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本編

真正のアホ

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第二王子であるエルオット殿下は、乙女ゲームの攻略対象なだけあってイケメンである。
肩口辺りで切り揃えられた髪はサラサラで、フィリップ殿下と同じ金髪碧眼。病弱だったという事で線の細い印象を受けるが、ガリガリではないようだ。

そう、どちらかと言うとゴツゴツ―――


「アリス嬢、もっと授業に集中していただけませんか?魔力の流れが乱れていますよ」

「はぁ、すみま」

「全く、これだから嫌なのです。どうせ私が王子だから変に緊張しているのでしょう?安心して下さい、貴女には何も期待していませんから」


もう死ねよ、こいつ。
こっちこそアンタに期待なんてしてないわ。

本当に全然喋らせてくれないし。最初こそ多少は緊張したけど、肩の力なんてとっくに抜けてるよ。緊張するだけ馬鹿馬鹿しいわ。フィリップ殿下がめちゃくちゃ素敵な殿方に思えてくるよ。何なの、そーゆう作戦??
とりあえずその減らず口を今すぐ閉じろ、このゴツゴツ野郎。


「今更こんな初歩的な事から学ぶだなんて、魔法学園の質を疑いますよ」


ちなみに今は二人一組で、自分の魔力を相手に流すという魔法実習を行っている。これをする事で魔力の流れを明確に感じ取り、魔力操作の熟練度を上げていく事が出来るらしい。通常は自分一人でやる事なのだが、慣れるまでは二人一組でやる方が効率がいいとか何とか。要するに、手を繋ぐという行為をさせたかった、制作スタッフの陰謀である。ご丁寧に集中出来るよう、各組ごとに小さな個室だし。狭い密室で何させる気だったんだ制作スタッフ。

ちなみにゴツゴツしているのは、エルオット殿下の手の事だ。結構固い。


「……流す魔力量を増やします。ちゃんと集中して下さいね」

「は」

「いきます」


もお、聞けよ!!
ちゃんと喋らせてよ!!せめて返事くらいマトモに聞けっ!!!
ホントに何なのこの人?!そんなんじゃ、将来民を背負っていけないよ?!

って、ちょっ、魔力量多っ?!


「うぐっ……!」

「……魔力量を増やすと言いましたよね?ちゃんと聞いていましたか?」

「聞いてました、けど……!」

「貴女も流す魔力量を増やして下さい。言っておきますが、私は手加減など……」

「ひゃん!」

「…………………………し、仕方ないので、もう少しゆっくりやってあげます」

「お、お願いします……っ」


何かくすぐったいし、量が多いとゾクゾクするんですけど。
あかんやつ。これあかんやつだって、制作スタッフ!!それともゲーム関係なしに私の体質?体質なの??


「……仕方ないので、ゆっくり、少しずつ増やしていきますね」

「は、はい……んっ!」

「コホンッ!……これ以上は減らせませんよ?というか、魔法は使えるのに、魔力操作はしてこなかったんですか?」

「一人で、なら……」


だってニールたんは恐れ多いとか、やったら途中で止められる自信がないとか、訳分かんない事言ってやってくれなかったんだもん!


「なら、こうして誰かと魔力を流し合うのは私が初めてなのですか?」

「はい。初めて、ですけど……」


ちょっとだけこの量に慣れてきたかも。まぁくすぐったいのが何とかなれば、魔力って温かくて気持ちいいんだけどさ。

……なんだろう。
急にエルオット殿下が大人しくなったような??しかも目元が赤い気がする。


「……少し慣れたようですね。量、増やします」

「あっ!待っ……やぁ……!」

「くっ……!い、いい加減にして下さい!!まさかハニートラップなんですか?!変な声とその表情を止めろ!!」

「な……あぁっ!!」


オイィィィィィッ?!急に何のネジが外れたんだよっ?!!変な声とその表情とか言うなし!!しかも仕掛けてもいないハニートラップに勝手に引っ掛かるなっつーの!!!

魔力量増えすぎだから!!
止めて止めてっ!!!
これ本当にあかんやつ!!!


「そんな演技に騙されるものか!!初めてなんて言って油断させようとしても無駄ですからねっ!!」

「ちょ、ホント無理っ!!む…………ひゃあああん!!」

「私を惑わすなーーーーー!!!」

「~~~~っ?!!」


次の瞬間、私は意識を手放した。



……………………

…………



目を覚ますと、目の前にエルオット殿下の端整なお顔があった。どうやらまだ魔力操作用の個室の中らしい。


「……大丈夫か?」

「ええと……?」

「すまない、その、私が勘違いをしてしまったようで……」

「授業、は………」

「まだ授業中だ。アリス嬢が意識を失ってから今まで、まだほんの数分しか経っていない」

「数分……」

「その、本当に申し訳ない」


待って。
何で私の身体、力入んないの??
何この倦怠感。え、なに。どゆこと??


「その、無理矢理沢山の魔力を流してしまったからアリス嬢の魔力の管に傷がついてないか、悪いとは思いつつ私の魔力を流して確認したのだが」


ちょ、おまっ?!


「意識がない時も、その、アリス嬢が妙な声を出していたので、これはアリス嬢の体質の問題でハニートラップではないようだと……」

お……

おっまえ本当に本当の本当に死ねよコラアァァァァァ!!!!!


「す、すまない、アリス嬢!今回の事は全部私が悪かった!」


謝って済む問題かっ?!
魔力操作しただけなのに穢された気分だよ!!大事な何かを失ったよ、私はっ!!!

しかし、エルオット殿下は突然キリリとした顔でまさかの台詞を吐いた。


「勿論、アリス嬢を穢してしまった責任はきちんと取らせてもらう!兄上には悪いが、男としてのケジメだっ!!」



なん…………

え?なんて?

こいつ駄目だわ。


マジでこいつ、真正のアホだわ………



* * *

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