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第3章 森から村へ
12 森から村へ
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カン!カン!カン!
釘を打つ高い音があちらこちらから響く。
ここ、デルフの森はすでに森という範疇から外れ、デルフ村として生まれ変わりつつあった。
結局コイルの持っていたダンジョン側の土地はそのまま全て岡山村の領主に貸し出されることになった。賃料を含む契約は5年ごとに更新される。デルフの木はシンボルとして半数ほどそのまま残され、ツリーハウスの簡易宿屋となって、今は村開拓工事の人員の宿所として使われている。
街壁は建国当初は石積みで建築にもずいぶん時間がかかったそうだが、200年以上前から鉄筋コンクリートの技術開発が進み、以前よりはずいぶん短縮された工期で頑丈な街壁を作れるようになった。
すでに街壁は半分完成し、結界も小型から中型までの魔獣に対応したものが張られている。デルフ村のように小さな土地だと、あまりに高すぎる街壁は閉塞感が強く住み辛くなるので、街壁の高さは3メル程度に抑えられた。門は街道に面した壁の、西のロゼの方と東のダンジョンの入り口の方の二か所だ。
デルフ村は、東西に1.5キロメル、南北におよそ210メルの細長い土地だ。海岸と川と街道に囲まれて、これが目いっぱいの広さだった。道は中心よりは少し街道寄りに、コイルの家のある土地を掠めるように通された。道を挟むように、沢山の宿屋や貸家、商店街が一斉に建設中である。泉も含めてコイルの土地はそのままで、計画通りに、デルフの木のツリーハウスと倉庫2棟が完成していた。残る一本のデルフの木も、住居として工事が済んでいるが、住人はまだ入っていない。
今、コイルの家にはコイルとミノル、そして棟梁とケンジとレイガンが一緒に住んでいる。
コイルの家の工事は終わったが、そのまま棟梁はデルフ村の宿屋の建築依頼が入ったので、どうせならと一緒に暮らし始めたのだ。
幸い寝室は7つもあり、ベッドにも余裕がある。
雑魚寝のようにみんなで寝たリビングには、コイルとミノルが作った大きなテーブルと、レイガンの力作の椅子、西側の一角には棟梁とケンジが作ったトイレとシャワー室とキッチンが置かれている。家賃代わりにと、空いた時間に棟梁たちがあちらこちらを工事してくれるので、日ごとに充実しているツリーハウスは、既に完成予想図からかけ離れつつある。
コイルの畑も順調だ。デルフの木の傍は草や低木の発育が良いので、芽が出るのも早かった。作り始めて2か月の今は、秋の実りの季節を迎えている。
果樹園はキイチゴの挿し木が数種類は根付いている。開発が始まる前に森のあちらこちらから集めてきた実のなる木は、どれもしっかり根を張ったようで来年の収穫が楽しみだ。
根ごと引き抜いて持ってきたコビトレモンはほんの50センチメルほどの小さな木だが、丸くて小さな黄色い酸っぱい実を、枝が垂れるほどたわわに付けている。
イヌイチジクはデルフの森で育つ限界に近い2メルほどの高さの木で、掘り出して運ぶのも大変だった。普通なら小さくて味気ないので甘露煮などにされるが、一本だけ変種のような5センチメルほどの大きさの実がなる木があり、これはほんのり甘くて美味しい実がなっている。実は目隠し用にトイレの傍に植えた木の一つで、これを収穫して食卓に出している事は、今のところコイルだけの秘密である。
野菜や果樹と共に雑草も茂るのが玉に瑕である。コイルの朝は草むしりから始まる。毟った草は細かく刻んで発酵用の肥料箱に入れられるが、一部はポックルの餌になる。コイルが持って行かなくても勝手に出かけて好きにその辺の草を食べているポックルではあるが、コイルが来ると嬉しそうに鼻を鳴らしてすり寄る。
