恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那

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第6章 パーテーションの陰で

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 ど、どうしよう。
 逆に落ち着けないんだけど。

 自分でも鼓動が高まっていくのがわかる。
 心臓の音、伝わっちゃうんじゃないかな。
 早く離れないとどうかなってしまいそう。

 でも……

 このままずっとこうしていたい。
 そんな気持ちがヤカンの底で沸騰するお湯みたいに、次から次へと沸き上がってきた。

 もし、彼の鼓動もわたしのように高まっていたら。
 わたしは躊躇なく彼の背に腕を回していたかもしれない。

 でも、彼はいつもとまったく同じ。
 1ミリも動じる気配がない。

 たぶん、あのとき、転んだ男の子を抱っこしているような感覚でいるのではないか。

 それぐらい、彼の態度は平静を極めていた。
 つまり、恋愛対象だと思われてないってことだ。

 深夜の、ふたりきりのオフィスでこうして抱き合っているというのに……

 わたしは彼の胸に手をおき、身体を離した。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」

「ほら、そこに座ってろ。タクシーを呼ぶから」
 そう言いながら、部長はスマホを取りだそうとする。

「いえ、電車で」

「いや、また電車で気分が悪くなったらどうする。遠慮するな。俺も一緒に乗るから」 

 そして、なかば強引にタクシーに載せられた。

 わたしはまだ、さっきのアクシデントのことが頭から離れず、上の空だった。
 でも部長はもうそんなこと、きれいさっぱり忘れてしまったように企画のことを話し続けた。

 わたしが相槌を打つので精一杯だからか、いつもより若干おしゃべりだったけど。

 そして、タクシーが私の家の前に着くと「ゆっくり休めよ」と、わたしを降ろした。

 そうして車に乗ったまま、片手を上げ、あっけなく走り去っていった。
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