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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
幸せの形⑰
しおりを挟む――それで、結局のところ、どうしてあんなことを?
私の身体や執務室の中はシュティが魔法で清めてくれた。服はアスモデウスが着ていたシャツを貸してくれたので、急いでそれに袖を通し、皆でソファーに座ってから、そう訊いてみたら、珍しくアスモデウスが拗ねたような顔をして、瞳を逸らしたまま理由を話してくれた。
「お前は何も気付いてないだろうが、ここ最近、公爵邸内は心をざわつかせている奴が多い。そういった奴らは、いつだってお前を欲している。…お前は押しに弱いだろう?以前、糧共に罪悪感を感じているのなら、皆平等に愛せばいいと言ったのは私だが、魔力が不安定になってきている状態で求められるがままに無理をすれば、やがてお前は力を暴走させてしまう。そうなれば、傷つくのはお前だ。だから、私は……」
「ヴィクトリアが彼らに対して暴走してしまう前に、自分がその受け皿になろうとした。ってことだろう?精気を全て喰らい尽くせば、弱く儚い人間は死んでしまうから。カッコイイ~。…でも、暴走したヴィクトリアが正気に戻らないようなら、そのまま連れ去るつもりだったよな?」
「……その方が、ヴィクトリアの為だろう」
アスモデウスとシュティの会話を聞いて、私は言葉を詰まらせた。アスモデウスは、彼は本当に悪魔なのだろうか?彼にとって、私は彼と契約を交わした者でもない。…寵愛を受けろと言われて、最後には根負けしてしまい、私は彼を受け入れた。あれからずっと彼は変わらない。
彼は、私の貪欲さが好きだと言っていた。快楽を欲する私が好ましいと。…世の中には、そういった行為が、快楽が好きな女性なんて、沢山いると思うのだけど。
「ヴィクトリア。……私が嫌いになったか?」
思わず、瞳を見開いて彼を見つめてしまう。ああ、私はもう本当に絆されてしまった。悪魔である彼を可愛いと感じてしまうなんて。私の隣に座っている彼の手に、そっと触れる。
「嫌いになんてならないです。…全部、私の為を思ってしてくれたのでしょう?」
出来れば、行為に及ぶ前に理由を話して欲しかった。でも、だからといって彼を責めたりなんて出来ないし、それはお門違いだと思った。何より、私自身が今の自分の状態について、分かっていなかったことが一番の問題だ。おかしいと感じていたのに、見て見ぬふりをしようとした。私の悪い癖。恐らく前世からだと思う。何かあっても、見て見ぬふり。
(この世界に転生してからは、少しは変われたと思ったのに…)
いつまで経っても変わっていない自分が情けなくて、思わず俯いてしまうと、アスモデウスがぎゅうっと力強く抱き締めてくれた。
「やっぱり、お前は可愛いな。何もかも好ましい」
「~~~っ」
いや、あの。何も考えられなくなるので、そんなイケボで囁かないでもらえます?
「…なんだ、照れているのか?顔が真っ赤だ」
顔だけでなく、身体全体が熱を持っている気がする。お腹の奥が熱い。
「顔を上げろ。朱に染まっているお前が見たい。きっと瞳も潤んでいるのだろう?」
そう言ってアスモデウスが私の顎に指をかけた瞬間、シュティが「はい、そこまで~」と言って、私を抱き締めていたアスモデウスをべりっと引き剥がした。アスモデウスの周囲から再び真っ黒な靄が漂い始め、額にはビキビキと青筋が浮かび上がる。
「貴様。一度ならず二度までも、私の邪魔をするとは。今すぐ葬ってやってもよいのだぞ?たかが聖獣風情が。」
「我を甘くみてもらっては困る。それに、我を殺せば、ヴィクトリアに嫌われるよ?」
「…クソッ」
アスモデウスの方が力が強いのだと思っていたけど、シュティは全く物怖じすることなく、余裕の表情だ。乙女ゲームの中では、ヒロインのお助けキャラという立ち位置だったけれど、その割に結構抜けていて、ヒロインが十八禁的な展開に陥っている時とか、悪役令嬢にイジメられる瞬間も、大抵いつもいないのだ。『困ったことがあれば、いつでも我を呼んで!』とか言ってたけど、本当に助けてくれることは殆どない。
(まぁ、ゲームのシナリオを進める為の、そういう仕様だったのだろうけど)
なので、お助けキャラというより、実際にはただのマスコットキャラクターかなって。そっちの印象の方が強かった。だから、こうして悪魔であるアスモデウスを前にして、こんなにも堂々としているところを見ると、何だか不思議な気持ちになる。
「我もアスモデウスが危惧する気持ちは分かるよ。今のヴィクトリアはサキュバスとしての力が増している影響で、無意識に周囲の雄を発情状態にしてしまっているから」
(――え?)
