上 下
28 / 100
第三章 旅の始まり

第27話 依頼というか、アルバイト!

しおりを挟む
 ネヴィラの町の冒険者ギルドの建物は、海に程近い繁華街の中にあった。
 扉を開けると、賑やかな話し声が中からあふれ出た。
 あちらこちらで固まって何やら話しては笑っているのは、ほとんどが女たちだ。

「リクさん、見てくださいよ。この町は女性冒険者が、他の町と比べてかなり多いんです」
「それは、街中の仕事が多いってことか?」
「いえいえ、女性冒険者も多くの方は魔物退治や狩りに出るんです。今残っている方々は今日は休日なのでしょう。休日もこうやって集まって情報交換する方が多いですね」

 キャッキャと笑い声をあげながら大きな身振り手振りで話をしている様子は、情報交換というイメージではないが、まあいいか。
 まだ十代にみえる若い女から、年齢を聞けば身に危険が及ぶやもしれぬお年頃の女まで、幅広い年代が入り混じっている。ほとんどはサイル人だ。シンプルな革のスカートと胸当てを、普段着の上から身に付けている。武器は剣やなたを腰に下げている者が多い。

「町の周りにはあまり凶暴な魔物は出ませんし、少々凶暴な魔獣が出たとしても、高ランクの方も多いので大丈夫らしいです!」

 女冒険者たちのたくましい腕を見たら、納得だ。
 うんうんと頷いていたら殺気を感じたのは気のせいだろう。

「女性冒険者が多いのにも理由がありまして、依頼を見てもらえば分かるんですが、その前にここのギルドに登録しますね」

 シモンが受付の女性と二、三言話して、三人のギルドカードを見せれば、すぐに手続きは終わった。
 依頼はランク別の掲示板に貼ってある。どこの町にもよくある力仕事や魔物の討伐、薬草の採取などのほかに、色の違う依頼書が目についた。

『急募 君も海の男になろう!
 
 クラーケン漁船の乗組員求む
 仕事内容は船内作業全般
 Cランク以上で戦いが得意な者に限る
 一攫千金!
 さあ、俺たちと共に海へ出よう!

 依頼料 五万G 豊漁の場合成果報酬あり帰港後一括支払い
 期間 十五日間 出航日は別途お問い合わせください
 未経験者・大陸人大歓迎(ただし男のみ)
 テイマ―は別途ボーナスあります(要テイム証明)』

「これです。この町独特のお仕事なんです、遠洋漁船の乗組員募集。娯楽の限られた狭い場所での仕事なので、ほとんどが男性のみの募集なんですが、大物を捕まえると高収入なんですよ!」
「男のみ……じゃの」
「テイマーは歓迎されるのか」
「ええ、そうなんですよ。海に出たら女性はいないし娯楽も少ないので、モフッとした可愛らしい子は大人気です。ふふふふふふ」

 シモンがこらえきれずに笑うのを、苦々し気にみていたリリアナだが、まんざら興味がないわけでもなさそうだ。
 熱心にいくつかの依頼書を読み比べて、ひとつ選んだ。

「私はどっちの姿で過ごしても別に困らんのでな。漁船に乗るのも楽しそうよのう」
「やったー!ありがとうございます、リリアナさん! 久々にポチに会える!」
「全く。毎日私には会っておるではないか」
「だってリリアナさんは小さくてもレディーですから、モフモフできないじゃないですか!」

 小躍りしながら依頼書を持って受付に行くシモン。
 受付で確認すると、出航は3日後らしく、明日面接を受けに行くことになった。

 面接のときは当然、リリアナはポチに変化へんげしていく。
 シモンがさも当然そうにポチを抱え上げた。

「踏まれたら危ないですから!」

 どうもシモンの中ではポチはポチ、リリアナはリリアナということに、なっているらしい。
 鼻歌を歌いながら港の側に建てられた船主の事務所へと向かう。
 事務所は二十人くらいは入って仕事ができそうな広さがあるが、今は閑散として、大柄のサイル人が二人いるだけだった。

「冒険者ギルドで紹介されて面接に来ました」
「お、こりゃまた、ひょろい兄ちゃん達だな。戦えるのか?」
「はい。僕は剣は少々ですが、ギルドに勤めていましたので解体と冷凍の魔法は得意です」
「そりゃあいい!」

 依頼書のいくつかは魔法使いの募集だった。釣った獲物を数日間は冷やしておく必要があるので、冷凍の魔法は重宝される。冒険者ギルド職員の経歴も様々な雑事をこなしているものが多いので喜ばれるようだ。

「俺は重たいものを運べる」
「ひょろいのにな。よし、そこにある箱を持ち上げてみろよ」

 部屋の隅にある木箱は船内に持ち込むものらしく、いっぱい物が詰め込まれている。そのまま持とうとしてみたが動かないので、魔力を循環させて身体強化してもう一度。今度は簡単に持ち上がった。

