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《分岐》バルトロ・グレイヴィズ
会議中は私闘を慎みましょう
しおりを挟むダルトン卿と呼ばれていたコールリッジ公爵の、国ぐるみの悪事が露呈し、各国から非難を浴びたダイア公国は、この大陸における四ヵ国の中で完全に孤立してしまった。
ダイア公国カエサル国王は、今回の件に関して王家は無関係であると主張したが、戦争を否とする貴族の穏健派やスート騎士団の半数以上が一分の王族に不信感を持ち始め――
民衆に至っては今までの悪政に加え、戦争を強行するために無理矢理徴兵しようとするカエサル国王への不満が爆発し、各地で暴動を起こすようになっていた。ダイア公国はいつ王家に反旗を翻す者が出てきたとしてもおかしくない程の切迫した情勢に陥ってしまったのだ。
もはや他国との戦争どころではない状況なのだが、更に悪い方へと足掻いたカエサル国王は、暴動を起こした者達を極刑に処すと宣言し、戦争を否定する者達を片っ端から断罪すると決めた。
『もはやこの国に未来は無い』
誰もがそう感じ取り、ダイア公国を見限って他国へ逃れようとするも、カエサル国王や王族を崇める貴族主義のエリート騎士達――近衛騎士を筆頭とした残りのスート騎士団半数の者達がそれを許さず、抵抗する民衆を弾圧し、制圧した。
捕まった者達はかなりの数に昇り、数千人以上は確実であったが、だれ一人として生きて帰ってきた者は居らず、死体としても帰って来なかった。
生きていたとしても、死んでいたとしても、彼等は一体何処に消えてしまったのか――――……
……………………
…………
「自国がそのような状態であるのに、宣戦布告、ですか。彼等は頭が悪いのでしょうか?」
騎士団本部。
第二会議室にて、スペード王国騎士団で最強と謳われるガーディアンナイト達と、次点の精鋭部隊であるナンバーズ達が集まっていた。
会議の内容は、ダイア公国からの宣戦布告についてである。
ジェラルドが溜め息をつきながら呆れたように口を開くと、次いでリアムが「まぁ良くはないよね」とクッキーをサクサク食べながら答えた。
「リアム様」
「なんだい?バルトロ。言っておくけど、お前に私のクッキーはあげないよ?」
リアムがクッキーの詰まった缶をガードする仕草を見せると、バルトロはにこりと穏やかな笑みを浮かべた。
「承知しております。そうではなくて、何故リアム様がナンバーズ側のソファーに座っていらっしゃるのですか?」
「私が何処に座ろうと、私の勝手だろう?」
「では、勝負致しましょう。僕が勝ったら、その席を譲って下さい」
「なんで私がそんな面倒くさい勝負を受けなくちゃならないのさ。絶対に嫌だね」
「勝負して下さい」
「嫌だ」
「ちょ、二人共止めて下さい!」
リアムとバルトロを止めに入ったのは、リアムの隣に座っていたロゼリアだ。
ロゼリアが第二会議室に来た時、まだリアムもバルトロも来ておらず、何となくいつもバルトロが寝そべっていたソファーへと腰を下ろした。
バルトロが気に入っているだけあって、このソファーの座り心地は柔らかくフワフワふかふかで最高に気持ち良かった。
(確かにこれは眠くなるかも。人を駄目にするソファーだ)
そんな事を思いつつ、フワフワふかふかを堪能していると、いつの間にかやって来ていたリアムがクッキー缶を大事そうに抱えながら、ロゼリアの隣にストンと座ってしまったのだ。
いつもガーディアンナイト達は会議室内の左側、ナンバーズ達は右側に座っているのに、今日は一体どうしたのだろうか?
ロゼリアが席を変えるタイミングを失い、どうしようかと思っていたところに、バルトロがオリバーと共に第二会議室へやって来たという訳だ。
恐らく二人は共に鍛練をしていたのだろう。制服は浄化の魔法を使ったのか、いつも通り綺麗だが、肌の露出している部分には擦り傷等が出来ていた。
ロゼリアの隣に座っていたリアムが、バルトロとオリバーの存在に気付き、ドヤ顔をキメた。ビシリと固まる二人。
会議が始まった為、オリバーは苦々しい顔をしつつも、近くの椅子に腰を下ろしたのだが、バルトロだけはずっとその場に突っ立ったまま、にこにこと此方を見ていて、先程の会話へと繋がったのだった。
穏やかな笑みを浮かべるバルトロに、リアムは胡散臭い笑顔で対抗している。間に挟まれる形となったロゼリアは気が気ではなく、大事な会議の内容がちっとも頭に入って来ないという重大な問題に直面していた。
「い、今は会議中ですから!その、このソファーがいいなら退きますし」
「セルジュはそのままで構いませんよ」
「え」
「バルトロ、今日は随分と態度が違うね?それとも、そういう作戦かい?前にもあったよね。わざと私を怒らせて勝負に持ち込もうとしたこと」
「そんな事ありました?」
「まさか、忘れたとは言わせないよ?クローゼットを開く度に思い出すんだからね。私のローブの色が全部ショッキングピンクになっていた時の、あの衝撃を」
「本当ですか?リアム様に今でも思い出していただけているとは恐悦至極に存じます。次は思い切って雪のような真っ白なローブなんてどうでしょうか?」
「バルトロ、いい加減に……」
リアムがバルトロの売り言葉に反応し、冷たい瞳で殺気を放ち始めた瞬間。団長のレオンがキツイ口調で二人を窘めた。
「いい加減にしろ、二人共。大事な会議の最中だぞ」
しかし、イマイチ説得力に欠けるのは、この第二会議室の独特な雰囲気のせいだろう。
「レオン。今回は私ではなくバルトロに非が」
「反省を含め、お前とバルトロは少し戦場で暴れてこい」
「「は??」」
レオンは額に青筋を浮かべながら、リアムとバルトロを軽く睨みつつ「詳しくはジェラルドに聞け」とだけ言って、書類を持って出ていってしまった。
リアムとバルトロはポカンと口を半開きにして、呆気にとられる。
「レオン……?」
「……珍しく、かなり怒っていらっしゃいましたね」
「というか、戦場でって……」
二人と一緒にロゼリアも困惑していると、ジェラルドが凍りつくような美しく恐ろしい笑顔でリアムとバルトロの首根っこを引っ掴んで捕獲した。
「さて、説明しますので別室に移動しましょうか。お馬鹿さん達」
「なっ、ジェラルド?!離し……」
「ジェラルド様は魔法だけでなく腕力にも長けていらっしゃるのですね!今度僕と鍛練致しませんか?」
「致しません。全く、貴方達は子供ですか??頭に回す筈だった養分も全部魔力に持っていかれてしまったのでしょうか」
「……ジェラルド。私を馬鹿にしているのかい?」
「ふふ、流石はジェラルド様。言い得て妙とはこの事ですね」
「…………」
こうしてリアムとバルトロは、引き摺られるようにズルズルとジェラルドに連行されて行かれたのだった。
そして、その翌日から地獄の日々が幕を開けた。
ダイア公国側にとっても、スペード王国側にとっても、悪夢と呼べる地獄の日々が。
* * *
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