【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました！お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します！！

《分岐》アレク・ユードリヒ

夢か現か

『セルジュ。お前、女だったのか……？』
『………………』

俺は確かに、セルジュにそう言った。と思う。……しかし気付いたら、俺は何故だか寮の自室のベッドに居た。

（あれは俺の夢だったのか？）

つーか、頭いてぇ。
なんで？鈍器で殴られたように頭が痛くて重い。後で診療所に行こう。

（……まぁ、セルジュが女だったなんて普通に考えて夢だよな）

なんて都合の良い夢を見たんだ。
俺、相当重症かも。……………………本当に頭が痛ェ。今から診療所に行こ。


…………俺は夢だと思った。
服も濡れていなかったし、俺は何も気にせず、制服の上着を肩に引っ掛けて自室を後にした。
まさかこの後、遥かに自分と桁違いのイカれた野郎に、自分から喧嘩を売る事になるとは、露程にも思わずに。

……………………
…………

アレクが原因不明の頭痛で悩まされ、騎士団にある診療所へ向かっていた頃。セルジュことロゼリアは、あのバルトロに対して信じられない程に怒っていた。バルトロの仕事場にある机をバンッ！！と叩き、バルトロの恐ろしさも忘れて声を張り上げている。

「聞いてるんですか？！」
「セルジュ君、ずっと怒鳴りっぱなしですけど、喉は大丈夫ですか？」
「私の喉なんてどうだっていいんですよ！！あんな突然、アレクの頭に蹴りを入れるなんて……！アレクの頭が吹っ飛んだかと思ったじゃないですか！！」
「えー？僕は君を助けてあげたんですよ？……女だってバレたら、マズイのは君でしょう？」
「でも……！」

ロゼリアは鍛練に行く前、バルトロの部屋で仕事をしていた。時間も遅くなり、眠くなってきてしまった為、気分転換に鍛練をしようと第三訓練場へ行ったのだ。まさかそこでアレクに出会うとは、夢にも思っていなかった。

「上着を忘れてたから、わざわざ届けに行ってあげたんですよ？」
「……それは、ありがとうございました。でも、アレクの、友人の頭を蹴るのは止めて下さい」
「友人、ね。……まぁ、彼は大丈夫ですよ。確か彼は、この間の昇格試験で上位騎士になった団員でしょう？身体も一番丈夫そうでしたからね」
「………………書類、ジェラルドに持っていきますね」

まだ納得しきれていないロゼリアだったが、言いたい事は全て言い切った。それにバルトロを完全に説得するのは難しいと、今更ながらに思い直して、処理済の書類を両手で抱える。かなり頭に血が上っていた。
一度冷静にならなくては。

ロゼリアが書類を持って、バルトロの部屋の扉を開けると、バルトロがいつの間にかロゼリアの背後に迫っていた。
扉を開けたままの状態で、バルトロがロゼリアの腰を後ろからグイッと引き寄せて、耳元で低く囁く。

「ひゃっ……？！」
「セルジュ君。……僕、一応上官なんですよ？」
「ば、バルトロ？」
「先程の態度は上官に対して如何なものでしょうか？……けれど、普段は僕に対して怖がるくせに、さっきは全然怖がってませんでしたね？何だかそれが凄く不思議で、少し面白かったんです。……今から鍛練でもしませんか？」
「全力で遠慮します……」
「ええー？僕、今無性にセルジュ君と鍛練したいんですけど」
「は？」
「鍛練して下さるなら、先程の態度は不問にしますよ？」

（―――なんで？）

ロゼリアには、バルトロが何故弱い自分と鍛練したいと言い出したのか、皆目見当もつかない。
不思議に思って振り返ろうとした時、すぐ近くから殺気を感じた。

まるで隠そうとしていない、その殺気を放っている者は、真っ直ぐに正面から此方を―――バルトロを睨んでいた。
寮の向かい側、バルトロの部屋が見える正面の数メートル先に居たのは、診療所へ向かう途中のアレクだった。

「アレク……？」


＊ ＊ ＊