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第四章 冒険者生活
第58話 街に戻って
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「アル、目的の物は手に入れられなかったが、これからどうする?」
「ああ、そうだなあ……。お前さんたちに、付いていくのも良さそうだな」
ニヤリと笑いながら、でもまんざら冗談でもなさそうに言う。
アルの目的は、強力な効果を持つ古い武器か魔道具だ。そしてそれは、あの石のドラゴンを倒せば手に入れられるのは、間違いないようだ。しかし今の俺達では、到底あのドラゴンは倒せないだろう。
「あの石のドラゴンは、古の勇者たちが戦った巨大な魔物を模倣したもののようじゃ。大広間の壁面に書かれておったよ」
「つまり、あれが倒せるくらい強くなって、蘇った魔物を倒せってことだ」
「だろうな」
「そして、お前らは近い将来きっと、あれを倒そうとする。だろ?」
「……」
そう問われて、俺とリリアナは顔を見合わせる。
リリアナはいたずらっ子のようにキラキラとした目で、俺の様子をうかがった。彼女の気持ちはもう、決まってるようだ。
ならば俺も、迷うことはない。
「あれを倒す方法を考えないとな」
「そうじゃな」
アルは「そう言うと思ったぜ」と、大声で言うと、俺とリリアナの肩をバシバシと叩いた。ついでに何も言っていないカリンの肩も。
俺達が話すのを、静かに聞きながら、カリンはどこか遠くを見つめている。その様子は今までとはどこか違い、リリアナに対しての狂信的な態度もすっかり影を潜めていた。カリンの心境の変化の理由は知らないが、何を問いかけるでもなく、俺達は今まで通り接している。
そのうち自分から、話したくなるだろうし。
そのまま朝まで、順番に少しだけ睡眠をとって過ごした。
少し休めば、考えもまとまる。
皆、それぞれに昨日よりもスッキリした顔で、灰の多くなった暖炉を囲んでいた。
「お前らがアレに挑戦するときは、俺の力も必要だろ。手伝ってやるよ」
「好きにしろ」
「ああ。好きにするさ。ひとつだけやっときたい事があるから、そのあとで……そうだな、春になったらお前らの家に行くとするか」
「……好きにしろ」
「ああ」
アルは鼻歌を歌いながら荷物をまとめると、じゃあなっと一言残して、さっさとどこかへ消えた。
自由なやつ。
俺達も町に帰ることにするか。
とはいえ……
一晩泊ってまだ日も高いので、もう一度遺跡の一階の広間だけリリアナを連れて三人一緒に確認する。
柱に書かれていたのは古代文字で、リリアナに読んでもらうと遺跡についての注意書きが事細かに書かれているらしい。リリアナがいれば外の魔法陣から直接上の大広間に行ける。だがもしかしたら下から俺たちと同じ道を通って上っても、危険は少ないのかもしれない。
長居はせずに外に出て、砂浜の足跡はできるだけ丁寧に消した。カドルチークの町に戻ったのは、ちょうど夕方だ。
「おや、お前さん方、無事だったかい」
宿屋に入ると、おかみが声をかけてくる。
昨日の朝は、日帰りのつもりで出発したからな。
「帰ってこなかったから、心配したよ」
「すまない。昨日は森で迷ったんだ」
「いや、無事ならいいのさ。魔の森で迷うほど奥に行くとは、剛毅だね。晩飯は食べるかい?」
「ああ。頼む」
奥に引っ込んだおかみは、しばらくすると湯気の上がる盆を持って現れた。
決して高級ではないが、山盛りの温かい食事は良いものだ。
「美味いのう」
「そうですね、リリアナさ……ん」
「ふふふ。カリン、これも食べるか?」
ほれ、あーん。と肉を突き刺したフォークを口元まで運ばれ、目を白黒させながら食べるカリン。リリアナへの敬意は変わらないようだが、カリンはリリアナ様という呼び方をやめた。
そういえば、すっかり角が取れて丸くなったカリンは、いつの間にか俺とも普通にしゃべっている。そんな彼女は、あの遺跡でのことをどう思っているのだろう。
