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第3章 元カレとの再会
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依頼の詳細は掴めたので、ひと月後に素案を持参すると約束を交わして、わたしたちは席を立った。
「では失礼します」
会社の玄関口まで見送ってくれた宗一郎さんに挨拶をして、そのまま立ち去ろうとしたとき、「かり、あ、いや、辻本さん」と声をかけられた。
わたしは振り返った。
「はい?」
「いや……えーと」
とっさに声をかけてしまったという感じで、宗一郎さんはなんと言えばいいか考えあぐねている。
この状況にいち早く反応したのは部長だった。
「先に行っている」
そう言うと、宗一郎さんに会釈して、ポケットに片手をつっこみ、駅に向かって歩きだした。
「びっくりしたよ。まさか花梨が担当者だなんて」
「わたしも『ヤマモト』の仕事を担当しろって言われたときはほんとに驚いた。それにすごく困った。宗一郎さんにどんな顔して会えばいいかわからなくて」
宗一郎さんはふっと微笑んだ。
その笑顔は昔のまま。
「率直なところ、ぜんぜん変わってないな。何年ぶりになるのかな」
「4年……かな」
「そうか、もうそんなになるんだね」
「あのときは……」
そう言って謝ろうとしたわたしを、彼は制した。
「何も言わなくていいよ。こんなにいきいきと仕事をしている姿を見たら、あの時の花梨の選択が正しかったことがよくわかったよ」
「宗一郎さん……」
懐かしさに引きずられそうになる自分をとどめ、わたしは言った。
「あの、部長を待たせているから、これで」
「ああ、そうだね。引き留めてごめん。じゃあ、また。次回の打ち合わせ楽しみにしてるから」
「うん。気に入ってもらえる提案ができるように頑張るね」
わたしは力こぶを作って、ちょっとおどけた。
宗一郎さんはそんなわたしに笑顔で答えてくれた。
「では失礼します」
会社の玄関口まで見送ってくれた宗一郎さんに挨拶をして、そのまま立ち去ろうとしたとき、「かり、あ、いや、辻本さん」と声をかけられた。
わたしは振り返った。
「はい?」
「いや……えーと」
とっさに声をかけてしまったという感じで、宗一郎さんはなんと言えばいいか考えあぐねている。
この状況にいち早く反応したのは部長だった。
「先に行っている」
そう言うと、宗一郎さんに会釈して、ポケットに片手をつっこみ、駅に向かって歩きだした。
「びっくりしたよ。まさか花梨が担当者だなんて」
「わたしも『ヤマモト』の仕事を担当しろって言われたときはほんとに驚いた。それにすごく困った。宗一郎さんにどんな顔して会えばいいかわからなくて」
宗一郎さんはふっと微笑んだ。
その笑顔は昔のまま。
「率直なところ、ぜんぜん変わってないな。何年ぶりになるのかな」
「4年……かな」
「そうか、もうそんなになるんだね」
「あのときは……」
そう言って謝ろうとしたわたしを、彼は制した。
「何も言わなくていいよ。こんなにいきいきと仕事をしている姿を見たら、あの時の花梨の選択が正しかったことがよくわかったよ」
「宗一郎さん……」
懐かしさに引きずられそうになる自分をとどめ、わたしは言った。
「あの、部長を待たせているから、これで」
「ああ、そうだね。引き留めてごめん。じゃあ、また。次回の打ち合わせ楽しみにしてるから」
「うん。気に入ってもらえる提案ができるように頑張るね」
わたしは力こぶを作って、ちょっとおどけた。
宗一郎さんはそんなわたしに笑顔で答えてくれた。
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