苺の誘惑 ～御曹司副社長の甘い計略～

第５章 最高に幸せで切ない休日

６

　それから30分ほど飛行を続け、ヘリポートに戻った。

　先に降りた芹澤さんはわたしの座席のほうに回り、
「ほら」と言って、手を貸してくれた。
「あっ、すみません」
　
　手を握り、彼の体温がわたしの手に伝わってきた瞬間。

　今日の空のように、雲ひとつなく澄みわたっていたわたしの心が、にわかに沸き上がるやるせなさで覆われていった。

　最高の休日はこれでおしまい……

　芹澤さんとふたりきりで過ごした数時間、幸せすぎた。
　予想を遥かに超えていた。

　この時間がずっと続いてくれたら……
　偽装なんかじゃなくて、彼と本物の恋人同士ならどんなに……

　ないものねだりはいけない、と気持ちを押しとどめようとすればするほど、胸を締めつけるような切なさに襲われる。

「大丈夫？　気分が悪くなった？」
　急に表情を変えたわたしを気づかって、芹澤さんが訊く。

　まずい。顔に出てしまったみたい。

「いいえ、大丈夫です。本当に最高の気分でした。ずっと飛んでいたかったぐらい」

　宗太さんと一緒に、という言葉はぐっと飲み込む。

「喜んでもらえて良かったよ。だって……」

　芹澤さんが何か言おうとしたとき、ヘリが一基飛び立った。

　辺りは大きなプロペラ音に包まれ、彼の言葉をかき消した。

「えっ、今、なんかおっしゃいました？」

　芹澤さんは一瞬、口を開きかけたけれど、すぐに首をふった。
「いや、なんでもないよ。さて、そろそろ帰ろうか」

　彼は大きく伸びをして、それから駐車場に向かって歩きだした。