上 下
97 / 113
旧ver(※書籍化本編の続きではありません)

幸せの形⑰

しおりを挟む

――それで、結局のところ、どうしてあんなことを?

 私の身体や執務室の中はシュティが魔法で清めてくれた。服はアスモデウスが着ていたシャツを貸してくれたので、急いでそれに袖を通し、皆でソファーに座ってから、そう訊いてみたら、珍しくアスモデウスが拗ねたような顔をして、瞳を逸らしたまま理由を話してくれた。

 「お前は何も気付いてないだろうが、ここ最近、公爵邸内は心をざわつかせている奴が多い。そういった奴らは、いつだってお前を欲している。…お前は押しに弱いだろう?以前、糧共に罪悪感を感じているのなら、皆平等に愛せばいいと言ったのは私だが、魔力が不安定になってきている状態で求められるがままに無理をすれば、やがてお前は力を暴走させてしまう。そうなれば、傷つくのはお前だ。だから、私は……」
 「ヴィクトリアが彼らに対して暴走してしまう前に、自分がその受け皿になろうとした。ってことだろう?精気を全て喰らい尽くせば、弱く儚い人間は死んでしまうから。カッコイイ~。…でも、暴走したヴィクトリアが正気に戻らないようなら、そのまま連れ去るつもりだったよな?」
 「……その方が、ヴィクトリアの為だろう」

 アスモデウスとシュティの会話を聞いて、私は言葉を詰まらせた。アスモデウスは、彼は本当に悪魔なのだろうか?彼にとって、私は彼と契約を交わした者でもない。…寵愛を受けろと言われて、最後には根負けしてしまい、私は彼を受け入れた。あれからずっと彼は変わらない。
 彼は、私の貪欲さが好きだと言っていた。快楽を欲する私が好ましいと。…世の中には、そういった行為が、快楽が好きな女性なんて、沢山いると思うのだけど。

 「ヴィクトリア。……私が嫌いになったか?」

 思わず、瞳を見開いて彼を見つめてしまう。ああ、私はもう本当に絆されてしまった。悪魔である彼を可愛いと感じてしまうなんて。私の隣に座っている彼の手に、そっと触れる。

 「嫌いになんてならないです。…全部、私の為を思ってしてくれたのでしょう?」

 出来れば、行為に及ぶ前に理由を話して欲しかった。でも、だからといって彼を責めたりなんて出来ないし、それはお門違いだと思った。何より、私自身が今の自分の状態について、分かっていなかったことが一番の問題だ。おかしいと感じていたのに、見て見ぬふりをしようとした。私の悪い癖。恐らく前世からだと思う。何かあっても、見て見ぬふり。

 (この世界に転生してからは、少しは変われたと思ったのに…)

 いつまで経っても変わっていない自分が情けなくて、思わず俯いてしまうと、アスモデウスがぎゅうっと力強く抱き締めてくれた。

 「やっぱり、お前は可愛いな。何もかも好ましい」
 「~~~っ」

 いや、あの。何も考えられなくなるので、そんなイケボで囁かないでもらえます?

 「…なんだ、照れているのか?顔が真っ赤だ」

 顔だけでなく、身体全体が熱を持っている気がする。お腹の奥が熱い。

 「顔を上げろ。朱に染まっているお前が見たい。きっと瞳も潤んでいるのだろう?」

 そう言ってアスモデウスが私の顎に指をかけた瞬間、シュティが「はい、そこまで~」と言って、私を抱き締めていたアスモデウスをべりっと引き剥がした。アスモデウスの周囲から再び真っ黒な靄が漂い始め、額にはビキビキと青筋が浮かび上がる。

 「貴様。一度ならず二度までも、私の邪魔をするとは。今すぐ葬ってやってもよいのだぞ?たかが聖獣風情が。」
 「我を甘くみてもらっては困る。それに、我を殺せば、ヴィクトリアに嫌われるよ?」
 「…クソッ」

 アスモデウスの方が力が強いのだと思っていたけど、シュティは全く物怖じすることなく、余裕の表情だ。乙女ゲームの中では、ヒロインのお助けキャラという立ち位置だったけれど、その割に結構抜けていて、ヒロインが十八禁的な展開に陥っている時とか、悪役令嬢にイジメられる瞬間も、大抵いつもいないのだ。『困ったことがあれば、いつでも我を呼んで!』とか言ってたけど、本当に助けてくれることは殆どない。

(まぁ、ゲームのシナリオを進める為の、そういう仕様だったのだろうけど)

なので、お助けキャラというより、実際にはただのマスコットキャラクターかなって。そっちの印象の方が強かった。だから、こうして悪魔であるアスモデウスを前にして、こんなにも堂々としているところを見ると、何だか不思議な気持ちになる。

 「我もアスモデウスが危惧する気持ちは分かるよ。今のヴィクトリアはサキュバスとしての力が増している影響で、無意識に周囲の雄を発情状態にしてしまっているから」
 (――え?)

