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第三章 溢れる想い、深まる苦悩

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 天音は帽子を目深に被り、さらに眼鏡をかけている。
 そうでもしなければ、彼の美貌はあまりにも人目についてしまう。

 服装も目立たないような灰色の上下だ。
 いつもとまるで違う服装が、探偵の変装めいている。

 この、秘密のランデブー自体もまるで探偵小説の一場面のようだ。
 
 決まりを破る後ろめたさ。
 そして、愛しい人との秘密の逢引。
 それらのすべてが、彼女の心をとろかした。

 美津とはそこで別れた。

 お小遣いを渡して、前から行きたいと言っていた勧工場(ショッピングセンターのようなもの)でしばらく時間をつぶしてもらい、その間、二人で過ごすのだ。

「さて、どこへ行こうか」
 天音も思案顔だ。

 先生の許可をいただいているとはいえ、制服のまま、甘味屋ののれんをくぐるわけにもいかず、パーラーでアイスクリームをいただくわけにもいかない。

 ましてや最近、開店したカフェーに行くなんて、もってのほかだし……

 制服を着ていなくても、もし先生に見られたら不良と思われてしまう。

 桜子が思案していると、天音はさらに際どいことを小声で呟いた。

「まさか制服の桜子を待合のようなところに連れていくわけにも行かないし」

 待合……男女がひそかに愛を交わす場所だと聞いたことがある。

 その言葉を聞いて、にわかに先日の図書室の夜のことを思いだし、桜子は顔に血が上ってくるのを覚えていた。

「なんだい? そんなに顔を赤くして。桜子は案外いけない子だね。待合がどういうところか知ってるんじゃ」
 と、天音はわざとそんなことを言う。

「もう、嫌な天音」
 
 笑いながら天音は「ああ、あそこなら」と言った。
「どこ?」
「行けばわかるさ」

 少し歩いて大きな西洋風の建物の前に来た。
 そこはキリスト教の教会だった。

 確かに、教会なら他人に見られても問題はない。
 祈りを捧げに来た人間が咎められることはないだろう。
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