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第4章 強さを

05 前を向いて

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「人間とは難儀なものよの」

 ひとしきり泣いて、少し落ち着いたコイルを見つめながら、カガリビが呟いた。
 この二か月以上、第3層や第4層を改変するために、コイルとミノルは何度も夜に転送してこのダンジョンに来ていた。最初は距離感もあった魔獣たちだが、少しずつ慣れてきた今日この頃。特に人化できる鬼熊のアイとマイ、羽鹿の秋瞑、ヴリトラのカガリビ、雷羽の天花、そしてフェンリルのフェンは改変の仕様やダンジョンの運営についても相談できる、良き仲間となっていた。
 そんな仲間のうち、アイを失い、秋瞑も未だその目を開けない。
 それはコイルにとって受け入れ難い衝撃だった。
 だが……

「そもそも、この第4、第5層はマスターを守るための層。われら魔獣が盾になるのは当たり前のこと。マスターもそのつもりでわらわ達を配置したであろう」

「……ん。……ごめん」

「責めておるのではない。われらは魔獣ゆえ、戦えるときは戦い、魔石になるのが性(さが)。周りを見るがよい。皆、ここを守り切って晴れ晴れとしておるよ。そこな狼など、マスターに、褒めて、褒めてと目で語りかけておろう」

「……ん。そうだね。みんなでドラゴンに勝ったんだよね。すごいよ」

「マスターが居れば勝てたなど、皆を無視した暴論よの。マスターとて、このダンジョンの一部品にすぎぬ」

「うん。ごめん。その通りだ」

「だがマスター、マスターのおかげであたしらはもう一度チャンスを与えられたんだぜ、次は負けねえ。ぜってーにな」

 マイが立ち上がった。
 他の魔獣たちも、だんだん立ち上がることが出来るようになってきた。インターフェイスが、この第6層で最後の戦闘が出来るよう、少し早めのタイミングでドローバックした為、回復も早いのだ。

 ケガはあれども思ったよりも元気そうな魔獣たちを見て、ようやく少し落ち着いて、周りを取り囲む魔獣たちに静かに寝て体を治すよう伝えると、いったん部屋の外に出た。
 外には憮然とした表情のフェンが待っていた。

「すまねえ、コイル。俺の力不足だった。奴を仕留められなかったぜ」

「いや、フェンは頑張って守ってくれた。ありがとう。僕のほうこそ、大変な時に居なくてごめん」

「はっ。そんなこと。ほぼ何処のダンジョンのマスターも、奥底に一人で籠ってるなんてこたあねえぜ。留守を守るのは俺たちの仕事だ。気にすんな」

「ん。わかった」

「それより、フェン殿、第4、第5階層はどうなってるんだ?あと二時間ほどで夜が明けるが、大丈夫だろうか」

 落ち着いてきたコイルを確認してから、ミノルが切り出した。
 そう。ダンジョンの中には野営している冒険者たちがいて、今日もまた第4層では闘技場でバトルが行われる。
 今まで、成り行きで冒険者に対応するのを秋瞑に任せてきたが、その秋瞑が動けない今、二時間後に迫った冒険者が上がってくるまでの時間を、荒らされた第4層の整備に使わなければならない。

「第5層のモンスターハウスの結界は破られましたが、その修理は後日、余裕が出来てからでいいでしょう。ドラゴンが巣に逃げ帰るタイミングで、ダンジョンアウトのルールを適応して、ドラゴンからたっぷりと生命力と魔力を抜いておきましたので、急ぐ第4層はそれを使って整備しましょう。ではマスター・コイルとミノル、フェンを第4層に送ります。様子を確認してください」



 第4層は戦闘の跡はあまり残っていなかった。元々バトル用に整えた闘技場付近が最初の戦闘場所になったため、被害も少なかったのだ。軽く地ならしをして、闘技場以外の藪が所々押し倒されているのを、藪に活力を与えて生え揃わせた。

「皆の魔石はどうなったんだろう?」

「ダンジョンで死んだ魔物の魔石は、冒険者たちに持って行かれなければ、一定時間後にダンジョンに吸収されてダンジョンを維持するエネルギーに変わります。先ほどの戦闘の死者の魔石は、まだ残っていますが朝までには吸収されるでしょう。集めますか?」

「……いや、いいよ。ダンジョンの力になったほうが、多分、良い」

「しっかりしろよ、コイル!」

 バシッとフェンに背中を叩かれた。

「俺たちにゃあ、義務がある。コイルも、そしてミノルももう、ダンジョン側の人間だ。このダンジョンを守る為に、強く、強くなろうぜ。コイルはひょろいが、ミノルなんて、あとちょっと頑張れば魔獣にもなれそうだよな」

 コイルとミノルの背中を両手でバシバシ叩きながら、フェンが朗らかに笑った。
 こうして、前を向いて進むのだ。
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