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本編

赤髪の青年

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再び建物内に運び込まれてしまった私の手足には、縄ではなく鎖がつけられた。魔法で切られない為だろうけど、痺れさえ無くなれば身体強化でどうとでも出来る。

そう思っていたら部屋の扉が開き、さっきの男達とは違う、きちんとした身なりの見知らぬ男が二人、中へと入って来た。一人は壮年の男性で、年齢は私のお父様くらいだろうか。もう一人は年若い青年で、恐らく10代だろうと思う。その青年は、まるで紅葉のような鮮やかな赤い髪に、赤い瞳の、とても整った顔立ちをしていた。そして、そんな二人は私を見て目を見張った。

「成程。確かにこの顔は双子の片割れのようだが。何故このようなはしたない格好をしているのだ?」

壮年の男性が疑問を口にすると、元から室内に居た男達が、その疑問に答えるべく口を開く。

「閣下、それと……長旅ご苦労様です。閣下達がこちらに来る前、一度自力で逃げ出しやがって。その時に自分でスカートの裾を切ったみたいなんですよ」
「へぇ。どうやら相当なじゃじゃ馬のようですね。でも、気に入りました。こんなに美しいとは、嬉しい誤算だ」
「……それはようございました。ならば公国に戻り次第、すぐに婚約させましょう」
「ええ、それでお願いします。……ダルトン卿。少し、二人にしていただいても?」
「承知しました」

壮年の男性が部屋から出ていくのと同時に、他の男達も部屋から出ていく。男達は壮年の男性を「閣下」と呼んでいたが、どうにも壮年の男性より、部屋に残った赤髪の青年の方が身分が高そうだ。そして、閣下と呼ばれた壮年の男性はダルトンという名らしい。ダルトンの疑問に答えた男は、何故だか青年の名も敬称も口にしなかった。
どういう事なのだろう?

私が思考を巡らせていると、赤髪の青年は静かに私に近付いて、床に寝かされている私の横に片膝をついた。そして徐に私の長い髪を一房掬い取ったかと思うと、ごく自然な動きでキスを落とす。

「美しい姫君。貴女のお名前は?」
「…………」

これが貴族の夜会ならば、今の動作ひとつで、この青年は年頃の令嬢達を虜にしていたに違いない。けれど、私は貴族ではないし、ここは夜会会場でもないのだ。
私が答えずに思い切り睨み付けると、赤髪の青年は不思議と嬉しそうに瞳を細めて口元を綻ばせた。そして突然、ミニスカートとなってしまっている私のスカートの裾を少しだけ捲り上げ、私の右の太股に触れた。

「?!」
「いけないな、こんな所に刃物を忍ばせて。武器を携帯する為のベルトは、私が外してあげますね」

私の太股には、ナイフと魔力タンクが装備してあったのだ。それを一瞬で見抜かれた。赤髪の青年は笑みを浮かべたまま、ナイフと魔力タンクを抜いて、太股に巻いてあるベルトの留め金を外した。しゅるりとベルトを取り、その跡を指先でなぞる。

「ほら、綺麗な白い足にベルトの跡がついてしまっている。貴女は私の花嫁になるのだから、今後は気を付けて下さいね。……ん」
「ひっ……何、して……っ?!」

次の瞬間、私の全身にゾクゾクとした寒気が走った。
赤髪の青年が更に身を屈めて、私の太股についてしまったベルトの跡に、自身の舌を這わせ始めたからだ。気持ち悪くなり、私は瞳に涙を滲ませる。

身体が痺れていなければ、今すぐ蹴り飛ばしてやるのに……!!

「やっ!……やだぁ……!!」
「可愛い声ですね。結婚は成人してからになりますが、それまでに嫌がる貴女を従順にさせてみせましょう。……ほら、抵抗していいですよ?まぁ抵抗したらその短いスカートでは、中が丸見えになってしまいますけど」
「……っ?!」
「ああ、そんなに瞳に涙を溜めて。……そそるなあ。でも、困りましたね。痺れ薬が効きすぎていて、抵抗出来ないのでしょう?魔力封じの首輪をつければ、痺れ薬なんて必要ないのに……ああ、本当に綺麗な肌だ」

赤髪の青年が太股に舌を滑らせる度に、吐き気が襲ってくる。私は必死に耐えながら、嗚咽混じりに助けを求めた。ここには居ないと、分かっているのに。

「…お兄…………ま……っ…」
「……?……そうだ、まだ名乗っていませんでしたね。私の名は―――」


―――その時。

一瞬聞こえた気がした。

赤髪の青年の名前なんかじゃなく、外から、私の大好きな人の声が。


* * *

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