部屋に帰った俺たちは、荷物を床に置いてベッドの上に座った。
口を開こうとしたが、その前にカリンが話し始める。
「私は……リリアナさ……んにいつか、我が国ガルガラアドへ帰ってきて欲しいと思っていました。こうして付き従い、ガルガラアドの国民の真摯な想いをお伝えすれば、いつかまた、きっと。そう思っていました」
「うむ。じゃが、あの国へは帰らぬよ」
「はい。今は分かります。いえ、もうずいぶん前から分かってはいたのです」
そう言うと、今度は俺の方に向き直った。
「リリアナさんがこうしてフラフラしているのは、あなたのせいだと思いました。それが憎いとも。けれどリリアナさんを探しに行くときに、私ばかりが意地を張って迷惑をかけてしまって……」
カリンは深々と頭を下げる。
「すみませんでした」
「あー、んー。もういいから頭を上げてくれ」
「いえ。上げません。こうして付きまとって、迷惑をかけたと思います。それでもまだ、私はお二人と一緒に居たい。居させてください」
「ガルガラアドへは、帰らぬがのう……」
「構いません。ほんとうに。これからお二人が進む先に、私も共に向かって行きたいのです。……あまり、力にはなれないかもしれませんが」
ベッドに入り、今までのわだかまりを解くように、ぽつりぽつりと言葉を落とす。そしていつの間にか、三人とも寝てしまっていた。
◆◆◆
カドルチークで過ごす残りの日々は、のんびり町を観光して過ごした。
西の鳶の面々を誘い、外壁の外へ出て、ケラスを見にいったりもした。町の北側にはルーヌ山がそびえ、切り立った崖は到底上ることなどできそうにない急斜面だ。その崖に器用に登って草を食むケラスの群れは、確かにこの町の風物詩と言える景色だった。
町の市場は本格的な冬を前に、各地から行商の馬車が集まり、中央市場の賑やかさは首都のイデオンと見まがうほどだ。もちろん規模はずいぶんと小さいが。
大口の取引を終えた隊商もまた、空いた日を無駄にしないように市場に商品を並べる。
人込みを縫うように歩き回って、俺もリリアナもカリンも、持てる限りのお土産を選ぶ。来るときよりも膨らんだリュックを背負って帰るのだ。
シモンの待つ家へ。
「ああ、そうだなあ……。お前さんたちに、付いていくのも良さそうだな」
ニヤリと笑いながら、でもまんざら冗談でもなさそうに言う。
アルの目的は、強力な効果を持つ古い武器か魔道具だ。そしてそれは、あの石のドラゴンを倒せば手に入れられるのは、間違いないようだ。しかし今の俺達では、到底あのドラゴンは倒せないだろう。
「あの石のドラゴンは、古の勇者たちが戦った巨大な魔物を模倣したもののようじゃ。大広間の壁面に書かれておったよ」
「つまり、あれが倒せるくらい強くなって、蘇った魔物を倒せってことだ」
「だろうな」
「そして、お前らは近い将来きっと、あれを倒そうとする。だろ?」
「……」
そう問われて、俺とリリアナは顔を見合わせる。
リリアナはいたずらっ子のようにキラキラとした目で、俺の様子をうかがった。彼女の気持ちはもう、決まってるようだ。
ならば俺も、迷うことはない。
「あれを倒す方法を考えないとな」
「そうじゃな」
アルは「そう言うと思ったぜ」と、大声で言うと、俺とリリアナの肩をバシバシと叩いた。ついでに何も言っていないカリンの肩も。
俺達が話すのを、静かに聞きながら、カリンはどこか遠くを見つめている。その様子は今までとはどこか違い、リリアナに対しての狂信的な態度もすっかり影を潜めていた。カリンの心境の変化の理由は知らないが、何を問いかけるでもなく、俺達は今まで通り接している。
そのうち自分から、話したくなるだろうし。
そのまま朝まで、順番に少しだけ睡眠をとって過ごした。
少し休めば、考えもまとまる。
皆、それぞれに昨日よりもスッキリした顔で、灰の多くなった暖炉を囲んでいた。
「お前らがアレに挑戦するときは、俺の力も必要だろ。手伝ってやるよ」
「好きにしろ」
「ああ。好きにするさ。ひとつだけやっときたい事があるから、そのあとで……そうだな、春になったらお前らの家に行くとするか」
