ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう

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最終章 さよならダンジョン

01 冬から春へ

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 コイルがダンジョンマスターになって数か月。季節は寒さ厳しい冬を越え、ようやく風に温かさを感じられる季節になった。

 冬の間のダンジョンは、積雪のため第4層に登るのが困難だった。闘技場も周りで盛り上がっていたギャラリーはほぼ居なくなって、物好きな冒険者がただ力試しに登ってきては、魔獣たちと戦い、積もる雪を蹴散らす。そんな中できっちりと毎日登ってきて受付を置く冒険者ギルドは見事だったと言えよう。
 第2層と第3層では、冬だけに採れる貴重な薬草を求めて、そこそこの賑わいを見せていたし、ずっと低迷していた第1層でも、季節がら上の層よりも採取がしやすいと、秋よりもずっと多くの冒険者が入っていた。

 コイルの生活もまた、冬の間に少し変わった。冒険者ギルドを辞めたのだ。
 ギルドとは、この国では納税と戸籍管理のための組織のひとつであり、同様の組織のどれか一つに属するのが国民の義務である。コイルは今まで冒険者ギルドに属していたが、岡山村に来てからの主な収入は、デルフの土地の賃料だ。冒険者ギルドの仕事としてダンジョンに行くこともあるが、日数は少なく、家で畑を耕していることが多い。
 そこでこの冬、思い切って冒険者ギルドから農業ギルドへと移籍したのだ。
 ミノルもコイルと同時に、傭兵ギルドから農業ギルドへと移籍した。貯蓄をデルフ村の商店に投資し運用しながら、自分は泉のそばの一画をコイルから買い、そこで薬草栽培を試みている。
 デルフの森は背の高い木が生えない代わりに草が良く育つという特性があり、野菜もまた、手入れさえ怠らなければ短期間で大きく育つことが分かった。泉の側は今も土地に魔力が多く含まれていて、薬草栽培に期待できる。
 連れ立って近くの山に入り、コイルは食べられる草を、ミノルは薬草を根ごと採取してきては、栽培と品種改良を試みる毎日である。

 デルフ村はまだまだ建設途中で、棟梁たちも相変わらずコイルの家に住んでいる。家賃代わりに改築し続けて、今では二階の各部屋にベランダが付いた。
 エリカはいよいよお腹が大きくなり、危険な仕事からは少しの間遠ざかり、コイルの畑仕事を手伝っている。そんなエリカを気遣いながらも、リーファンはコイルの護衛を兼ねて一緒に採取に出かけては食料の動物を狩っている。

「コイル様、農業ギルドから連絡がありました。ヒロハイナの改良種オオヒロハイナが検査に通り、野菜として認可されました」

 報告してくれるのはフェイスだ。あれからずっと、コイルの秘書として側にいる。不用意に人前で呼ばないよう、マスター・コイルという呼び名は封印され、コイル様と呼ぶようになった。
 ヒロハイナは食べられる野草の中では癖が少なく、サラダでも食べられる。コイルが掘りだしてきて畑で育てていたのだが、偶然その中に葉が大きく、食べると少し甘みもあるものが出来たので、それを育ててみた。肥料と水を欠かさなければ2週間ほどで食べられる大きさに育ち、一か月で花が咲くそれは、秋から春までの間に2度も種をつけ、特徴も安定してきたので、オオヒロハイナと名付け、先日農業ギルドに登録しておいたのだ。
 きちんと栽培すればどんどん増えるのだが、水枯れに弱く野生では育たないかもしれない。正しく野菜と言えるだろう。

 そんな風に、充実した日々を過ごしているコイルだった。

 春になって山頂の雪が解け始めると、第5層の滝が轟轟と音をたてて流れだした。滝壺につかる龍王もご機嫌である。
 第4層に訪れる冒険者の数も再び増え、闘技場からは離れたところを流れる川の勢いに、あんな川あったっけ?と首をかしげる者もいたが、正解。昨年秋までは無かった川です。
 闘技場の隣には、新しく石造りの舞台が出来ている。闘技場で冒険者が勝てばこの舞台に上がり、龍王と勝負することが出来るのだ。もちろんジャンケンで。
 嵐を呼ぶハイパージャンケンは、中途半端な者が相手をすると威圧で体ごと吹っ飛ばされて、そのままダンジョンアウトすることも多いので、矢羽や笑い袋達にも好評だ。時々一緒に飛ばされたりもするのはご愛敬だろう。

「はーっはっはっ!今日のジャンケンは調子がいいぞ。やはりグーからのチョキが効いているのだな、さすが秋瞑!」

「大声でしゃべっては台無しですけれどね」

 平和なダンジョンというのも可笑しなものだが、物珍しさも手伝って噂は王国全土に広がりつつあった。そして、各地から冒険者たちが集まってくる。観光に来る者、力試しに来る者、そして、攻略して名を上げようと思う者。
 雪解けと共にダンジョンには人が溢れる。
 コイルが望むと望まざるとにかかわらず。
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