゴン三体を討伐出来て、魅了の魔法なんて無いも同然で、いつでも結界ごと王城を吹っ飛ばせる、そんな規格外過ぎる彼を、私はきちんと正面から見ていなかったのではないだろうか?

ここは現実で、皆生きてて、酷い怪我や病気をしたら死ぬ事だってある。ニールたんも例外じゃない。
むしろ、この人が規格外過ぎる強さを持っているのは、それだけずっと危険な目に遭ってきたから、強くならざるを得なかったんじゃないの?


この人はゲームキャラなんかじゃない。
確かにちょっと変わった人だけど、独りで必死に抗って、生き抜いてきた人なんだ。


「……アリスお嬢様?」

「ごめ……ニールたん。ごめんなさい……」

「どうして泣いているのですか?」

「私、馬鹿でした。無茶なお願いして、本当にごめんなさい……」


謝って済む問題じゃない。
だけど、どうしたらいいのか分からない。ごめん、ニールたん。
本当にごめんなさい。


「……泣かないで下さい、アリスお嬢様。私が言ったのです。次に何か困った事が起きたら、私に相談して欲しいと。私が解決してみせると。……貴女は私に、挽回の機会を与えて下さっただけなのですから」

「クロの呪いの時も、ニールたんはずっと頑張ってくれてた。三年間ずっと。だから、挽回も何も……」


私が甘えていただけ。
最初からニールたんに落ち度なんて無い。


「……馬鹿だなぁ、アリスお嬢様は。私を危険に晒したと思っているのですか?危険の内に入りませんよ」


ニールたんが、何だか少年のように柔らかく笑った。
私にはいつも笑ってくれるけど、こんな笑顔は初めて見たかもしれない。


「アリスお嬢様は私が苦手なくせに、いつも心配してくれますよね」


なんで苦手ってバレてんの?
そんなに私、顔に出てる?


「今回の件は、私以外の者が解決しようとすれば、証拠を掴むのに何年もかかったでしょう。だから、私がやって良かったのです。到底無理だと思える事は、今後も私が解決して差し上げます」

「どうして……」


なんでそこまで?


「アリスお嬢様が私の唯一だからです。……ご褒美を下さい、アリスお嬢様。それで全てチャラです」

「…………」


ご褒美。
手紙にも書いてあった。

何をあげたらいいのか、さっぱり分からないけど…………


「分かりました。ちょっと傍に来て、屈んで下さい」

「?」


ニールたんは不思議そうに首を傾げながら、私の傍に来て屈んでくれた。私は手を伸ばし、ニールたんをぎゅっと抱き締める。

ニールたんが一瞬だけ、身体を強張らせた。


「……アリスお嬢様?」

「何をあげたらいいのか、正直言って分かりません。でも、さっき……風邪菌が羨ましいと言っていたので……」


近付いてぎゅっとすれば、風邪菌も移るかなって。


「こんなの、ご褒美になんかならないかもですが……」

「いいえ」


ニールたん?


「最高のご褒美です」

「……それなら、良かったです。もし本当に風邪が移ってしまったら、無理せずに休んで下さいね」

「…………」


気のせいだろうか。
何か温かなものが、ポタリと布団に落ちた気がした。


「アリスお嬢様。やはり貴女は………………私の女神だ」


……ニールたんの声が、ほんの少しだけ震えていた。



* * *

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18]引きこもりの男爵令嬢〜美貌公爵様の溺愛っぷりについていけません〜

くみ
恋愛
R18作品です。 18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。 男爵家の令嬢エリーナ・ネーディブは身体が弱くほとんどを屋敷の中で過ごす引きこもり令嬢だ。 そのせいか極度の人見知り。 ある時父からいきなりカール・フォード公爵が婚姻をご所望だと聞かされる。 あっという間に婚約話が進み、フォード家へ嫁ぐことに。 内気で初心な令嬢は、美貌の公爵に甘く激しく愛されてー?

妹に呪われてモフモフにされたら、王子に捕まった

秋月乃衣
恋愛
「お姉様、貴女の事がずっと嫌いでした」 満月の夜。王宮の庭園で、妹に呪いをかけられた公爵令嬢リディアは、ウサギの姿に変えられてしまった。 声を発する事すら出来ず、途方に暮れながら王宮の庭園を彷徨っているリディアを拾ったのは……王太子、シオンだった。 ※サクッと読んでいただけるように短め。 そのうち後日談など書きたいです。 他サイト様でも公開しております。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

騎士団長との淫らな秘めごと~箱入り王女は性的に目覚めてしまった~

二階堂まや
恋愛
リクスハーゲン王国の第三王女ルイーセは過保護な姉二人に囲まれて育った所謂''箱入り王女''であった。彼女は王立騎士団長のウェンデと結婚するが、獅子のように逞しく威風堂々とした風貌の彼とどう接したら良いか分からず、遠慮のある関係が続いていた。 そんなある日ルイーセはいつものように森に散歩に行くと、ウェンデが放尿している姿を偶然目撃してしまう。何故だかルイーセはその光景が忘れられず、それは彼女にとって性の目覚めのきっかけとなるのだった。さあ、官能的で楽しい夫婦生活の始まり始まり。 +性的に目覚めたヒロインを器の大きい旦那様(騎士団長)が受け入れて溺愛らぶえっちに至るというエロに振り切った作品なので、気軽にお楽しみいただければと思います。 +R18シーン有り→章名♡マーク +関連作 「親友の断罪回避に奔走したら断罪されました~悪女の友人は旦那様の溺愛ルートに入ったようで~」

処理中です...