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4章 憂鬱のジャンヌ
確執
しおりを挟む「帝国からの手紙を読みましたか?」
ジャンヌの部屋から一番遠い位置にある部屋がヴィクトリアの部屋だった。
部屋の壁一面に鮮やかな花の絵画、床一面に敷き詰められた花柄のカーペット。よほど花が好きなのか、自らの胸にも大きな黄色い花を飾ってある。
「手紙? 手紙というものは封がされた状態の物でしょう? 封が切られた私宛の書類なら目を通しましたが」
ブスっとした表情で椅子に深く腰かけるジャンヌ。
「クククッ! これは千載一遇のチャンスである。我がパシアルドーファン家が皇帝一族の仲間入りが出来るとは! クックック」
天然パーマの金髪に細長い顔、タレ目、幅広い口、というジャンヌに全然似てないこの母親を見るのは三度目だ。
一度目はジャンヌが公の地位を承継したお披露目式、二度目は王の称号を授かったジャンヌのお祝いパーティーでだ。どちらも祝いの席には似合わない、終始能面みたいな顔だった。当のジャンヌもそんな母親に近寄る事すらしなかったっけな。
向かい合った椅子に座りながらも、お互いそっぽを向いているヴィクトリアとジャンヌ。
「いっておきますが母上、私は皇帝に嫁ぐ気はありませんよ」
ジロリと目だけをジャンヌに向けるヴィクトリア。
「一族の為に名家へ嫁ぐは女の誇り、その最上のチャンスをあなたはみすみす手放すおつもり?」
組んでた片足を床に叩きつけるジャンヌ。
「女を道具みたいに使う、これからの時代そんな考えは古いと思いますが? と言うか、クソ喰らえ!……と思いますが」
再び足を組むジャンヌ。
「汚い言葉使いに、訳のわからない言い訳をして。皇帝のもとへ嫁ぎなさい。ジャンヌ」
「いやです」
「母からの命令である。嫁ぎなさい」
「い・や・で・す」
溜め息をつくヴィクトリア。
「ならこうしましょうか、レイチェルと勝負しなさい。勝ったなら諦めましょう。でも、負けたなら皇帝に嫁ぎなさい。そして王の地位をレイチェルに譲りなさい。まさかとは思いますが断る気はないでしょうね?」
レイチェル? 何だっけ、どっかでその名を聞いたな。
「おい、ジャンヌ。レイチェルって誰だ?」
俺の言葉が聞こえてないのか、ジャンヌがヴィクトリアを睨んでいる。怒っているというより悔しげだ。人の弱みにつけ込んで、といった風に。
「わかった」
ジャンヌがゆっくり椅子から立ち上がるとヴィクトリアに背を向け、扉へ歩き出した。
妙におとなしいジャンヌに俺は声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
突如体を反転させたジャンヌがヴィクトリアに指を向けて叫ぶ。
「この卑劣な奴め! いいように私の姉を利用しやがって! お前が私の母だと思うと虫唾が走る!」
目を細め、薄っすらと笑みを浮かべたヴィクトリアがゆっくりと手を動かした。
“早く出て行け”というジェスチャーなのはすぐにわかった。
つづく
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