草をあげながら軽くブラッシングをしていると、家からミノルの声がした。
「コイルー、飯の準備ができたぞ。サラダ用の草を摘んで帰ってこーい」
最近食事の支度は交代制だ。コイルがよく料理に突っ込んでいた謎草も、食べやすいものは畑の一角に植えられた。最初はびっくりしていた棟梁たちも、今では当たり前に食べている。
「はよー。腹減ったあ」
「おはよう、ケンジ!顔洗ってきて!」
「おはようございます」
「おはよう」
皆が集まって、朝食が始まる。
「うむ。このサラダは何だ?」
「ああ、それはレタスとトマトとヒロハイナですね、エドワード様」
「ヒロハイナ。雑草に見えるが。うむ」
たまにはこうして、領主のエドワードも混じっている。
今日はどうやら休みで、朝から隠れ家を整備するらしい。
「エドワードさま、今日は何を作りますー?」
「ああ。やはりトイレがなければ不便だからな。今日は配管工事に手を付けてみようと思う」
エドワードの休みはどうやら棟梁たちの休みと連動しているようだ。
休みの大工たちを引っ張り出して指導を受けながらコツコツ、コイルの敷地内に隠れ家を作っている。完成までにはまだずいぶん時間がかかりそうだ。
「それで、今日はコイルとミノルは何する予定?」
「うん。今日は僕たち、ダンジョンに行ってみようと思って」
「へえ?珍しいね」
「うん、改変されてから初めてだよ」
「最近第1層の魔アザミの納入が減っているらしくてな」
「たまには冒険者の仕事しろってこと。えへへ」
まだまだ建設途中のデルフ村だが、すでに冒険者ギルドと薬師ギルドの出張所は稼働している。ダンジョンから持ち出された薬草はデルフ村で薬師によって下処理されて、岡山村に持ち込む仕組みだ。
薬草の採取方法の講習会も、ここデルフ村で開かれるようになった。コイルとミノルも暇を見つけては参加している。
今やこの村は、岡山村にとってなくてはならない重要拠点となっていた。
釘を打つ高い音があちらこちらから響く。
ここ、デルフの森はすでに森という範疇から外れ、デルフ村として生まれ変わりつつあった。
結局コイルの持っていたダンジョン側の土地はそのまま全て岡山村の領主に貸し出されることになった。賃料を含む契約は5年ごとに更新される。デルフの木はシンボルとして半数ほどそのまま残され、ツリーハウスの簡易宿屋となって、今は村開拓工事の人員の宿所として使われている。
街壁は建国当初は石積みで建築にもずいぶん時間がかかったそうだが、200年以上前から鉄筋コンクリートの技術開発が進み、以前よりはずいぶん短縮された工期で頑丈な街壁を作れるようになった。
すでに街壁は半分完成し、結界も小型から中型までの魔獣に対応したものが張られている。デルフ村のように小さな土地だと、あまりに高すぎる街壁は閉塞感が強く住み辛くなるので、街壁の高さは3メル程度に抑えられた。門は街道に面した壁の、西のロゼの方と東のダンジョンの入り口の方の二か所だ。
デルフ村は、東西に1.5キロメル、南北におよそ210メルの細長い土地だ。海岸と川と街道に囲まれて、これが目いっぱいの広さだった。道は中心よりは少し街道寄りに、コイルの家のある土地を掠めるように通された。道を挟むように、沢山の宿屋や貸家、商店街が一斉に建設中である。泉も含めてコイルの土地はそのままで、計画通りに、デルフの木のツリーハウスと倉庫2棟が完成していた。残る一本のデルフの木も、住居として工事が済んでいるが、住人はまだ入っていない。
今、コイルの家にはコイルとミノル、そして棟梁とケンジとレイガンが一緒に住んでいる。
コイルの家の工事は終わったが、そのまま棟梁はデルフ村の宿屋の建築依頼が入ったので、どうせならと一緒に暮らし始めたのだ。
