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第三章 旅の始まり
第27話 依頼というか、アルバイト!
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ネヴィラの町の冒険者ギルドの建物は、海に程近い繁華街の中にあった。
扉を開けると、賑やかな話し声が中からあふれ出た。
あちらこちらで固まって何やら話しては笑っているのは、ほとんどが女たちだ。
「リクさん、見てくださいよ。この町は女性冒険者が、他の町と比べてかなり多いんです」
「それは、街中の仕事が多いってことか?」
「いえいえ、女性冒険者も多くの方は魔物退治や狩りに出るんです。今残っている方々は今日は休日なのでしょう。休日もこうやって集まって情報交換する方が多いですね」
キャッキャと笑い声をあげながら大きな身振り手振りで話をしている様子は、情報交換というイメージではないが、まあいいか。
まだ十代にみえる若い女から、年齢を聞けば身に危険が及ぶやもしれぬお年頃の女まで、幅広い年代が入り混じっている。ほとんどはサイル人だ。シンプルな革のスカートと胸当てを、普段着の上から身に付けている。武器は剣や鉈を腰に下げている者が多い。
「町の周りにはあまり凶暴な魔物は出ませんし、少々凶暴な魔獣が出たとしても、高ランクの方も多いので大丈夫らしいです!」
女冒険者たちのたくましい腕を見たら、納得だ。
うんうんと頷いていたら殺気を感じたのは気のせいだろう。
「女性冒険者が多いのにも理由がありまして、依頼を見てもらえば分かるんですが、その前にここのギルドに登録しますね」
シモンが受付の女性と二、三言話して、三人のギルドカードを見せれば、すぐに手続きは終わった。
依頼はランク別の掲示板に貼ってある。どこの町にもよくある力仕事や魔物の討伐、薬草の採取などのほかに、色の違う依頼書が目についた。
『急募 君も海の男になろう!
クラーケン漁船の乗組員求む
仕事内容は船内作業全般
Cランク以上で戦いが得意な者に限る
一攫千金!
さあ、俺たちと共に海へ出よう!
依頼料 五万G 豊漁の場合成果報酬あり帰港後一括支払い
期間 十五日間 出航日は別途お問い合わせください
未経験者・大陸人大歓迎(ただし男のみ)
テイマ―は別途ボーナスあります(要テイム証明)』
「これです。この町独特のお仕事なんです、遠洋漁船の乗組員募集。娯楽の限られた狭い場所での仕事なので、ほとんどが男性のみの募集なんですが、大物を捕まえると高収入なんですよ!」
「男のみ……じゃの」
「テイマーは歓迎されるのか」
「ええ、そうなんですよ。海に出たら女性はいないし娯楽も少ないので、モフッとした可愛らしい子は大人気です。ふふふふふふ」
シモンがこらえきれずに笑うのを、苦々し気にみていたリリアナだが、まんざら興味がないわけでもなさそうだ。
熱心にいくつかの依頼書を読み比べて、ひとつ選んだ。
「私はどっちの姿で過ごしても別に困らんのでな。漁船に乗るのも楽しそうよのう」
「やったー!ありがとうございます、リリアナさん! 久々にポチに会える!」
「全く。毎日私には会っておるではないか」
「だってリリアナさんは小さくてもレディーですから、モフモフできないじゃないですか!」
小躍りしながら依頼書を持って受付に行くシモン。
受付で確認すると、出航は3日後らしく、明日面接を受けに行くことになった。
面接のときは当然、リリアナはポチに変化していく。
シモンがさも当然そうにポチを抱え上げた。
「踏まれたら危ないですから!」
どうもシモンの中ではポチはポチ、リリアナはリリアナということに、なっているらしい。
鼻歌を歌いながら港の側に建てられた船主の事務所へと向かう。
事務所は二十人くらいは入って仕事ができそうな広さがあるが、今は閑散として、大柄のサイル人が二人いるだけだった。
「冒険者ギルドで紹介されて面接に来ました」
「お、こりゃまた、ひょろい兄ちゃん達だな。戦えるのか?」
「はい。僕は剣は少々ですが、ギルドに勤めていましたので解体と冷凍の魔法は得意です」
「そりゃあいい!」
