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《分岐》リアム
騎士団本部への帰還
しおりを挟むバルトロに複合魔法【影移動】を使用してもらい、まるで荷物のように担がれて騎士団本部へと帰還したロゼリアは、第二訓練場で待っていたノアに抱き締められ、その場で謝られた。
「ごめん、セルジュ!俺が浅はかだった。危ない目に遭わせて、本当にごめん。……セルジュが帰って来てくれて、本当に良かった……!」
ノアの瞳に涙が滲んでいた。
ノアの顔色は酷い有り様で、目の下には隈が出来ている。そして、さっきまでノアが居た所には、一人の少女が座っていた。その少女の視線はロゼリアに向いており、泣き腫らした顔でロゼリアにペコリと頭を下げた。
(ああ、きっと彼女が……)
彼女が、公爵家別邸の地下室でノアが名前を零したリーンなのだろう。
ふわふわとした長い金髪の青い瞳をした、とても女の子らしい見た目の、小柄で可憐な少女。ノアやオリバーと同い年なので、ロゼリアよりは年上の筈なのだが、童顔で実年齢より幼く見える。
(ノアはああいう子が好きなんだ。……救出、出来て良かった)
まもなくバルトロによってオリバーも騎士団本部へ無事に帰還し、オリバーはロゼリアとノア、二人の姿を確認するなり、直ぐ様二人を一緒にぎゅっと抱き締めた。何よりも大切なロゼリアと、ずっと傍らに居てくれた親友の姿を確認して、やっと安心出来たようだった。ロゼリアもオリバーを抱き締め返して、その温もりを確め、漸く身体の力を抜いた。
今回の救出作戦は、途中で想定外なハプニングが起きたものの、無事に成功した。
後はルークやフェリクス達が帳簿を持ち帰ってくれれば……
「セルジュとノアはもう休め。オリバーは俺と別室に来い。詳しい報告を聞く」
そうして、団長のレオンに声を掛けられた。オリバーは二人を離し、一瞬ロゼリアを愛おしげに見つめてから団長の後をついて行く。すると、ロゼリアが慌てて「待って下さい!」と抗議した。
「僕もオリバーと共に報告します!」
「……セルジュ、初任務で想定外の事が起こり、疲れただろう?職務を全うしようとするその姿勢は評価するが、もう休んだ方がいい。……お前はよくやった」
レオンの大きな手が、ロゼリアの頭をわしゃわしゃと撫でた。レオンの金色の瞳は優しげに細められていて、『帰ってきてくれて良かった』という気持ちがじんわりと伝わってくる。ガーディアンナイトの【キング】であり、騎士団団長のレオンに労われて、思わずロゼリアの目頭が熱くなった。
「……ありがとうございます、団長!」
「ああ。……オリバーも疲れているだろうが、もう少し頼む。行くぞ」
「私は大丈夫です。お気遣い感謝致します」
「それではまたな、セルジュ。ノア」
「はい!お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
レオンに向かって頭を下げた後、ノアはロゼリアに軽く手を振り、リーンの元へと走って行った。残されたロゼリアは、このまま第二訓練場に居ても仕方がないので、団長に言われた通り自室で休むことにした。
もう夜も深い。
ロゼリアは自室に戻り、シャワーを浴びて寝間着に着替えてから、暖かな布団の中へ潜り込んだのだった。
……………………
…………
翌日。
もう陽も高く、そろそろ正午近くだろうという頃、ロゼリアが布団の中でゆっくりと覚醒していく。
(ぬくい…………)
いつもより布団が暖かい気がする。
ロゼリアはまだ眠っていたくて、暖かな布団にしがみついた。
(…………あれ?…………)
暖かいが、何故かふかふかしていない。おかしいなと思って、ロゼリアが薄っすら瞳を開けると、最初に見えたのは黒く艶やかな長い髪。
(誰の髪?私の?…………違う。私の髪は、今は黒髪じゃない)
ぼーっとしたまま、その黒髪が誰のものなのか確認しようとしたロゼリアは、顔を上げた途端に、息を詰まらせた。
ロゼリアの隣には、何故だかこの場にいる筈の無い、リアムが居たからだ。
(ちょっ……?!ななななんでリアムが私の部屋に居るの?!というか、なんで同じベッドで、隣に寝てるの?!)
赤くなるどころか、みるみる青褪めていくロゼリア。当のリアムは、まだぐっすりと眠っている。
「り、リアム。起きて……!」
ロゼリアの呼び掛けにより、あと数秒でリアムは目を覚ますのだが、ロゼリアはすぐにリアムを起こさなければ良かったと後悔する事になる。その事を、この時のロゼリアはまだ知らない。
* * *
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