68 / 245
本編
赤髪の青年
しおりを挟む再び建物内に運び込まれてしまった私の手足には、縄ではなく鎖がつけられた。魔法で切られない為だろうけど、痺れさえ無くなれば身体強化でどうとでも出来る。
そう思っていたら部屋の扉が開き、さっきの男達とは違う、きちんとした身なりの見知らぬ男が二人、中へと入って来た。一人は壮年の男性で、年齢は私のお父様くらいだろうか。もう一人は年若い青年で、恐らく10代だろうと思う。その青年は、まるで紅葉のような鮮やかな赤い髪に、赤い瞳の、とても整った顔立ちをしていた。そして、そんな二人は私を見て目を見張った。
「成程。確かにこの顔は双子の片割れのようだが。何故このようなはしたない格好をしているのだ?」
壮年の男性が疑問を口にすると、元から室内に居た男達が、その疑問に答えるべく口を開く。
「閣下、それと……長旅ご苦労様です。閣下達がこちらに来る前、一度自力で逃げ出しやがって。その時に自分でスカートの裾を切ったみたいなんですよ」
「へぇ。どうやら相当なじゃじゃ馬のようですね。でも、気に入りました。こんなに美しいとは、嬉しい誤算だ」
「……それはようございました。ならば公国に戻り次第、すぐに婚約させましょう」
「ええ、それでお願いします。……ダルトン卿。少し、二人にしていただいても?」
「承知しました」
壮年の男性が部屋から出ていくのと同時に、他の男達も部屋から出ていく。男達は壮年の男性を「閣下」と呼んでいたが、どうにも壮年の男性より、部屋に残った赤髪の青年の方が身分が高そうだ。そして、閣下と呼ばれた壮年の男性はダルトンという名らしい。ダルトンの疑問に答えた男は、何故だか青年の名も敬称も口にしなかった。
どういう事なのだろう?
私が思考を巡らせていると、赤髪の青年は静かに私に近付いて、床に寝かされている私の横に片膝をついた。そして徐に私の長い髪を一房掬い取ったかと思うと、ごく自然な動きでキスを落とす。
「美しい姫君。貴女のお名前は?」
「…………」
これが貴族の夜会ならば、今の動作ひとつで、この青年は年頃の令嬢達を虜にしていたに違いない。けれど、私は貴族ではないし、ここは夜会会場でもないのだ。
私が答えずに思い切り睨み付けると、赤髪の青年は不思議と嬉しそうに瞳を細めて口元を綻ばせた。そして突然、ミニスカートとなってしまっている私のスカートの裾を少しだけ捲り上げ、私の右の太股に触れた。
「?!」
「いけないな、こんな所に刃物を忍ばせて。武器を携帯する為のベルトは、私が外してあげますね」
私の太股には、ナイフと魔力タンクが装備してあったのだ。それを一瞬で見抜かれた。赤髪の青年は笑みを浮かべたまま、ナイフと魔力タンクを抜いて、太股に巻いてあるベルトの留め金を外した。しゅるりとベルトを取り、その跡を指先でなぞる。
「ほら、綺麗な白い足にベルトの跡がついてしまっている。貴女は私の花嫁になるのだから、今後は気を付けて下さいね。……ん」
「ひっ……何、して……っ?!」
次の瞬間、私の全身にゾクゾクとした寒気が走った。
赤髪の青年が更に身を屈めて、私の太股についてしまったベルトの跡に、自身の舌を這わせ始めたからだ。気持ち悪くなり、私は瞳に涙を滲ませる。
身体が痺れていなければ、今すぐ蹴り飛ばしてやるのに……!!
「やっ!……やだぁ……!!」
「可愛い声ですね。結婚は成人してからになりますが、それまでに嫌がる貴女を従順にさせてみせましょう。……ほら、抵抗していいですよ?まぁ抵抗したらその短いスカートでは、中が丸見えになってしまいますけど」
「……っ?!」
「ああ、そんなに瞳に涙を溜めて。……そそるなあ。でも、困りましたね。痺れ薬が効きすぎていて、抵抗出来ないのでしょう?魔力封じの首輪をつければ、痺れ薬なんて必要ないのに……ああ、本当に綺麗な肌だ」
赤髪の青年が太股に舌を滑らせる度に、吐き気が襲ってくる。私は必死に耐えながら、嗚咽混じりに助けを求めた。ここには居ないと、分かっているのに。
「…お兄…………ま……っ…」
「……?……そうだ、まだ名乗っていませんでしたね。私の名は―――」
―――その時。
一瞬聞こえた気がした。
赤髪の青年の名前なんかじゃなく、外から、私の大好きな人の声が。
* * *
0
お気に入りに追加
3,819
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる
KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。
城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】転生先のハレンチな世界で閨授業を受けて性感帯を増やしていかなければいけなくなった件
yori
恋愛
【番外編も随時公開していきます】
性感帯の開発箇所が多ければ多いほど、結婚に有利になるハレンチな世界へ転生してしまった侯爵家令嬢メリア。
メイドや執事、高級娼館の講師から閨授業を受けることになって……。
◇予告無しにえちえちしますのでご注意ください
◇恋愛に発展するまで時間がかかります
◇初めはGL表現がありますが、基本はNL、一応女性向け
◇不特定多数の人と関係を持つことになります
◇キーワードに苦手なものがあればご注意ください
ガールズラブ 残酷な描写あり 異世界転生 女主人公 西洋 逆ハーレム ギャグ スパンキング 拘束 調教 処女 無理やり 不特定多数 玩具 快楽堕ち 言葉責め ソフトSM ふたなり
◇ムーンライトノベルズへ先行公開しています
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる