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《分岐》アレク・ユードリヒ
もしもセルジュが女だったら
しおりを挟む「なぁ、ロイ。セルジュがもしも女だったらどうする?」
「嫁にする」
「殺すぞ」
「……自分から訊いておいてどういう了見だ。即返り討ちにしてやる」
仕事の合間にある休憩時間。
気晴らしにと騎士団本部内にある中庭へ出ていたら、偶然にもロイがやって来た。アレクは未だ、数週間前に見た夢の事が忘れられず、頭を悩ませ続けていた。
(あの夜中の鍛練で見たセルジュは、本当に夢だったのか?)
雨に濡れたセルジュの肢体を思い出し、アレクは頭を左右に振った。
あの時、セルジュは上着を着ていなかった。やはり夢だったに違いないと思い直しつつ、そんな夢まで見てしまう程に、友人である男のセルジュを否定したいのかと、浅ましく愚かな自分自身に吐き気がした。
「……性別なんて、好きになったら関係無い筈だ。……そうだよな、ロイ」
「アレクは本当に頭が悪いな。関係無い訳がない。俺は男を抱いたりしない」
「はぁぁ?!お前、この間『好きなものは好きなのだから、考えたって仕方無い』って言ってたじゃねーか?!」
「ああ、そうだ。真実その通りだろう?俺は嘘なんて言っていない。だが男であるセルジュを抱けと言われたら、抱き締める事はあっても、頬擦りする事はあっても、行為には及ばない。当然だろう。俺は嫌がるセルジュを抱いたりしない」
「……っ!!ロイは、我慢出来るのか?」
好きになってしまえば、相手の全てが欲しくなるのは当然の事だろう。少なくとも、アレクはそう思っており、だからこそ、セルジュの性別が大きな壁となっているのだが……
ロイは驚くほどに漢らしく一途にセルジュを想いながら、性別の壁については潔い程に現実的で理性的であった。
「出来る。俺は一生我慢出来る。セルジュが傍に居てくれるなら、本能なんて捨ててみせる」
「……………………じゃあ、仮にセルジュが抱いて欲しいっつったら?」
アレクの質問に、ロイは珍しく驚いた顔をした。昔からそれなりに整った顔立ちのロイは、基本的にはセルジュが絡まない限り、無表情に近い仏頂面だ。セルジュの前ならば多少は表情筋が仕事をするのだが、長年友人であるアレクの前であっても、ロイの無表情はあまり変わらない。
しかし、今珍しく、ロイは動揺していた。どうやら学生時代からセルジュに邪険にされ過ぎていた為に、『セルジュから求めてくる』という事を欠片も想像していなかったらしい。これだけ一途であるのに、可哀想な奴だ。アレクは少しだけロイを不憫に思った。
「俺の想いに押し負けて、一緒に居る事を何とか承諾してくれたらと思っていたが……」
「お前、素でそんな事を考えてたのかよ。……セルジュは自分にもお前にも嘘をついたりしないと思う。もしも承諾してくれたとしたら、有り得ない話だが、それはセルジュもお前を好きになったって事だろ?」
「セルジュが俺を好きになって、俺を求めてくる……………………」
「いや、本当に有り得ない話だぞ?もしもの話だからな?その場合もお前は我慢すんのかって………………ロイ?」
ロイの顔が一気に真っ赤になった。
耳から首まで真っ赤になっており、口元を片手で覆っている。恐らく、セルジュとの事を想像したのだろう。アレクはそんなロイを見て、驚いたと同時に、かなりの苛立ちを感じた。
「いや、訊いた俺が馬鹿だったわ。今の質問は忘れていいから。ロイ、忘れていいから。つーか、忘れろ。今すぐ忘れろ。腹立つから想像すんな!!」
「久しぶりに鼻の奥が痛くなってきてしまった……!!くそ!!優しく抱いてやるからなっっ!!」
「ふざけんな!!何が優しく抱いてやるだよ?!マジでぶっ殺すぞ?!」
「ああああ!!セルジュに会いたいっ!!結局枕投げ出来てないし、今夜にでもナンバーズの寮に枕を持参してお泊まり会を……!!」
「や・め・ろっ!!!枕投げとか、騎士団に何しに来てンだよ、お前はっ!!!」
「セルジュと同じ空気を吸う為に決まっているっ!!!」
「馬鹿なの?お前本当に俺より頭いいの?!色んなところがヤバイから!!今から訓練場へ行くぞ、ロイっ!!!」
「望むところだ、この脳筋野郎!!!」
休憩時間はまもなく終了だと言うのに、二人は言い争いを続けながら訓練場へズンズンと向かっていく。
途中、部下となる上位騎士達に連れ戻される事になるのだが、二人の戦いは凄まじく互いにかなりの怪我を負ってしまった為、仕事の前に治癒師の元へ行く羽目になってしまった。
騎士団、診療所。
そこでアレクとロイは、セルジュがナンバーズとして任務の為にダイア公国へ行った事を知るのだった。
* * *
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