上 下
220 / 245
《分岐》バルトロ・グレイヴィズ

愛称呼び

しおりを挟む


「――――僕は、貴女の名前が知りたいのです。教えて下さい」

私の名前?
どうして?バルトロは一体何を考えているの??

私がバルトロの言葉に戸惑っていると、バルトロは綺麗な若葉色の瞳を細めて、そっと優しく私の頬に触れた。

「……抵抗があるなら、ファミリーネームは言わなくていいですよ。何なら、愛称だけでも構いません」
「愛称だけでも?……それって、バルトロにとって、何のメリットにもならないのでは……?」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。……貴女の名前は?」

どうして、そんな熱っぽい瞳で私を見るの?
私の気のせい?……でも、何故だかその熱っぽい瞳に見つめられると、ただでさえ熱い身体が、更に熱く感じて――――
胸がきゅうっと苦しくなる。

「駄目ですか?」
「いえ。……本当に、魔導具を返してもらえるのですか?」
「ええ。約束しましょう」
「……分かりました」

もしかしたら、バルトロにはもう私がどこの誰だかバレてしまっているのだろうか?だとしたら、これはその確認??

(例えそうだとしても、私は……)

バルトロの瞳から、目を離す事が出来ない。互いにじっと見つめ合ったまま、私は自分の名前を口にしていた。本当の名前を。

「……ロゼリア」
「!」
「私の名前は、ロゼリアです」

私が名前を告げると、バルトロは大きく目を見開いて、若葉色の瞳を輝かせた。
輝かせ…………え?
なんで?

「ロゼリア。……なら、貴女の愛称はロゼか、リア、ですか?」
「はい。身内には、ロゼと呼ばれています」
「……そうですか。では、僕もロゼと呼んでいいでしょうか」
「へ?」
「……駄目ですか?」
「い、いえ。……二人の時なら、構いませんが……」
「そうですか。では、ロゼ」
「?」

私が首を傾げると、バルトロは微妙な顔をした。

「……返事は?」
「あ、はい」
「ちゃんと返事をして下さいね」
「はい。すみません」
「では、ロゼ」
「はい」
「ロゼ」
「何でしょう?」
「ロゼ」
「…………バルトロ?」
「返事は?」
「は、はい。……あの、何なのですか?」

バルトロはどうしてしまったの??
身体もしんどいし、そろそろ治癒師のところへ行きたいのだけど。
……そう思った時。

バルトロは何か満足したようで、僅かに口元を綻ばせた。
そうして、私の耳に手を伸ばし、自ら魔導具をつけてくれた。その仕草が、驚く程優しく丁寧で、私は思わず固まってしまっていた。

「ロゼとお揃いならば、この魔導具にも価値があるかもしれませんね」
「……っ」
「そうだ。僕の事も、二人で居る時は愛称で呼んで下さい」
「ど、どうして……」
「なんとなくですよ。……ほら、呼んでみて下さい」
「い、今ですか?」
「ええ。『今』です。呼んで下さい、ロゼ」
「~~っ」
「ロゼ」

どうして?
恥ずかしい。それに、さっきよりもお腹の奥が熱い。熱くて、ジンジンする。
何だか頭がボーッとするし、私、どうしちゃったの?

「ほら、呼んで下さい。ロゼ」

バルトロの瞳が、声音が、何故だか酷く甘く感じられる。

「バル……?」
「はい」
「バル」
「ふふ、良い調子です」
「バル。あの……」
「何でしょう?ロゼ」
「私……」


『治癒師のところへ行きたいです』

私はそう口にした後、ぱたりと意識を失った。
目が覚めた時、私はやっぱりバルトロの部屋のベッドに居たけれど、その時にはお腹の熱が消えていた。

ずっと私がバルトロのベッドを占領してしまっていたのに、バルトロは何故だかとても上機嫌で――――
私は訳が分からないまま、ただひたすらに首を傾げるばかりだった。


* * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

処理中です...