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第六章 過去に触れる

第73話 久々の再会

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 イデオンでも南にある首都ブラルは、春が来るのも早い。
 雪が解けて、気の早い木が花をつけ始めたころ、何の前触れもなくぶらりとアルが家にやってきた。

「よお。お前らも元気そうだな」
「あんたもな。用事は済んだのか?」
「ああ。思ったよりも順調だったぜ。で、遺跡の攻略はいつにするんだ?」
「そのことだが、あの石のドラゴンを倒すには、人数を増やせばいいかと思ってな。加勢の到着を待っているところだ。一か月はかからないはずだが、それまで……あんたもこの家に泊まるか?」
「おっ、そりゃあ助かるな。宿泊費が浮くぜ。じゃあ宿泊費の代わりにこれを渡しとこうか」

 アルが手に持っていた袋を、無造作に投げてよこした。中には、短剣サイズの短い槍のようなものが二本。

「何だ? 見たことのない武器だな」
「武器じゃねえのさ。トンネル作り用の魔道具でよ。岩を掘削するときに使うやつさ。先端の刃物が回転するんだが、岩を脆くする魔法が組み込まれてる。おもしれえぜ。ほれ、あのドラゴンは石だっただろ?これは使えるんじゃねえかってさー」
「へえ。役に立ちそうだ。俺たちが借りていいのか?」
「おう!全部で四本見つけたからな。俺は両手で使うから二本は自分で持ってる。残りは好きに使え。どうせ黒マント野郎からの貰い物さ」
「黒マント……組織に戻ったのか?」
「はっ。まさか。戻るも何も、この国にあった支部は多分もう潰れてるぜ?」
「それは……」
「良いじゃねえか。さあさあ、中に入って作戦立てるか!」

 家にはいくつも空いている部屋がある。そのうちの一つをアルに貸した。家賃はとらないが家事は分担制だ。シモンが嬉しそうに割り振っている。
 今、一緒に住んでいるのは俺とリリアナ、シモン、カリン、クリスタ、そして合流したアルの六人。そして西の鳶の四人にも声をかけた。彼らは今、別の護衛依頼で旅に出ているが、その後この家で合流することになっている。

 遺跡の石のドラゴン攻略方法を検討した結果、何人かで動きを押さえてその隙に攻撃することに決めた。そのためには人数がいる。とはいえ、ただ多ければいいと言う訳でもない。ドラゴンの動きについていける実力と、俺たちと連携がとれることが必要だ。
 もう何度か一緒に仕事をした西の鳶のメンバーであれば、実力も連携も問題ない。
 いくつかの秘密を共有することになるが、その点でも信頼ができる。
 もう一人、今はガルガラアドにいるレーヴィも、西の鳶が帰って来る時期に合わせて、ここに来ることになった。

 全員がそろうまでにあとおよそ三週間。それまでに俺たちがやっておくのは武器集め。
 岩の怪物相手に、刃物や普通の弓矢は役にたたない。探すのは鈍器、丈夫な鎖、威力のある近接戦用魔道具。そんなところかな。

「どれどれ。お! すげえ鎖だな」
「凄いでしょう!」

 アルに褒められて、シモンが嬉しそうに説明を始めた。

「これはですねえ、ギルドでも滅多に扱ってない貴重な品なんですよ。ここイデオンの北西にベルツって国があるんですけど、そこは鉱山が有名でいろんな珍しい金属とか宝石とかが特産なんです。これはベルツでもなかなか採れないアダマント鋼を使って作られた鎖なんですよ。アダマント鋼はとにかく固くて丈夫というのが一番の特徴なのですが、それゆえに加工が非常に難しいんです。かの国で以前『この世で一番力が強いのは地竜かクラーケンか』っていう論争が起こったんですけど、その時、力比べのために作られたのがこのアダマントの鎖なんです。結局その時の力比べは地竜が勝ったんですが、後々、その二頭が引っ張っても切れない鎖、最強じゃね? っていう説が浮上しまして」

「お、おう」

「その鎖はベルツの王宮に今でも飾ってあります。で、その後複製がえっと、五本くらいだったかな、作られて、『世界最強の鎖』として売りに出されたんです。そのうちの一本がこれなんですよ。」
「そりゃすげえな。でも、高かったんじゃねえのか?」

「それがですね。これ、見た目がただの鎖じゃないですか。だから曰《いわく》を聞いて買った貴族もいたんですが、いざ飾ってみると見栄えが悪いと。さりとて実際にどこかに使おうとしたら、すごく重くて使いにくかったんですよ。確かに丈夫だけど、そんなに丈夫じゃなくても普通の強度があればいいですからね。そんな訳で売りに出てたんです。格安で!僕ってほら、お買い物上手じゃないですか。ふふふ。こういうの買ってくるの、得意なんですよね。アルさんも何か欲しいものありますか?探してきますよ。もちろん手間賃なんていりませんって。こういうの探すの趣味ですからね。さあさあ、何が欲しいですか?」

「い、いや、そのうち何か頼むかな……。今のところ欲しいものもねえし」
「そうですか? 残念ですね。何か欲しいものが見つかればぜひ!」

 楽しそうに語るシモンと目を合わさないように気をつけながら、俺は黙々と武器の手入れをした。
 アル、シモンの相手は頼んだぞ。

 ◆◆◆

 アルが家に来て十日ほど経ったころ、予定になく家の呼び鈴が鳴った。
 玄関に出ると、威圧感のある巨体が目に入る。懐かしい顔だった。
 見上げる首が痛くなるような身長に赤い髪、陽気な表情は巨人族の特徴だ。

「ヨルマ隊長!」
「うむ、リク殿。久しぶりだな」
「殿《どの》はやめてください。どうしてここへ?」
「実はこの春からブラルに赴任することになってな」
「ヨルマ隊長ではないか! こんなところで話さずに、さあさあ、中へ入るがよかろう」

 声を聞いて出てきたリリアナが、奥へと案内する。
 隊長が席に着くのとほぼ同時に、シモンがお茶をもって現れた。

「ヨルマ隊長、お久しぶりです」
「おお、ギルドにいた小僧か。ずいぶん逞しくなったな」
「分かりますか! ええ。僕もすっかり一人前になったのですよ」
「はっはっは。元気な坊主だ」
「ところで赴任してきた、とは?」

 四人でお茶を飲みながらヨルマの説明を聞く。
 ヨルマは海のむこうの国サイラードで、守備隊の隊長をしていた。守備隊は公職で、隊長以上の役職は国王に任命される。ヨルマ隊長も元々国の中でかなり上の地位にあった。さらにダンジョンの制圧の時の指揮官として成果を上げたこともあり、連隊長に昇進。ちょうどその時にイデオンの駐在武官の交代時期が重なった。

「と言う訳で、首都ブラルにある大使館に来たのだ。サイラードとイデオンとは昔から良い関係を築いているからな。駐在武官は出世だ。君たちのおかげと言えよう」
「なるほどのう。それはめでたいことじゃ」
「それはそうと、リリアナはまた、一年も経たぬのにずいぶんと大きくなったものだ」
「成長期なのじゃよ。ふふふ」
「ギルドに聞いたらこの町にいるというので様子を見に来たが、二人とも落ち着いてちゃんと冒険者をしているようで、安心したぞ。私も保証人として責任があるからな」
「保証人か……」

 もうしばらくしたら、アルハラを襲撃するけどなあ……。ま、捕まらなけりゃ大丈夫だろ。万が一、迷惑をかけたらすまん。
 一応、心の中だけで謝っておいた。
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