「ほほう、兄ちゃん、すげえじゃねえか。よっしゃ。二人とも気に入った」
「ぐええ、きゅっ、きゅっ」
「お、かわいいキツネちゃんのことも忘れてねえぜ。テイマーボーナスはちょっとだけだが、みんなと仲良くしてやってくれよな」
「くええっ!くええっ!」

 ポチがシモンの腕から飛び出して、机の上のコップに前足をかけ、もう一度叫んだ。

「くえええええっ!」

 一瞬でコップが凍り付き、机の上に霜が広がっていく。辺りの空気もひんやりと感じられた。

「くあ?きゅっ」
「こ……こりゃあすげえな。おまえさんにはテイマーボーナスじゃなくて一人前払わにゃならんかな」
「くえっ」

 自慢げに鼻をツンと上げて、ポチは俺の腕の中に飛び込んできた。
 契約の金額は俺とシモンについてはそれぞれ基本給五万G、ポチについてはテイマーボーナス一万Gとあとは船内の活躍次第では増額ということになった。

「まあ、この威力の魔法が使えるなら、一人前の給料が出るだろ。突然暴れ出したりはしないだろうな?」
「ああ、大丈夫だ。ポチは賢いからな」
「オッケー。じゃあ採用だ。出航は明後日の早朝だから遅刻するなよ」
「はい! 分かりました」

 ◆◆◆

 青々と広がる空と海。
 クラーケン漁船はさすがに大物を狙っているだけあって、二十人以上乗組員がいてもおかしくないと思ったが、集まったのは俺たちを入れてわずかに八人+ポチ。

「お、今回はバイトくんが見つかったんだな」
「こりゃ大物が狙えるな。しっかり戦ってくれよ」

 海の男たちは、がはははと豪快に笑いながら船に乗り込んでいった。

「よろしくお願いします。あなた方も漁船は初めてですか?私も初めてなのですよ」
「ああ。よろしくな」

 人族の男が、丁寧に頭を下げてきた。彼も俺たちと同じようにギルドの求人を見てやってきたようだ。俺とシモンと握手を交わして、最後にポチの頭を軽く撫でる。

「これは可愛らしい。今回は楽しく仕事ができそうですね」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

魔力0の俺は王家から追放された挙句なぜか体にドラゴンが棲みついた~伝説のドラゴンの魔力を手に入れた俺はちょっと王家を懲らしめようと思います~

きょろ
ファンタジー
この異世界には人間、動物を始め様々な種族が存在している。 ドラゴン、エルフ、ドワーフにゴブリン…多岐に渡る生物が棲むここは異世界「ソウルエンド」。 この世界で一番権力を持っていると言われる王族の“ロックロス家”は、その千年以上続く歴史の中で過去最大のピンチにぶつかっていた。 「――このロックロス家からこんな奴が生まれるとは…!!この歳まで本当に魔力0とは…貴様なんぞ一族の恥だ!出ていけッ!」 ソウルエンドの王でもある父親にそう言われた青年“レイ・ロックロス”。 十六歳の彼はロックロス家の歴史上……いや、人類が初めて魔力を生み出してから初の“魔力0”の人間だった―。 森羅万象、命ある全てのものに魔力が流れている。その魔力の大きさや強さに変化はあれど魔力0はあり得なかったのだ。 庶民ならいざ知らず、王族の、それもこの異世界トップのロックロス家にとってはあってはならない事態。 レイの父親は、面子も権力も失ってはならぬと極秘に“養子”を迎えた―。 成績優秀、魔力レベルも高い。見捨てた我が子よりも優秀な養子を存分に可愛がった父。 そして――。 魔力“0”と名前の“レイ”を掛けて魔法学校でも馬鹿にされ成績も一番下の“本当の息子”だったはずのレイ・ロックロスは十六歳になったこの日……遂に家から追放された―。 絶望と悲しみに打ちひしがれる……… 事はなく、レイ・ロックロスは清々しい顔で家を出て行った。 「ああ~~~めちゃくちゃいい天気!やっと自由を手に入れたぜ俺は!」 十六年の人生の中で一番解放感を得たこの日。 実はレイには昔から一つ気になっていたことがあった。その真実を探る為レイはある場所へと向かっていたのだが、道中お腹が減ったレイは子供の頃から仲が良い近くの農場でご飯を貰った。 「うめぇ~~!ここの卵かけご飯は最高だぜ!」 しかし、レイが食べたその卵は何と“伝説の古代竜の卵”だった――。 レイの気になっている事とは―? 食べた卵のせいでドラゴンが棲みついた―⁉ 縁を切ったはずのロックロス家に隠された秘密とは―。 全ての真相に辿り着く為、レイとドラゴンはほのぼのダンジョンを攻略するつもりがどんどん仲間が増えて力も手にし異世界を脅かす程の最強パーティになっちゃいました。 あまりに強大な力を手にしたレイ達の前に、最高権力のロックロス家が次々と刺客を送り込む。 様々な展開が繰り広げられるファンタジー物語。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

処理中です...