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本編
実力試験当日③*後半ロメオside*
しおりを挟む見習い騎士達の実力試験が行われている第一訓練場にて。そろそろ呼ばれる頃だと思い、私は俯いたまま控え室から出て、試験会場である訓練場へと足を踏み入れていた。
「次、セルジュ・プランドル!前へ!」
「はい」
正直言って、私の頭の中は未だに混乱している。
……大好きな親友二人からの告白に、冷静でいられる訳がない。しかし、そんな私とは違って、二人はしっかりと実力試験で試験官に勝ち、今は昇格試験中だ。第一訓練場はかなりの広さで、一度に数人が試験を受けられるのだが、昇格試験ともなると動きや技の威力が桁違いとなってくるので、アレクは第二訓練場へ移動したらしい。ロイはそのまま第一訓練場で試験中だが、そろそろ決着がつきそうな感じだ。ちなみに今回ルームメイトのリオは、実力試験の順番が最後の方なので、まだこの場にはいない。恐らく寮の自室か、見習い騎士用の観覧席に居ると思う。
実力試験の相手は上位騎士の人だ。私は通常の身体強化と属性特有身体強化を発動させ、剣を抜いて構えた。上位騎士の人も身体強化を発動させて、綺麗な姿勢で剣を構えている。
「試験官のロメオ・ツェルゴだ」
「セルジュ・プランドルです。宜しくお願いします」
…………ん?
今この人、ツェルゴって言った??
私がじっと見つめると、サラリとした綺麗な金髪の、切れ長な茜色の瞳をした彼が、剣を構えたまま「すまない」と口にした。
「愚弟が君にした事は、騎士として恥ずべき事だ。兄である私が代わりに謝罪しよう。本当にすまなかった」
ああ!
やっぱりデミールのお兄さん!!
ツェルゴって言うから、そうかなって思ったんだよね。
成程。兄であるロメオさんは、実力試験で試験官を任される程の、優秀な上位騎士のようだ。ロメオさんの謝罪に、私は正直な気持ちで答える。
「……デミールのやった事は、正直言って許す気はありません。だけど、お兄さん……ロメオ先輩の言葉は貰っておきます」
「感謝する」
「いえ。僕は優しい兄という存在に弱いだけですから」
「……君は兄君が好きなのか?」
「はい。とっても」
「………………そうか。羨ましいな」
ロメオ先輩は、少しだけ寂しそうに微笑んだ。デミールとの兄弟仲は、あまり良くないらしい。まぁそうだよね。こんな優しそうなお兄さんと仲が良かったら、デミールだってあんな馬鹿な事するような人間になってないだろうし。
「試験を始めよう。悪いが、手加減は出来ないぞ」
「分かっています。僕も本気でいきますから」
私は剣を構えているが、腕には魔力タンクを二本セットした魔導具と、制服の中に暗器を装備している。出来れば魔力タンクは使いたくないけれど、今回の試験では確実に『ナンバーズ』にならなくてはならない。
背に腹は代えられない。
「ありがとうございます、ロメオ先輩」
「?」
「先輩と話した事で、気持ちが落ち着きました」
「……そうか。それは良かった」
さっきまで、ずっとアレクとロイの事ばかりが私の頭の中を占めていたけれど、今は昨日の事を思い出したせいか、気持ちが引き締まった。
私が防御魔法を展開していなければ、アレクが酸を浴びていた。後から聞いた話では、あれは魔物討伐用のもので、万一の護身用の為に持ち歩いていたものだったそうだ。ただ、今まで一度も使用した事がなく、どの程度効果があるか知らなかったらしい。……昨日は偶々間に合った。だけど、次はどうなるか分からない。
次は、いよいよノアが死ぬかもしれない任務なのだ。
―――私がもらう。
その任務は、誰にも譲らない。
審判から、「始め!」と声が掛かった。その瞬間、私は地面を蹴って既に発動させていた時属性と風属性の威力を上げた。出し惜しみはしない。私は以前よりも更に完成された残像剣を、上位騎士である試験官のロメオ先輩に打ち込んだ。
* * *
*ロメオ・ツェルゴside*
私は上位騎士のロメオ・ツェルゴ。五大商家、ツェルゴ家の嫡男だ。
今回、見習い騎士達の実力試験で試験官をしている。当然試験官は私一人ではなく、数人は控えているが、今のところ倒された試験官は二人だけ。ロイ・シャロッツと、二刀流のアレク・ユードリヒ。見習い騎士達の中で、この二人の動きは別格だった。我々上位騎士達が今回昇格試験までいくだろうと思っていたのは、騎士団の団長である『ガーディアンナイト』の【キング】、レオン様の弟君だけだ。だからこそ、彼の順番は実力試験の最後の方に回されたのだが……
騎士団にとって、これは嬉しい誤算だ。ロイ・シャロッツとアレク・ユードリヒは、間違いなく即戦力。今回の昇格試験に落ちたとしても、恐らく私と同じ上位騎士までは一気に昇格するだろう。それだって異例の事だ。そもそも今回のように、見習い騎士が急に『ナンバーズ』への昇格試験を受けるなんて、有り得ない事なのだから。通常であれば、年に数回ある実力試験で認められた後に、中位、上位と段階を踏む。
今回はダイア公国との戦争を控えている為の非常事態だから、このような異例も致し方ない。
騎士団は特異枠こそ存在するが、基本は完全なる実力主義。入団したばかりの者に直ぐ様隣に並ばれるのは少々悔しい気持ちもあるがな。
それに、ロイ・シャロッツとアレク・ユードリヒの他は、レオン様の弟君以外、もう昇格試験までいけそうな見習い騎士は居ないだろう。私はそう思っていた。他の上位騎士達も、私と同じ様に思っていた事だろう。しかし―――
(これは一体どういう事だ?)
私が何度剣を振っても、目の前の見習い騎士は倒れない。私より背も小さく、身体も華奢で、こう言っては何だが、彼は他のどの見習い騎士達よりもひ弱に見える。なのに。
「なんて硬さだ……!」
「それは……っ。褒め言葉として受け取っておきます、ねっ!!」
「くっ?!」
私が振り下ろした剣を、小さな見習い騎士であるセルジュ・プランドルが下から受け止めて押し返してくる。力で押し負ける等、考えられない。けれど、剣を交えれば交える程に、セルジュ・プランドルの防御が硬くなっていく。
「どうなっているんだ?それに、その剣……っ」
回避したと思っても、身体に当たってしまう。何故だか剣がブレて、残像が見える。それは私だけではないようで、審判をしている騎士も、観覧席に居る他の騎士達も驚愕に目を見開き、言葉を失っている。
私は見た目だけでこの少年の実力を判断していた己を恥じた。最初に手加減は出来ないと伝えてはいたが、本当に全力でいかなくては、私は負けてしまうだろう。
「全力でいく。こちらも、出し惜しみ無しだ」
私がそう言うと、セルジュ・プランドルは好戦的な眼差しで私を見て、口角を上げた。
「望むところだ……!」
* * *
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