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《分岐》グリード・ルフス
戦争の結末⑤
しおりを挟むグリードはあの時の言葉通り、すぐに術者である魔法師を見つけ出し、戦争を終結させる為に尽力した。その甲斐あって、戦争は数日で終結。しかし、後処理に時間が掛かり、すぐに会う事は叶わなかった。
私は一度砦から騎士団本部へ戻り、お父様が迎えに来てくれて実家であるバルトフェルト家へ帰った。しかし、当然ながらお父様もお母様もカンカンに怒っていて、私は一ヶ月の謹慎を言い渡されてしまった。まぁ、これだけの事をしておきながら一ヶ月の謹慎で済ませるなんて、やっぱりお父様とお母様は私に甘過ぎると思ったが、そう思った事は私の胸の中だけに止めておいた。口に出してしまったら絶対に罰が更に重くなってしまうと分かっているからだ。
グリードとは、まだ会えていないけれど、彼の無事は既に新聞などで知っていたので、それほど焦ってはいない。ただ、隣に並んで戦えなかった事だけが、心残りだけれど。
「あんなに練習したのに、使わなかったなんて……」
絶対防御を使用する機会は無かった。だが、これで良かったのだとも思う。
「救出作戦も、戦争も終わって、お兄様もお父様も悪の道には堕ちなかった。なら、もう何も心配ないのかな?」
強制退団から、なんだかんだと一月程が過ぎようとしている。あの時は本当に焦っていたし、何とかしなきゃと必死だったけれど、結果的には、スペード王国側は死者も出さず、完全勝利した。ゲームの中では禁術の使用でかなり苦戦していたのに、この違いは何なのだろうか?
「戦争前に退場させられたのは、私がモブだったからかな?それとも、本編には一ミリも出てなかったけど、攻略サイトに少しだけ設定があったせい?」
“悪役令息オリバーの妹は、オリバーや父親が関与していた事柄に全く関わっていなかった為、恩情により修道院行きとなった”。
「何が影響していたのか、なんて。いくら考えても分かるわけないよね」
バルトフェルト家の自室にて、ロゼリアがそう小さく呟きながら頬杖をつき、窓の外をぼんやりと眺めていると、コンコンとノックの音と共にメイドの声が聞こえてきた。
「ロゼリアお嬢様、お客様がおいでです」
「え?」
「旦那様からのご指示で、既にサロンにてお待ちいただいております。お仕度がお済み次第、サロンへお越し下さいませ」
「……分かりました」
「では、失礼致します」
「…………」
“お客様”?
その一言にドキリとした。
まさか、という思いを抱きながら、元々着ていたワンピースの上に薄い涼しげな上着を羽織ると、足早に自室を後にして、逸る気持ちを抑えながらサロンへと向かう。
(まさか、グリード?)
胸を高鳴らせながらサロンの扉を開けると、目に飛び込んできたのは大好きなディープグリーン。
サラリと揺れたディープグリーンの髪色をした男性がこちらへ振り向くと同時に、私は「グリード!」と彼の名前を呼びながら、その胸に飛び込んでいた。
「……ロゼリア」
落ち着いた低い声音で、少しの甘さを滲ませながら名前を呼ばれたら、頭の芯が痺れるような感覚に襲われた。ぎゅっと抱き締められて、懐かしい彼の香りが鼻腔をくすぐった。
顔を上げれば、宝石のようなエメラルドグリーンの瞳と目が合った。
どうやら気持ちを自覚してから相手を見ると、元々美形だったのが更に格好よく見えてしまうらしい。私はグリードを見つめて、ボンッと顔を真っ赤に染めた。
「約束通り、会いに来た。遅くなってすまない」
……………………
…………
お父様が笑顔で青筋を立てていた。
そうだよね。
お父様の指示でグリードはサロンへ通された訳だから、客人を一人になんてする筈ないよね。私の仕度があった訳だし。
「……色々と言いたい事はあるが、それらは一先ず置いておこう。ロゼ、前に話した事を覚えているか?彼との婚約の話だ」
「へっ?!」
あれ?!
そういえば、そんな話あったよね?!というか、待って!何で今、本人を前にしてその話?!恥ずかし過ぎるというか、お父様、どういうつもりなんですか?!
「あの…………お、覚えてます、けど……」
「実は、彼のお父上からは是非ともお願いしたいと快諾されていてね。後は本人達次第という事なんだが……」
ちょぉぉぉっとおお?!!
何勝手に話を進めてやがるんですか、お父様ぁぁぁ?!
しかも本人達次第って、仮に私がOKしてもグリードが嫌だって言ったら公開処刑もいいところだよっ?!というか、何でまだ青筋立ててんの?!怒りたいのはこっちの方だからっ!!
私が恐る恐るグリードの方へ視線を向けると、グリードは固まっていた。ポカンとした顔をして、形の良い口が僅かに開いている。
こんな表情のグリードは初めて見たかもしれない。あれ?もしかしてグリード、この話、知らなかったんじゃない??
「おや?まさか君は、お父上からこの話を聞いていなかったのかい?」
お父様からの問い掛けに、ハッと我に返るグリード。珍しく焦燥を浮かべながら視線を彷徨わせ、「はい」と返事をする。
「そうか。ならば、今すぐ答えを出すのは難しいな。まぁ、うちの愛らしいロゼリアとの婚約話をされて戸惑わない筈がない。ロゼリアにはロゼリアをしっかりと守ってくれる強い男を伴侶にと思っていたのだが、やはりまだ早すぎたかもしれないな。この話はしばらく……」
「婚約します」
お父様の言葉を遮るように、その爆弾は落とされた。
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