「……好きにしろ」
「ああ」
アルは鼻歌を歌いながら荷物をまとめると、じゃあなっと一言残して、さっさとどこかへ消えた。
自由なやつ。
俺達も町に帰ることにするか。
とはいえ……
一晩泊ってまだ日も高いので、もう一度遺跡の一階の広間だけリリアナを連れて三人一緒に確認する。
柱に書かれていたのは古代文字で、リリアナに読んでもらうと遺跡についての注意書きが事細かに書かれているらしい。リリアナがいれば外の魔法陣から直接上の大広間に行ける。だがもしかしたら下から俺たちと同じ道を通って上っても、危険は少ないのかもしれない。
長居はせずに外に出て、砂浜の足跡はできるだけ丁寧に消した。カドルチークの町に戻ったのは、ちょうど夕方だ。
「おや、お前さん方、無事だったかい」
宿屋に入ると、おかみが声をかけてくる。
昨日の朝は、日帰りのつもりで出発したからな。
「帰ってこなかったから、心配したよ」
「すまない。昨日は森で迷ったんだ」
「いや、無事ならいいのさ。魔の森で迷うほど奥に行くとは、剛毅だね。晩飯は食べるかい?」
「ああ。頼む」
奥に引っ込んだおかみは、しばらくすると湯気の上がる盆を持って現れた。
決して高級ではないが、山盛りの温かい食事は良いものだ。
「美味いのう」
「そうですね、リリアナさ……ん」
「ふふふ。カリン、これも食べるか?」
ほれ、あーん。と肉を突き刺したフォークを口元まで運ばれ、目を白黒させながら食べるカリン。リリアナへの敬意は変わらないようだが、カリンはリリアナ様という呼び方をやめた。
そういえば、すっかり角が取れて丸くなったカリンは、いつの間にか俺とも普通にしゃべっている。そんな彼女は、あの遺跡でのことをどう思っているのだろう。
部屋に帰った俺たちは、荷物を床に置いてベッドの上に座った。
口を開こうとしたが、その前にカリンが話し始める。
「私は……リリアナさ……んにいつか、我が国ガルガラアドへ帰ってきて欲しいと思っていました。こうして付き従い、ガルガラアドの国民の真摯な想いをお伝えすれば、いつかまた、きっと。そう思っていました」
「うむ。じゃが、あの国へは帰らぬよ」
「はい。今は分かります。いえ、もうずいぶん前から分かってはいたのです」
そう言うと、今度は俺の方に向き直った。
「リリアナさんがこうしてフラフラしているのは、あなたのせいだと思いました。それが憎いとも。けれどリリアナさんを探しに行くときに、私ばかりが意地を張って迷惑をかけてしまって……」
カリンは深々と頭を下げる。
「すみませんでした」
「あー、んー。もういいから頭を上げてくれ」
「いえ。上げません。こうして付きまとって、迷惑をかけたと思います。それでもまだ、私はお二人と一緒に居たい。居させてください」
「ガルガラアドへは、帰らぬがのう……」
「構いません。ほんとうに。これからお二人が進む先に、私も共に向かって行きたいのです。……あまり、力にはなれないかもしれませんが」
ベッドに入り、今までのわだかまりを解くように、ぽつりぽつりと言葉を落とす。そしていつの間にか、三人とも寝てしまっていた。
◆◆◆
カドルチークで過ごす残りの日々は、のんびり町を観光して過ごした。
西の鳶の面々を誘い、外壁の外へ出て、ケラスを見にいったりもした。町の北側にはルーヌ山がそびえ、切り立った崖は到底上ることなどできそうにない急斜面だ。その崖に器用に登って草を食むケラスの群れは、確かにこの町の風物詩と言える景色だった。
町の市場は本格的な冬を前に、各地から行商の馬車が集まり、中央市場の賑やかさは首都のイデオンと見まがうほどだ。もちろん規模はずいぶんと小さいが。
大口の取引を終えた隊商もまた、空いた日を無駄にしないように市場に商品を並べる。
人込みを縫うように歩き回って、俺もリリアナもカリンも、持てる限りのお土産を選ぶ。来るときよりも膨らんだリュックを背負って帰るのだ。
シモンの待つ家へ。
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