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第4章 強さを
23 龍王戦
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「あ、ウラじゃないか。何してんの?こんなトコで」
少年がウラを指さして首を傾げた。
「あーー、何と言うか。ちょっとした勝負に負けたので、下のダンジョンマスターの部下になったのだ。龍王は何をしにここへ?」
「近くで騒いでる声が聞こえたから、何かなーと思ってさあ。へえ?お前たち、ウラに勝ったの?あ……ふうん」
少年が一歩近付きコイルたちをジロジロと眺めると、見た目は小さい子どもの格好だが押しつぶされそうな圧迫感があり、思わずコイルのギフトが発動した。
すると、ふうんと呟いて、一歩下がった少年は、コイルを指さして叫んだ。
「おい、お前!俺様と勝負だ!全力で来いよ!せーの、最初はグー、じゃんけんぽん!」
少年の勢いに押されて、思わずパーを出すコイル、対して少年の手はチョキだった。
「ふっふっふっ。あっち向ーいーてー、ホイ!!」
足がすくむ程の威圧と共に、少年の指が左へ振られた。コイルはギフトの力を全開にして、その威圧に抵抗すると、少年の指さす方とは逆を向くことに成功した。
「ひょろいくせに、なかなかやるな」
「くっ、君も凄いね。でも僕だって負けない!最初はグー、じゃんけんぽん!」
今度はパーとグーでコイルの勝ちだ。
「くらえっ!あっち向ーいーてー、ホイ!!」
ギフトの力を乗せて、コイルの指先が上に振られた。まるで殴られたように、少年の首が上に向きかけたが、かろうじて押し留まり、どうにか下を向いた。
雷が鳴り、強い風が吹き荒れる。今朝からの戦いで辺りに散った枝葉や小さな木が巻き上げられて、ぶつかり合い、バリバリと音を立てる。いきなり始まった戦いに、呆気に取られていた仲間たちは、しかし、手出しも出来ないかと一歩下がって見守った。
後方にいるフェイスも、いつでも全員を連れてダンジョンに退避出来るように身構えている。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
「あっち向ーいーてー、ホイ!」
「うっ、まだまだ。さあ行くぞ、最初はグー!」
……
繰り返すこと10回余り、ついに勝負がついた。
「あっち向ーいーてー、ホイ!」
「うっ、ぐはあーーーーー」
叫び声と共に少年の顔が、身体ごとコイルの指さす方に向いてしまった。
ガックリと膝をつく少年。
そんな少年に歩み寄って、手を差し出すコイル。
いつの間にか、吹き荒れていた風は止み、青空が戻ってきた。
「俺様の負けだ。ダンジョンに下り、お前の為に人間どもを蹴散らそう」
「……いや、そこまでは……」
ともあれ、コイルはじゃんけんに勝って小さな魔王を手に入れた。
夕焼け色の髪を持つ少年は、名前を龍王と言う。電王が進化して生まれた龍という種族の魔獣だ。山頂付近の滝壺に住んでいて、そのうち無敵になったら下界に降りて暴れようと力をためていた最中だった。滝からさほど離れていない山中での騒ぎに、珍しく思い散歩に出てきたのだとか。マツとは会った事がないが、ウラとは時々会って話す仲である。子どもの姿は、まだまだ成長途中にあるという事らしく、このまま何百年か、何千年かかけて成人し、災厄となるはずだったのだ。
さて、龍王がダンジョンに住むとして、滝壺などないがどうしようと聞いたところ、先日取り込んだ淀みのせいで少し広くなった第5層に、この旅の初日にコイルたちが登った程よい高さの崖が含まれるので、「その上から水を湧き出させて滝を作ろう」と、何でもないことのように龍王が言った。鯉も進化したら滝まで作れるようになるのだね。
少年がウラを指さして首を傾げた。
「あーー、何と言うか。ちょっとした勝負に負けたので、下のダンジョンマスターの部下になったのだ。龍王は何をしにここへ?」
「近くで騒いでる声が聞こえたから、何かなーと思ってさあ。へえ?お前たち、ウラに勝ったの?あ……ふうん」
少年が一歩近付きコイルたちをジロジロと眺めると、見た目は小さい子どもの格好だが押しつぶされそうな圧迫感があり、思わずコイルのギフトが発動した。
すると、ふうんと呟いて、一歩下がった少年は、コイルを指さして叫んだ。
「おい、お前!俺様と勝負だ!全力で来いよ!せーの、最初はグー、じゃんけんぽん!」
少年の勢いに押されて、思わずパーを出すコイル、対して少年の手はチョキだった。
「ふっふっふっ。あっち向ーいーてー、ホイ!!」
足がすくむ程の威圧と共に、少年の指が左へ振られた。コイルはギフトの力を全開にして、その威圧に抵抗すると、少年の指さす方とは逆を向くことに成功した。
「ひょろいくせに、なかなかやるな」
「くっ、君も凄いね。でも僕だって負けない!最初はグー、じゃんけんぽん!」
今度はパーとグーでコイルの勝ちだ。
「くらえっ!あっち向ーいーてー、ホイ!!」
ギフトの力を乗せて、コイルの指先が上に振られた。まるで殴られたように、少年の首が上に向きかけたが、かろうじて押し留まり、どうにか下を向いた。
雷が鳴り、強い風が吹き荒れる。今朝からの戦いで辺りに散った枝葉や小さな木が巻き上げられて、ぶつかり合い、バリバリと音を立てる。いきなり始まった戦いに、呆気に取られていた仲間たちは、しかし、手出しも出来ないかと一歩下がって見守った。
後方にいるフェイスも、いつでも全員を連れてダンジョンに退避出来るように身構えている。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
「あっち向ーいーてー、ホイ!」
「うっ、まだまだ。さあ行くぞ、最初はグー!」
……
繰り返すこと10回余り、ついに勝負がついた。
「あっち向ーいーてー、ホイ!」
「うっ、ぐはあーーーーー」
叫び声と共に少年の顔が、身体ごとコイルの指さす方に向いてしまった。
ガックリと膝をつく少年。
そんな少年に歩み寄って、手を差し出すコイル。
いつの間にか、吹き荒れていた風は止み、青空が戻ってきた。
「俺様の負けだ。ダンジョンに下り、お前の為に人間どもを蹴散らそう」
「……いや、そこまでは……」
ともあれ、コイルはじゃんけんに勝って小さな魔王を手に入れた。
夕焼け色の髪を持つ少年は、名前を龍王と言う。電王が進化して生まれた龍という種族の魔獣だ。山頂付近の滝壺に住んでいて、そのうち無敵になったら下界に降りて暴れようと力をためていた最中だった。滝からさほど離れていない山中での騒ぎに、珍しく思い散歩に出てきたのだとか。マツとは会った事がないが、ウラとは時々会って話す仲である。子どもの姿は、まだまだ成長途中にあるという事らしく、このまま何百年か、何千年かかけて成人し、災厄となるはずだったのだ。
さて、龍王がダンジョンに住むとして、滝壺などないがどうしようと聞いたところ、先日取り込んだ淀みのせいで少し広くなった第5層に、この旅の初日にコイルたちが登った程よい高さの崖が含まれるので、「その上から水を湧き出させて滝を作ろう」と、何でもないことのように龍王が言った。鯉も進化したら滝まで作れるようになるのだね。
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