依頼書のいくつかは魔法使いの募集だった。釣った獲物を数日間は冷やしておく必要があるので、冷凍の魔法は重宝される。冒険者ギルド職員の経歴も様々な雑事をこなしているものが多いので喜ばれるようだ。
「俺は重たいものを運べる」
「ひょろいのにな。よし、そこにある箱を持ち上げてみろよ」
部屋の隅にある木箱は船内に持ち込むものらしく、いっぱい物が詰め込まれている。そのまま持とうとしてみたが動かないので、魔力を循環させて身体強化してもう一度。今度は簡単に持ち上がった。
「ほほう、兄ちゃん、すげえじゃねえか。よっしゃ。二人とも気に入った」
「ぐええ、きゅっ、きゅっ」
「お、かわいいキツネちゃんのことも忘れてねえぜ。テイマーボーナスはちょっとだけだが、みんなと仲良くしてやってくれよな」
「くええっ!くええっ!」
ポチがシモンの腕から飛び出して、机の上のコップに前足をかけ、もう一度叫んだ。
「くえええええっ!」
一瞬でコップが凍り付き、机の上に霜が広がっていく。辺りの空気もひんやりと感じられた。
「くあ?きゅっ」
「こ……こりゃあすげえな。おまえさんにはテイマーボーナスじゃなくて一人前払わにゃならんかな」
「くえっ」
自慢げに鼻をツンと上げて、ポチは俺の腕の中に飛び込んできた。
契約の金額は俺とシモンについてはそれぞれ基本給五万G、ポチについてはテイマーボーナス一万Gとあとは船内の活躍次第では増額ということになった。
「まあ、この威力の魔法が使えるなら、一人前の給料が出るだろ。突然暴れ出したりはしないだろうな?」
「ああ、大丈夫だ。ポチは賢いからな」
「オッケー。じゃあ採用だ。出航は明後日の早朝だから遅刻するなよ」
「はい! 分かりました」
◆◆◆
青々と広がる空と海。
クラーケン漁船はさすがに大物を狙っているだけあって、二十人以上乗組員がいてもおかしくないと思ったが、集まったのは俺たちを入れてわずかに八人+ポチ。
「お、今回はバイトくんが見つかったんだな」
「こりゃ大物が狙えるな。しっかり戦ってくれよ」
海の男たちは、がはははと豪快に笑いながら船に乗り込んでいった。
「よろしくお願いします。あなた方も漁船は初めてですか?私も初めてなのですよ」
「ああ。よろしくな」
人族の男が、丁寧に頭を下げてきた。彼も俺たちと同じようにギルドの求人を見てやってきたようだ。俺とシモンと握手を交わして、最後にポチの頭を軽く撫でる。
「これは可愛らしい。今回は楽しく仕事ができそうですね」
扉を開けると、賑やかな話し声が中からあふれ出た。
あちらこちらで固まって何やら話しては笑っているのは、ほとんどが女たちだ。
「リクさん、見てくださいよ。この町は女性冒険者が、他の町と比べてかなり多いんです」
「それは、街中の仕事が多いってことか?」
「いえいえ、女性冒険者も多くの方は魔物退治や狩りに出るんです。今残っている方々は今日は休日なのでしょう。休日もこうやって集まって情報交換する方が多いですね」
キャッキャと笑い声をあげながら大きな身振り手振りで話をしている様子は、情報交換というイメージではないが、まあいいか。
まだ十代にみえる若い女から、年齢を聞けば身に危険が及ぶやもしれぬお年頃の女まで、幅広い年代が入り混じっている。ほとんどはサイル人だ。シンプルな革のスカートと胸当てを、普段着の上から身に付けている。武器は剣や鉈を腰に下げている者が多い。
「町の周りにはあまり凶暴な魔物は出ませんし、少々凶暴な魔獣が出たとしても、高ランクの方も多いので大丈夫らしいです!」
女冒険者たちのたくましい腕を見たら、納得だ。
うんうんと頷いていたら殺気を感じたのは気のせいだろう。
「女性冒険者が多いのにも理由がありまして、依頼を見てもらえば分かるんですが、その前にここのギルドに登録しますね」
シモンが受付の女性と二、三言話して、三人のギルドカードを見せれば、すぐに手続きは終わった。
依頼はランク別の掲示板に貼ってある。どこの町にもよくある力仕事や魔物の討伐、薬草の採取などのほかに、色の違う依頼書が目についた。
『急募 君も海の男になろう!
クラーケン漁船の乗組員求む
仕事内容は船内作業全般
Cランク以上で戦いが得意な者に限る
一攫千金!
さあ、俺たちと共に海へ出よう!
