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《分岐》アレク・ユードリヒ
危機的状況からの回避
しおりを挟む(どうしてロイは、私が女だと知ってるの?というか、どうして確信しているの……?)
ロゼリアがロイの言葉に動揺し、困惑していると、突然辺りが眩い光に包まれた。そして次の瞬間には、上空にあった敵側の巨大な古代魔法陣がパキパキと崩れ去っていく。どうやらグリードとバルトロが間に合ったようだ。二人は宣言通り、何とかしてくれたらしい。
古代魔法陣が消えると、ロゼリアは空へと掲げていた両手を下ろした。空にあった【絶対防御】も、魔力供給を止めた為に、ゆっくりと消えていく。
近くに居たジェラルドが各所からやって来た伝達係の騎士達から報告を受け、戦闘が終わった事を皆に知らせた。
「危機的状況は回避されました。各所の戦闘も終わったようですが、何時また攻撃されるか分かりません。警戒だけは怠らないように!」
警戒を促すと共に、ジェラルドは騎士達へ命令を下す。
「各自待機。今の内にしっかり休憩を取ってください!」
「「はっ!!」」
そうして騎士達への話が終わると、ジェラルドは迷わずロゼリアの方へ向き直った。傍へと歩み寄り、ロゼリアの足元に転がる空の魔力タンクを一瞥して、「セルジュ」と名を呼んだ。
「貴方には聞きたい事があります。一緒に来て下さい」
きっと【絶対防御】の事だろう。
あの最上位防御魔法は、五属性による複合魔法だ。過去の使用例は一度しかない伝説級の代物。
故に、使えばこうなる事は予測していた。きっと根掘り葉掘り聞かれるだろう。ロゼリアは瞳に不安の色を宿しながら、ジェラルドに答えようとした。すると――――
「待って下さい!」
アレクがロゼリアを庇うように、間に立った。次いでロイも、無言のままアレクの隣に立ち、後ろ手にロゼリアを庇う。
「あ、アレク?ロイ?」
「……これは一体、何の真似ですか?」
「申し訳ありません、ジェラルド様。ですが、セルジュは今とても疲弊しています!まずは休ませてやってくれ!」
「アレクの言う通りです。休ませてあげて下さい」
ジェラルドはアレクとロイを冷たい瞳でじっと見つめた後、二人の後ろに居るロゼリアへ視線を戻し、ふぅと小さく溜め息をついた。
「分かりました。話は後でいいです」
「!」
「ありがとうございます、ジェラルド様!」
「ありがとうございます」
アレクとロイが腰を折り、ジェラルドへ礼を告げる。ジェラルドはそんな二人を避けて、後ろに居たロゼリアに近付き、少しだけ瞳を細めた。
「ゆっくり休んで下さい。ですが、後で絶対に話を聞かせてもらいます。……逃げないで下さいね?」
「は、はい。ジェラルド」
ロゼリアは悪魔達との戦闘には直接加わっていない。けれど、ずっと超広範囲な防御結界を張り続け、騎士団を、王都を丸ごと守っていたのだ。その顔色からは明らかな疲労が見てとれて、ジェラルドはアレクとロイに命じた。
「貴方達二人はセルジュの護衛をお願いします」
「はいっ!」
「了解しました」
「……確か貴方達は、実力試験で昇格試験までいっていた方達ですね。三人で救護所へ行きなさい。きちんと治療するように」
「「はいっ!」」
「……」
ジェラルドはロイの怪我に気付いたのだろう。流石は『ガーディアンナイト』だ。
ロイは少し微妙な顔をしていたが、ロゼリアと一緒に居られるという事で特に文句は無いらしい。
「アレク、ロイ。心配してくれてありがとう」
「……馬鹿だな。礼なんていらねーよ」
「当然の事に礼なんて不要だ。……いや、しかし、セルジュの礼は貴重だな。もう一度、今度ははにかみながら言ってくれないか」
「あはは。アレク、早く救護所に行こうか」
「だな」
「え、セルジュ?どうして俺の名を言ってくれないんだ?」
ロイはどんな時でもロイであった。
ロゼリアはつい先程まで、ロイの前でどんな顔をすればいいのか分からなかった。けれど、今のやり取りで力が抜けた。
ロイはきっと、セルジュ・プランドルが本当は女なのだという事実を、誰にも言わないだろう。
「セルジュ?!」
ロゼリアはすっかり安心してしまって、それまでずっと張り詰めていた緊張の糸が、プツリと切れてしまった。その場でフラリと倒れ込み、ロゼリアはそのまま意識を失った。
* * *
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