上 下
59 / 100
第四章 冒険者生活

第58話 街に戻って

しおりを挟む
「アル、目的の物は手に入れられなかったが、これからどうする?」
「ああ、そうだなあ……。お前さんたちに、付いていくのも良さそうだな」

 ニヤリと笑いながら、でもまんざら冗談でもなさそうに言う。
 アルの目的は、強力な効果を持つ古い武器か魔道具だ。そしてそれは、あの石のドラゴンを倒せば手に入れられるのは、間違いないようだ。しかし今の俺達では、到底あのドラゴンは倒せないだろう。

「あの石のドラゴンは、いにしえの勇者たちが戦った巨大な魔物を模倣したもののようじゃ。大広間の壁面に書かれておったよ」
「つまり、あれが倒せるくらい強くなって、蘇った魔物を倒せってことだ」
「だろうな」
「そして、お前らは近い将来きっと、あれを倒そうとする。だろ?」
「……」

 そう問われて、俺とリリアナは顔を見合わせる。
 リリアナはいたずらっ子のようにキラキラとした目で、俺の様子をうかがった。彼女の気持ちはもう、決まってるようだ。
 ならば俺も、迷うことはない。

「あれを倒す方法を考えないとな」
「そうじゃな」

 アルは「そう言うと思ったぜ」と、大声で言うと、俺とリリアナの肩をバシバシと叩いた。ついでに何も言っていないカリンの肩も。
 俺達が話すのを、静かに聞きながら、カリンはどこか遠くを見つめている。その様子は今までとはどこか違い、リリアナに対しての狂信的な態度もすっかり影を潜めていた。カリンの心境の変化の理由は知らないが、何を問いかけるでもなく、俺達は今まで通り接している。
 そのうち自分から、話したくなるだろうし。


 そのまま朝まで、順番に少しだけ睡眠をとって過ごした。
 少し休めば、考えもまとまる。
 皆、それぞれに昨日よりもスッキリした顔で、灰の多くなった暖炉を囲んでいた。

「お前らがアレに挑戦するときは、俺の力も必要だろ。手伝ってやるよ」
「好きにしろ」
「ああ。好きにするさ。ひとつだけやっときたい事があるから、そのあとで……そうだな、春になったらお前らの家に行くとするか」
「……好きにしろ」
「ああ」

 アルは鼻歌を歌いながら荷物をまとめると、じゃあなっと一言残して、さっさとどこかへ消えた。
 自由なやつ。
 俺達も町に帰ることにするか。

 とはいえ……
 一晩泊ってまだ日も高いので、もう一度遺跡の一階の広間だけリリアナを連れて三人一緒に確認する。
 柱に書かれていたのは古代文字で、リリアナに読んでもらうと遺跡についての注意書きが事細かに書かれているらしい。リリアナがいれば外の魔法陣から直接上の大広間に行ける。だがもしかしたら下から俺たちと同じ道を通って上っても、危険は少ないのかもしれない。
 長居はせずに外に出て、砂浜の足跡はできるだけ丁寧に消した。カドルチークの町に戻ったのは、ちょうど夕方だ。

「おや、お前さん方、無事だったかい」

 宿屋に入ると、おかみが声をかけてくる。
 昨日の朝は、日帰りのつもりで出発したからな。

「帰ってこなかったから、心配したよ」
「すまない。昨日は森で迷ったんだ」
「いや、無事ならいいのさ。魔の森で迷うほど奥に行くとは、剛毅だね。晩飯は食べるかい?」
「ああ。頼む」

 奥に引っ込んだおかみは、しばらくすると湯気の上がる盆を持って現れた。
 決して高級ではないが、山盛りの温かい食事は良いものだ。

「美味いのう」
「そうですね、リリアナさ……ん」
「ふふふ。カリン、これも食べるか?」

 ほれ、あーん。と肉を突き刺したフォークを口元まで運ばれ、目を白黒させながら食べるカリン。リリアナへの敬意は変わらないようだが、カリンはリリアナ様という呼び方をやめた。
 そういえば、すっかり角が取れて丸くなったカリンは、いつの間にか俺とも普通にしゃべっている。そんな彼女は、あの遺跡でのことをどう思っているのだろう。

 部屋に帰った俺たちは、荷物を床に置いてベッドの上に座った。
 口を開こうとしたが、その前にカリンが話し始める。

「私は……リリアナさ……んにいつか、我が国ガルガラアドへ帰ってきて欲しいと思っていました。こうして付き従い、ガルガラアドの国民の真摯な想いをお伝えすれば、いつかまた、きっと。そう思っていました」
「うむ。じゃが、あの国へは帰らぬよ」
「はい。今は分かります。いえ、もうずいぶん前から分かってはいたのです」

