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本編

第二会議室③

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『お揃いですよね。この耳飾り・・・

私の耳飾りは魔導具だ。
この魔導具を使って、瞳の色を灰色からアクアブルーに変えている。バルトロの瞳は、両目とも綺麗な若葉色。前世のキャラクター紹介で見たままの姿だ。なのに――

(なんで、この耳飾りを?)

私の心臓がドクドクと嫌な音を立てる。私が瞳の色を偽っているのだと、バルトロにバレてしまった。

『後で僕の部屋に来て下さると嬉しいです。昨日は門前払いでしたから』

昨日、私は救護所に泊まった。怪我はグリードが治してくれていたけれど、私の身を心配してくれたお兄様とグリードが、誰も部屋に入らないように取り計らってくれていたのだ。バルトロも例外ではなかったようで、どうやらそこで門前払いをされたらしい。バルトロを門前払い出来るなんて、一体誰が?

私が青褪めて凍りつきながらも、混乱する頭であれこれ考え込んでいると、グリードとバルトロが言い合いを始めてしまい、終いには二人共レオンに拳骨を喰らって吹っ飛ばされてしまった。
私が急いでグリードの吹っ飛んでいった方を確認すると、グリードは殴られる寸前に身体強化と防御魔法を発動させていたようで、無傷の状態で眉間にシワを寄せながら、むくりと起き上がっていた。むしろグリードより第二会議室の壁の方が重症だ。私が安堵して胸を撫で下ろしていると、レオンが口を開いた。

「お前達、いい加減にしろ。これでは話し合いにならないだろう。セルジュのナンバーについては、また後日決める。俺もグリードの意見に賛成だが、ナンバーズのトップであるバルトロの承認が無くては、どの道決定出来ないからな」

レオンの言葉を聞いて、ジェラルドが「仕方ありませんね」と言って溜め息を零した。

「テオドールも展開しようとしていた魔法陣を消せ。ここは会議室だ。標的固定の全方位魔法なんて、会議室の床に風穴を開けるつもりか?」
「は~い。すみません、団長」
「それから、バルトロの言動は少し目に余る。今日はもう鍛練禁止だ。部屋で溜まっている書類を片付けろ」
「なっ?!」

グリードとは反対側に吹っ飛んでいたバルトロは、それまで壁に身体をめり込ませていたが、鍛練禁止と言われてメコッと埋まっていた身体を引き抜き、絶望的な顔をする。
身体強化はしていたようだが、防御魔法までは発動させていなかったようで、また新たに傷が出来ている。

「レオン様、それはあんまりではありませんか?!」
「煩い。今日はもう解散だ。追加の書類もやるから一緒に来い、バルトロ」
「追加の書類?!」

レオンがそう言って、さっきまでの勢いが嘘のようなバルトロを引き摺り、第二会議室から出ていくと、ジェラルドも席を立った。そして、私に向かって申し訳なさそうな顔をする。

「すみません、セルジュ君。不安にさせてしまいましたね。ですが、君はもうナンバーズの一員。何も心配せずに待っていて下さい」
「……っ。はい、ありがとうございます。ジェラルド様」
「ジェラルドと呼び捨てていただいて構いませんよ?」
「い、いえ!そういう訳には!」
「私もセルジュと呼ばせて貰いますから。ね?」
「………………わ、分かりました。ジェラルド」
「セルジュは良い子ですね。それではまた」
「はい!」

ジェラルドが部屋から出ていくのを見送って、私はグリードの方へ行こうと思い、椅子から立ち上がった。けれど、駆け出そうとした私の手は、テオドールに捕まってしまう。

「グリード!大丈……」
「セルジュ」
「……テオドール?」
「色々訊きたい事があるけど、今はまず、また君に会えて嬉しいよ。昨日の昇格試験で君を見た時は、バルトロへの怒りでどうしようもなかったけどね。……怪我はちゃんと治してもらったのかい?」
「昇格試験は、単に僕の力不足が原因だから。でも、心配してくれてありがとう。怪我は大丈夫。グリードが綺麗に治してくれたから」
「…………グリードが?」

