悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

旧ver（※書籍化本編の続きではありません）

一時の平穏

「ヴィクトリア様、食堂から昼食をお持ち致しました」
「ありがとう、フィル」
「ヴィクトリア様、お茶を淹れ……ました」
「ありがとう、ナハト」

穏やかな時間に、私は嬉しくなって笑みを零す。
一時はどうなるかと思ったけれど、アスモデウスが話の分かる（？）悪魔で本当に良かった。

彼との二度目の再会後、現実世界に戻った私は大変だった。
あれだけ触手の魔物に媚薬まみれにされたのに、不完全燃焼のまま現実世界へ戻ってしまった為、目を覚ましてすぐに疼く身体を抑えきれず、自ら自慰を行ってしまったのだ。
それだけでも羞恥で死にそうだったのに、何故だかベッドの傍で私が目覚めるのを待っていたらしいフィルとナハトに、その様子を全て見られてしまったの。

あれだけ皆とした後だったのに、自慰まで……
淫乱過ぎる……

散々二人に言葉責めされて、気持ち良くされてしまった。

（それから……）

左胸にある印は一体何かと聞かれた。
最初は私自身もなんの事か分からなかったけれど、すぐにアスモデウスの印だと気付いた。
彼の印は、フィル達のような契約印とは違う、一種のマーキングのようなものだと思われる。


『お前はもう、私のもの・・・・なのに』


アスモデウスは確かにそう言っていたのだから。

（従属契約とかではないから、強制的に彼に従わされる事もないし）

ルカ先生に教えてもらったけれど、悪魔は契約を結ぶことで初めてその力を発揮し、相手の身体と魂を縛る存在らしい。
どんな願いでも叶えてくれるけれど、一度でも契約を結んでしまえば、その人間は悪魔に支配されてしまう。だから、決して悪魔の言葉に惑わされてはいけない。頷いてはいけないと、教えてくれた。

だから、私の選択は正しかったのだと思う。

結果として、悪魔であるアスモデウスに目は付けられてしまったけれど、契約を交わしてない以上、害にはならない。

（それに……）

意識を失う前に見た、アスモデウスのあの眼差し。悪魔だけど、何故だか酷く優しそうに見えて。
急に精神体を拉致されて、あんな事やこんな事をしてくるのはいただけないけど、悪人……ではない感じがする。多分。
まぁ、触手の魔物には困ったけれど。

「ヴィクトリア様、本日の昼食はお口に合いますか？」

フィルが柔らかな笑みを浮かべて、昼食を食べる私に問い掛けてくる。私が「美味しいわ」と答えると、満足そうに深紅の瞳を細めた。

「む。紅茶のおかわりは要るか？」
「ナハト！言葉遣いがまた……」
「ふふ。いいのよ、フィル。今は周囲に誰もいないし。ナハト、おかわりをお願い」
「畏まりました」
「……ヴィクトリア様。あまりナハトを甘やかしては……！」

……何だか、こんな穏やかな昼休憩は久しぶりな気がする。こんな日々がずっとず～～っと続けばいいのに。

……………………
…………

この後、暫くしてからエリックやジルベール、アベルやレオンハルトがヴィクトリアを構う為に庭園へやって来るのだが、この時のヴィクトリア達はまだ何も知らなかった。


そうして、意図せずして彼等を侍らせているヴィクトリアを見て、憎々しげに歯噛みする少女達・・・の存在が在ることにも。


＊　＊　＊