幸い寝室は7つもあり、ベッドにも余裕がある。
雑魚寝のようにみんなで寝たリビングには、コイルとミノルが作った大きなテーブルと、レイガンの力作の椅子、西側の一角には棟梁とケンジが作ったトイレとシャワー室とキッチンが置かれている。家賃代わりにと、空いた時間に棟梁たちがあちらこちらを工事してくれるので、日ごとに充実しているツリーハウスは、既に完成予想図からかけ離れつつある。
コイルの畑も順調だ。デルフの木の傍は草や低木の発育が良いので、芽が出るのも早かった。作り始めて2か月の今は、秋の実りの季節を迎えている。
果樹園はキイチゴの挿し木が数種類は根付いている。開発が始まる前に森のあちらこちらから集めてきた実のなる木は、どれもしっかり根を張ったようで来年の収穫が楽しみだ。
根ごと引き抜いて持ってきたコビトレモンはほんの50センチメルほどの小さな木だが、丸くて小さな黄色い酸っぱい実を、枝が垂れるほどたわわに付けている。
イヌイチジクはデルフの森で育つ限界に近い2メルほどの高さの木で、掘り出して運ぶのも大変だった。普通なら小さくて味気ないので甘露煮などにされるが、一本だけ変種のような5センチメルほどの大きさの実がなる木があり、これはほんのり甘くて美味しい実がなっている。実は目隠し用にトイレの傍に植えた木の一つで、これを収穫して食卓に出している事は、今のところコイルだけの秘密である。
野菜や果樹と共に雑草も茂るのが玉に瑕である。コイルの朝は草むしりから始まる。毟った草は細かく刻んで発酵用の肥料箱に入れられるが、一部はポックルの餌になる。コイルが持って行かなくても勝手に出かけて好きにその辺の草を食べているポックルではあるが、コイルが来ると嬉しそうに鼻を鳴らしてすり寄る。
草をあげながら軽くブラッシングをしていると、家からミノルの声がした。
「コイルー、飯の準備ができたぞ。サラダ用の草を摘んで帰ってこーい」
最近食事の支度は交代制だ。コイルがよく料理に突っ込んでいた謎草も、食べやすいものは畑の一角に植えられた。最初はびっくりしていた棟梁たちも、今では当たり前に食べている。
「はよー。腹減ったあ」
「おはよう、ケンジ!顔洗ってきて!」
「おはようございます」
「おはよう」
皆が集まって、朝食が始まる。
「うむ。このサラダは何だ?」
「ああ、それはレタスとトマトとヒロハイナですね、エドワード様」
「ヒロハイナ。雑草に見えるが。うむ」
たまにはこうして、領主のエドワードも混じっている。
今日はどうやら休みで、朝から隠れ家を整備するらしい。
「エドワードさま、今日は何を作りますー?」
「ああ。やはりトイレがなければ不便だからな。今日は配管工事に手を付けてみようと思う」
エドワードの休みはどうやら棟梁たちの休みと連動しているようだ。
休みの大工たちを引っ張り出して指導を受けながらコツコツ、コイルの敷地内に隠れ家を作っている。完成までにはまだずいぶん時間がかかりそうだ。
「それで、今日はコイルとミノルは何する予定?」
「うん。今日は僕たち、ダンジョンに行ってみようと思って」
「へえ?珍しいね」
「うん、改変されてから初めてだよ」
「最近第1層の魔アザミの納入が減っているらしくてな」
「たまには冒険者の仕事しろってこと。えへへ」
まだまだ建設途中のデルフ村だが、すでに冒険者ギルドと薬師ギルドの出張所は稼働している。ダンジョンから持ち出された薬草はデルフ村で薬師によって下処理されて、岡山村に持ち込む仕組みだ。
薬草の採取方法の講習会も、ここデルフ村で開かれるようになった。コイルとミノルも暇を見つけては参加している。
今やこの村は、岡山村にとってなくてはならない重要拠点となっていた。
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