依頼料 五万G 豊漁の場合成果報酬あり帰港後一括支払い
期間 十五日間 出航日は別途お問い合わせください
未経験者・大陸人大歓迎(ただし男のみ)
テイマ―は別途ボーナスあります(要テイム証明)』
「これです。この町独特のお仕事なんです、遠洋漁船の乗組員募集。娯楽の限られた狭い場所での仕事なので、ほとんどが男性のみの募集なんですが、大物を捕まえると高収入なんですよ!」
「男のみ……じゃの」
「テイマーは歓迎されるのか」
「ええ、そうなんですよ。海に出たら女性はいないし娯楽も少ないので、モフッとした可愛らしい子は大人気です。ふふふふふふ」
シモンがこらえきれずに笑うのを、苦々し気にみていたリリアナだが、まんざら興味がないわけでもなさそうだ。
熱心にいくつかの依頼書を読み比べて、ひとつ選んだ。
「私はどっちの姿で過ごしても別に困らんのでな。漁船に乗るのも楽しそうよのう」
「やったー!ありがとうございます、リリアナさん! 久々にポチに会える!」
「全く。毎日私には会っておるではないか」
「だってリリアナさんは小さくてもレディーですから、モフモフできないじゃないですか!」
小躍りしながら依頼書を持って受付に行くシモン。
受付で確認すると、出航は3日後らしく、明日面接を受けに行くことになった。
面接のときは当然、リリアナはポチに変化していく。
シモンがさも当然そうにポチを抱え上げた。
「踏まれたら危ないですから!」
どうもシモンの中ではポチはポチ、リリアナはリリアナということに、なっているらしい。
鼻歌を歌いながら港の側に建てられた船主の事務所へと向かう。
事務所は二十人くらいは入って仕事ができそうな広さがあるが、今は閑散として、大柄のサイル人が二人いるだけだった。
「冒険者ギルドで紹介されて面接に来ました」
「お、こりゃまた、ひょろい兄ちゃん達だな。戦えるのか?」
「はい。僕は剣は少々ですが、ギルドに勤めていましたので解体と冷凍の魔法は得意です」
「そりゃあいい!」
依頼書のいくつかは魔法使いの募集だった。釣った獲物を数日間は冷やしておく必要があるので、冷凍の魔法は重宝される。冒険者ギルド職員の経歴も様々な雑事をこなしているものが多いので喜ばれるようだ。
「俺は重たいものを運べる」
「ひょろいのにな。よし、そこにある箱を持ち上げてみろよ」
部屋の隅にある木箱は船内に持ち込むものらしく、いっぱい物が詰め込まれている。そのまま持とうとしてみたが動かないので、魔力を循環させて身体強化してもう一度。今度は簡単に持ち上がった。
「ほほう、兄ちゃん、すげえじゃねえか。よっしゃ。二人とも気に入った」
「ぐええ、きゅっ、きゅっ」
「お、かわいいキツネちゃんのことも忘れてねえぜ。テイマーボーナスはちょっとだけだが、みんなと仲良くしてやってくれよな」
「くええっ!くええっ!」
ポチがシモンの腕から飛び出して、机の上のコップに前足をかけ、もう一度叫んだ。
「くえええええっ!」
一瞬でコップが凍り付き、机の上に霜が広がっていく。辺りの空気もひんやりと感じられた。
「くあ?きゅっ」
「こ……こりゃあすげえな。おまえさんにはテイマーボーナスじゃなくて一人前払わにゃならんかな」
「くえっ」
自慢げに鼻をツンと上げて、ポチは俺の腕の中に飛び込んできた。
契約の金額は俺とシモンについてはそれぞれ基本給五万G、ポチについてはテイマーボーナス一万Gとあとは船内の活躍次第では増額ということになった。
「まあ、この威力の魔法が使えるなら、一人前の給料が出るだろ。突然暴れ出したりはしないだろうな?」
「ああ、大丈夫だ。ポチは賢いからな」
「オッケー。じゃあ採用だ。出航は明後日の早朝だから遅刻するなよ」
「はい! 分かりました」
◆◆◆
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クラーケン漁船はさすがに大物を狙っているだけあって、二十人以上乗組員がいてもおかしくないと思ったが、集まったのは俺たちを入れてわずかに八人+ポチ。
「お、今回はバイトくんが見つかったんだな」
「こりゃ大物が狙えるな。しっかり戦ってくれよ」
海の男たちは、がはははと豪快に笑いながら船に乗り込んでいった。
「よろしくお願いします。あなた方も漁船は初めてですか?私も初めてなのですよ」
「ああ。よろしくな」
人族の男が、丁寧に頭を下げてきた。彼も俺たちと同じようにギルドの求人を見てやってきたようだ。俺とシモンと握手を交わして、最後にポチの頭を軽く撫でる。
「これは可愛らしい。今回は楽しく仕事ができそうですね」
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