 そう言うと、今度は俺の方に向き直った。

「リリアナさんがこうしてフラフラしているのは、あなたのせいだと思いました。それが憎いとも。けれどリリアナさんを探しに行くときに、私ばかりが意地を張って迷惑をかけてしまって……」

 カリンは深々と頭を下げる。

「すみませんでした」
「あー、んー。もういいから頭を上げてくれ」
「いえ。上げません。こうして付きまとって、迷惑をかけたと思います。それでもまだ、私はお二人と一緒に居たい。居させてください」
「ガルガラアドへは、帰らぬがのう……」
「構いません。ほんとうに。これからお二人が進む先に、私も共に向かって行きたいのです。……あまり、力にはなれないかもしれませんが」

 ベッドに入り、今までのわだかまりを解くように、ぽつりぽつりと言葉を落とす。そしていつの間にか、三人とも寝てしまっていた。

 ◆◆◆

 カドルチークで過ごす残りの日々は、のんびり町を観光して過ごした。
 西の鳶の面々を誘い、外壁の外へ出て、ケラス大鹿の魔物を見にいったりもした。町の北側にはルーヌ山がそびえ、切り立った崖は到底上ることなどできそうにない急斜面だ。その崖に器用に登って草を食むケラスの群れは、確かにこの町の風物詩と言える景色だった。

 町の市場は本格的な冬を前に、各地から行商の馬車が集まり、中央市場の賑やかさは首都のイデオンと見まがうほどだ。もちろん規模はずいぶんと小さいが。
 大口の取引を終えた隊商もまた、空いた日を無駄にしないように市場に商品を並べる。
 人込みを縫うように歩き回って、俺もリリアナもカリンも、持てる限りのお土産を選ぶ。来るときよりも膨らんだリュックを背負って帰るのだ。
 シモンの待つ家へ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界ネクロマンサー

珈琲党
ファンタジー
トオヤマ・イチロウはふと気づくと異世界にいた。わけも分からず途方に暮れていたイチロウを救ったのは、死霊のクロゼルだった。あてどなく街を散策していたイチロウは、手打ちにされそうになっていた娘、リサを気まぐれで救う。リサを故郷へ送り届ける途中、ちょっとした好奇心にかられて大魔導師パウムの住処へ立ち寄る。大魔導師パウムの働きかけによって、リサは生活魔法の使い手に、イチロウはネクロマンサーとして覚醒する。イチロウとリサとクロゼル、後に仲間に加わった吸血鬼のベロニカ。四者はそれぞれ協力しながら、平和で快適な生活を築くべく奮闘するのだった。

Crystal of Latir

ファンタジー
西暦2011年、大都市晃京に無数の悪魔が現れ 人々は混迷に覆われてしまう。 夜間の内に23区周辺は封鎖。 都内在住の高校生、神来杜聖夜は奇襲を受ける寸前 3人の同級生に助けられ、原因とされる結晶 アンジェラスクリスタルを各地で回収するよう依頼。 街を解放するために協力を頼まれた。 だが、脅威は外だけでなく、内からによる事象も顕在。 人々は人知を超えた異質なる価値に魅入られ、 呼びかけられる何処の塊に囚われてゆく。 太陽と月の交わりが訪れる暦までに。 今作品は2019年9月より執筆開始したものです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・

Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・ 転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。 そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。 <script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>

女子中学生、異界を滅ぼす破壊魔女王となる

くろねこ教授
ファンタジー
るるる子ちゃんは怒っていた。 オコッテんじゃ無い。 イカッテんのだ。 怒って歩いてるウチ、知らない場所に出てしまったるるる子ちゃん。 勇者としての冒険、イヤ破壊活動が今始まる。

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

精霊たちの姫巫女

明日葉
ファンタジー
精霊の加護を受けた国の王家に生まれたセラフィナ。幼いある日、国が戦乱に飲み込まれ、全てを失った。 まだ平和な頃、国同士の決め事として隣の強国の第2王子シンが婚約者と定められた。しかし、全てを失ったセラフィナは重傷を負い、通りかかった導師に拾われ育てられ、そのまま穏やかに生活できるかに思われた。戦乱の真相の記憶が、国に戻ることも、隣国を頼ることもさせない。 しかし、精霊の加護を受けた国の姫は、その身に多くの力を秘め、静かな生活はある日終わりを告げる。それでもせめてものけじめとして婚約解消をするが、なぜか何の利益もないはずなのに、シンがそれを許さないと……。 人ならぬものたちに愛された姫と、戦いを常とする王子の落ち着く先は。

処理中です...