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本編

焦るな*グリードside*

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魔力を流してすぐに、ロゼリアが意識を失ってしまった。

(―――なんだ?)

俺は、何故ロゼリアが意識を失ってしまったのか、すぐには理解できなかった。けれど、前にロゼリアが魔力暴走を起こした時に、多量に魔力を流して眠らせた事を思い出した。

(そうだ。これはきっと、あの時と同じ。……俺は流す量を間違えてしまったのか?)

一先ず俺は、ロゼリアを抱き上げて場所を移動する事にした。抱き上げた瞬間、ロゼリアの手元から魔力タンクがカランと音を立てて、地面へと転がり落ちる。俺は抱き上げているロゼリアごと身を屈めて、魔力タンクを拾い、ガラス管の部分を確認してみた。すると……

(僅かに魔力が溜まっているな)

俺の魔力にロゼリアの魔力がほんの少しだけ混じった魔力。俺は身体強化を発動させ、ロゼリアに衝撃が弱まるようにシールドを張り、騎士団本部へと移動した。本部にある『ガーディアンナイト』専用区域の休憩室へ連れていこうと思ったのだ。第一訓練場の救護所では、また先程の女が来るかもしれない。

(休憩室の方が安全だし、人も来ない)

そう思って、俺はロゼリアを休憩室へと連れていき、休憩室に置いてあるソファーに、ロゼリアを抱えたまま座った。
意識の無いロゼリアの顔は、何故だか可愛らしく朱に染まっていて、俺は少しだけドキリとしてしまう。妙な気分になりそうだったので、俺は意識を無理矢理先程の魔力タンクへと移した。

「……ロゼが触れてさえいれば、勝手に魔力を吸い上げる仕組みのようだ。意識的に注ぐ時と違い、吸い上げる時はかなり少量のようだが。……意識がないなら、今流してみるか」

ロゼリアからの珍しいお願い事。
魔力タンク一本を満タンにするには、時間が掛かるのだろうか?
俺は片手を外し、抱えていたロゼリアを俺に凭れさせ、もう一方の手で倒れないように支えた。空いた方の手で魔力タンクをロゼリアの手に握らせて、更に落とさないように俺の手で包むように握る。支えている方の手の指を魔道管に当てて、準備完了。

「……ロゼ。また魔力を流すが、お前は安心して眠っているといい」

すぐ近くにあるロゼリアの耳元にそう囁いてから、俺は魔力を流した。その途端、寝ているロゼリアがビクリと身体を揺らしたけれど、拒否反応は出ていない。俺は不思議に思いつつも、更に魔力を流した。二人で握っている魔力タンクを見てみると、少しずつだが、目に見えて魔力が溜まってきている。この調子なら、数時間と掛からず満タンに出来そうだ。今のところ急ぎの仕事はないし、ゆっくりと魔力を流して、昼までに満タンにすればいい。
そう思って流す量を減らしていくと、意識の無い、眠っている筈のロゼリアの呼吸が少し浅い事に気付いた。

「ロゼ?……また呼吸が…………ああ、そうか。そういえば、俺の魔力が気持ちいいと言っていたな。呼吸が乱れる程なのか?勝手に魔力を流してはマズイだろうか?」

昨日の今日だと言うのに、うっかり失念していた。
ロゼリアの意識が戻ってから、きちんと了承を得て、流した方が良いかもしれない。魔力タンクを満タンにすれば、ロゼリアの役に立てると思っていたのだが。俺は少しだけ残念に思いながら、徐々に魔力量を減らして流すのを止めようとした。けれど……

「……っと……」
「ロゼ?……起きたのか?」

ロゼの顔を見てみると、まだ瞳は閉じられていて、起きてはいないようだった。ならば、今の声は無意識か?寝言のようなものだろうか。

「ロゼ?」
「……もっと……」
「!」
「もっと、欲し……ぃ……」

これは都合のよい幻聴だろうか?

しかし、その言葉を聞いた瞬間に、俺は再び魔力を流してしまっていた。魔力タンクに、みるみる魔力が溜まっていく。ロゼリアに求められた事で、俺はもう何も考えられなくなっていた。
欲しいと乞われているのは魔力なのに、俺は違うものが欲しくなる。胸の深いところで、激しく渇望している。色恋とは、こんなにも苦しいものなのか。
どうしたら、この苦しさは消えるんだ?ロゼリアの騎士になれたら、この渇望は消えるのか?

「……っと……グリー…、ド……」
「ああ、ロゼ。ロゼ。……魔力だけじゃなく、俺の全部をくれてやる。だから………!」

俺はお前が欲しい。
お前だけが欲しい。
この渇望は、騎士になれても消えないのかもしれない。けれど。

またロゼリアの長い髪が見たい。
紫がかった、美しい青い髪だった。印象的な、大きな灰色の瞳に、俺だけを映して欲しい。
こんな風に激しく誰かを欲するのは初めてだ。まるでこの身が焼けてしまいそうな程に―――……

「……お前が好きだ、ロゼ」

昨日、いつまでも待つと言った言葉に嘘はない。だが、こんなに苦しいとは、予想していなかった。この苦しさに耐えられるのかと、俺は少し顔をしかめる。

(……大丈夫だ。この痛みごと、全て受け入れよう)

この痛みは、俺がロゼを想う確かな証。まずは魔力だけでなく、俺自身を見てもらう。全てはそれからだ。

「お前が俺を欲してくれた、その時に……」

今にも溢れそうな想いを必死に抑え、途切れそうな理性を働かせて、俺は目を瞑った。

「魔力タンクが溜まるまでだ。今は、それだけでいい」

焦るな。
ロゼリアは騎士団に居るんだ。騎士団に居る間は、いつでも会える。
……焦るな。
俺は、ロゼの全てが欲しいのだから。


* * *
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