突然の爆弾発言投下。え?何それ、どういうこと?サキュバスの力が増すって、そういうことなの?ということは……
「もしかして、アスモデウスも……?」
私の力に当てられてしまったってこと?
私がチラリと彼を見上げると、彼は口元に笑みを浮かべて、そっと私の耳元で甘く囁いた。
「美味そうな匂いがすると言っただろう?」
「美味そうって…っ、濃い匂いって、そういう?!」
というか、どうしてわざわざ耳元で囁くの?声がイケボ過ぎて腰に響くのですがっ
私が再び顔を真っ赤にしていると、シュティが私の傍へやって来て、私の手を取り、にこりと柔らかく微笑んだ。
「ヴィクトリア。淫魔としての力が増して困っているなら、我が助けてあげるよ」
「え……?」
助けるって、シュティが…?あまりにも意外に思えてしまって、思わず固まっていると、シュティが私の頬に優しく触れた。
「淫魔の力が暴走してしまったら大変だし、周囲の人間の男が常にヴィクトリアに対して発情してしまうなんて、とても困るだろう?」
…確かに。それは間違いない。特に、淫魔の力のせいで周囲の男性を発情させてしまうだなんて、害以外の何ものでもない。
「…本当に、助けてくれるの?」
まさか、こんなところでお助けキャラとしての本領を発揮してくれるだなんて。
「勿論だ。…ここでは何だし、場所を変えたい。いい?」
「ええ」
異論など、ある筈もない。私がコクリと頷けば、何故だかアスモデウスに腕を掴まれた。
「アスモデウス?」
彼は焦ったような顔をしていて、私は訳が分からないままに首を傾げた。一体どうしたのだろうか?
「本当に、この獣に助けてもらうつもりか?」
「うん。…大丈夫。だって、シュティは聖獣ですし」
「……恐らく、かなりの荒療治だぞ?」
「荒療治?…でも、今の状態のままでは困るし、ある程度は覚悟しています」
そんな簡単に全てが上手くいくだなんて思っていない。皆にとって害のある状態で居続ける方が問題だもの。どんなことであっても、耐えてみせる。
「アスモデウス、あまりヴィクトリアを脅かすな。大丈夫。痛くなんてないし、数日耐えるだけだから」
シュティの話を聞いて、ホッと安堵する。痛いのは苦手だもの。痛くないなら、それに越したことはない。でも、数日は掛かるのね。
「頑張るわ」
私がそう言うと、シュティは蕩けるような眼差しで私を見つめて抱き締めた。
「シュティ?」
「さぁ、行こうか。……うんと気持ち良くしてあげるから」
「気持ち良く……?」
そうして、私は聖獣であるシュティの力によって、その場から移動させられた。執務室から消える直前、視界に映っていたアスモデウスは、やはり焦燥を浮かべていて。
「…シュティ?」
見覚えのある場所に着いたと思ったら、私はその場で押し倒されていた。シュティは酷く嬉しそうな顔をしていて、何故だか背中に嫌な汗が伝う。
「今から増えてしまった淫魔の力を、我が全部取り込んでいく。ヴィクトリアはただただ、その身を委ねてくれればいい」
「ちょっ…シュティ?一体何を…」
シュティはにこにこしながら、私の両足の間へその身を滑り込ませ、秘処へと端正な顔を近づける。思えば、私の今の格好は、アスモデウスが貸してくれた男性もののシャツ一枚のみ。下着さえ、身に着けていない。
「覚えている?我とヴィクトリアは、ここで初めて出会った。あの時は子犬の姿だったけど、少しだけ今と状況が似ているな」
私とシュティが初めて出会った場所。それは……
――リリーナ魔法学園の庭園だ。
「だめ!外なのに、こんな…っ」
「我の力で、我とヴィクトリアの姿は他の者には認識できなくなっている。だから、どれだけ乱れても大丈夫だ」
「嘘でしょ?だめよ、シュティ!待っ……んんぅっ♡♡」
外なのに、少し離れたところには学生たちだっているのに。シュティの舌が、ぬるりと秘裂をなぞり上げ、忘れかけていた熱が再び身体に灯る。
「アスモデウスが飼っている触手の体液が、まだ中に残っているな。安心していいよ、ヴィクトリア。辛かっただろう?すぐに我が楽にしてあげよう」
「だめぇっ♡♡」
――こうして、私にとって拷問のような日々が幕を開けたのだった。
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