 突然の爆弾発言投下。え?何それ、どういうこと?サキュバスの力が増すって、そういうことなの?ということは……

 「もしかして、アスモデウスも……?」

 私の力に当てられてしまったってこと?
 私がチラリと彼を見上げると、彼は口元に笑みを浮かべて、そっと私の耳元で甘く囁いた。

 「美味そうな匂いがすると言っただろう?」
 「美味そうって…っ、濃い匂いって、そういう?!」

 というか、どうしてわざわざ耳元で囁くの?声がイケボ過ぎて腰に響くのですがっ
 私が再び顔を真っ赤にしていると、シュティが私の傍へやって来て、私の手を取り、にこりと柔らかく微笑んだ。

 「ヴィクトリア。淫魔としての力が増して困っているなら、我が助けてあげるよ」
 「え……?」

 助けるって、シュティが…?あまりにも意外に思えてしまって、思わず固まっていると、シュティが私の頬に優しく触れた。

 「淫魔の力が暴走してしまったら大変だし、周囲の人間の男が常にヴィクトリアに対して発情してしまうなんて、とても困るだろう?」

 …確かに。それは間違いない。特に、淫魔の力のせいで周囲の男性を発情させてしまうだなんて、害以外の何ものでもない。

 「…本当に、助けてくれるの?」

 まさか、こんなところでお助けキャラとしての本領を発揮してくれるだなんて。

 「勿論だ。…ここでは何だし、場所を変えたい。いい?」
 「ええ」

 異論など、ある筈もない。私がコクリと頷けば、何故だかアスモデウスに腕を掴まれた。

 「アスモデウス?」

 彼は焦ったような顔をしていて、私は訳が分からないままに首を傾げた。一体どうしたのだろうか?

 「本当に、この獣に助けてもらうつもりか?」
 「うん。…大丈夫。だって、シュティは聖獣ですし」
 「……恐らく、かなりの荒療治だぞ?」
 「荒療治?…でも、今の状態のままでは困るし、ある程度は覚悟しています」

 そんな簡単に全てが上手くいくだなんて思っていない。皆にとって害のある状態で居続ける方が問題だもの。どんなことであっても、耐えてみせる。

 「アスモデウス、あまりヴィクトリアを脅かすな。大丈夫。痛くなんてないし、数日耐えるだけだから」

 シュティの話を聞いて、ホッと安堵する。痛いのは苦手だもの。痛くないなら、それに越したことはない。でも、数日は掛かるのね。

 「頑張るわ」

 私がそう言うと、シュティは蕩けるような眼差しで私を見つめて抱き締めた。

 「シュティ?」
 「さぁ、行こうか。……うんと気持ち良くしてあげるから」
 「気持ち良く……?」

 そうして、私は聖獣であるシュティの力によって、その場から移動させられた。執務室から消える直前、視界に映っていたアスモデウスは、やはり焦燥を浮かべていて。

 「…シュティ?」

 見覚えのある場所に着いたと思ったら、私はその場で押し倒されていた。シュティは酷く嬉しそうな顔をしていて、何故だか背中に嫌な汗が伝う。

 「今から増えてしまった淫魔の力を、我が全部取り込んでいく。ヴィクトリアはただただ、その身を委ねてくれればいい」
 「ちょっ…シュティ?一体何を…」

 シュティはにこにこしながら、私の両足の間へその身を滑り込ませ、秘処へと端正な顔を近づける。思えば、私の今の格好は、アスモデウスが貸してくれた男性もののシャツ一枚のみ。下着さえ、身に着けていない。

 「覚えている?我とヴィクトリアは、ここで初めて出会った。あの時は子犬の姿だったけど、少しだけ今と状況が似ているな」

 私とシュティが初めて出会った場所。それは……

 ――リリーナ魔法学園の庭園だ。

 「だめ!外なのに、こんな…っ」
 「我の力で、我とヴィクトリアの姿は他の者には認識できなくなっている。だから、どれだけ乱れても大丈夫だ」
 「嘘でしょ?だめよ、シュティ!待っ……んんぅっ♡♡」

 外なのに、少し離れたところには学生たちだっているのに。シュティの舌が、ぬるりと秘裂をなぞり上げ、忘れかけていた熱が再び身体に灯る。

 「アスモデウスが飼っている触手の体液が、まだ中に残っているな。安心していいよ、ヴィクトリア。辛かっただろう?すぐに我が楽にしてあげよう」
 「だめぇっ♡♡」
 
 ――こうして、私にとって拷問のような日々が幕を開けたのだった。


***
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。