ピクリと反応し、露骨に嫌そうな顔をするテオドールを見て、私はテオドールのグリード嫌いを思い出す。
そして、暫く見ていない内に、テオドールが随分成長している事に気付いた。身長はお兄様と同じくらいだろうか?フワフワとしていた長い髪は、昔と同じように片側サイドに流しているが、緩い三編みにしてある。幼さが抜けて大人っぽく、より美形になっていて、男の子の成長は著しいなと実感した。
思わず意識してしまって、テオドールの手から逃れようと、私は慌てて手を引き抜こうとする。

「て、テオドール、手を離してっ。僕、グリードに……」
「駄目。グリードなんか放っておけばいいよ。それより、この後時間はあるかな?訊きたい事もあるけど、聞いて欲しい事があるんだ。……僕との『約束』、覚えているかい?」

『約束』?
確か、聞いて欲しい事があるって、前に言っていたけど、それをこの後にって事?

私がテオドールの手を振り解けずにいると、今日の朝、ヒロインであるジェシーから助けてくれた時と同じ様に、グリードがテオドールの手を私からグイッと引き剥がした。

「……止めろ、テオドール」
「グリード、邪魔をしないで欲しいんだけど?僕は今、セルジュと大事な話をしているんだ」
「そうか。悪いが俺はテオドールの話には毛程も興味が無い。この後、お前は仕事が入っていた筈だ。早く行け」
「まだ行く時間じゃない」
「いいから行け。先程のセルジュの顔色を見ていなかったのか?お前の用事など知った事か。何なら力ずくで黙らせてやってもいいんだぞ?」
「?!……クソッ!」

パシッとグリードの手を振り払い、テオドールは悔しそうに唇を噛んでグリードを睨み付けた。その後、私に視線を向けて「ごめん、セルジュ」と言ってから、寂しげな顔をした。

「セルジュがナンバーズとして落ち着いた頃に話すよ。本当にごめんね。……ノア、行こう!またね、セルジュ!」

会議室を出ていくテオドールに次いで、ノアも扉に手をついた。けれど、少し振り返って私をじっと見つめる。一体どうしたのだろうか?

(……ノア?)

しかし、ノアは開きかけた口を閉じて、何も言わずに行ってしまった。あんなノアは今まで見たことがない。私が戸惑っていると、グリードに名前を呼ばれた。

「セルジュ」
「……っ。グリード!その、さっきは大丈夫?」
「ああ、問題ない。それより、バルトロに何を言われたんだ?酷い顔色だった」

グリードが心配そうな顔をして手を伸ばし、私の頬にそっと触れた。さっきまでのグリードとはあまりに違いすぎて、私は無意識に息を呑む。
私は、グリードに対しての気持ちが分からない。だから、色々とやるべき事が終わった後で、ゆっくり考えさせて欲しい。そう思うのに、自然と鼓動は速くなってしまうから、私は思い通りにならない自分自身に少し腹が立ってしまう。優しいグリードに、甘えてはいけない。

「大丈夫です。何でもありません」
「…………何故だ?」
「え?」
「何故そんな、見え透いた嘘をつく?」
「う、嘘なんかじゃ!僕は本当に……」
「…………俺では頼りないか?」

グリードの瞳が切なげに揺れた。
今朝とデジャブな気がする。罪悪感が酷い。でも、今グリードに甘えて、頼ってしまうと駄目な気がするから。

「違う。そうじゃない。グリードは、凄く頼りになる。だけど、そういう事じゃなくて」
「……面白くないなぁ」
「?!」

それまであまりに静か過ぎて、すっかりその存在を忘れてしまっていた。第二会議室内には、まだリアムが残っていたのだ。リアムは座っていた椅子から立ち上がり、私とグリードに視線を向けながら、スタスタと歩いてくる。

「リアム、何の用だ?」
「君に用はないよ。セルジュ、私はこれからレオンのところに行ってくる。ナンバーはまだ決まっていないけど、任務にそれは関係ないからね。決まったら知らせに行くから」
「任務?……待て。一体何の話だ?」
「さぁ?君には関係ない話さ。ね、セルジュ?ほら、 私に言うべき言葉は?」

いつもの胡散臭い笑顔。私はハッとして、リアムに頭を下げた。

「―――お願いします!」


* * *
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