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3章 決闘

フィンガー男爵

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 何百ものランプが並ぶ繁華街には、あらゆるギャンブル店が軒を連ねていた。
 その中でも一際大きな店に、俺とジャンヌ一行は入店した。
 中は天井が高く、壁の区切りもない開放的な空間で、ルーレットやトランプなどのテーブルゲームのブースがゆったりとした間隔で置かれていた。 

 (おいタクミ、例のパスカードを持っている男はどこにいるのだ?)

 「あーっと……いたいた、ほれ、あのスゲエ奴だ」

 俺の指差した先を見たジャンヌが
「げっ」
 と声を上げる。

 鳥の巣状の髪型、巨大なカバ顔、ボンレスハムみたいな巨漢が特製のデカい椅子に座って
いる。

 「医者なんだけどよ、ここじゃフィンガー男爵で通っている。何でそう呼ばれてるのかというと、賭けで負けた相手の指を切り落とし、その骨をコレクションしているからだ」
 (見た目も趣味もゲスな奴だな)
 「だからこそ遠慮なく頂けるんだよ、VIPルームへのパスカードをな」
 (クライヴはそのVIPルームとやらに居るんだろうな?)
 「あたりめーだろ、俺の下調べバカにすんな」
 (ならとっとあのカバガエルと勝負しに行くぞ、タクミ)
 「カバガエル? ぷっ、お前うまいこと言うな」

 カバガエルの存在が一際目立つテーブルに近づいたところで悲鳴が起こる。
 声の主はフィンガー男爵と対戦していた美形カップルからだった。

 「ブフォーフォッフォー、私の勝ちぃ! それではミスターから右手の中指、ミスからは右手の小指、頂きますよォ」

 男爵の耳障りなダミ声に二人は何か懇願するような言葉を叫んだが、テーブル脇に並んでいた黒いタキシード数人により、その場から連れ去られた。

 「ブフォ……、これで新しいフィンガーコレクションが増えるわ。うーん、男の指に女の指も組み合わせた今回の作品名はー……、うーん……」

 うわの空で独り言をつぶやく男爵。

 「閃いた! 両性入り乱れ手(て)!! ブフォー!」

 口から泡を飛ばしたフィンガー男爵は嬉しそうに指輪だらけの両手を叩いた。

 「当方初心者だが、相手をしてもらえるかな?」

 ジャンヌが先程まで美形カップルが座っていた椅子へ腰かける。

 「…………」

 きょとんとした顔から一転、じーっと獲物を物色する目付きになる男爵。

 「手、手を見せなさい。両手ね」
 「ほい」

 広げた両手に、男爵が喜色満面で顔を近づける。

 「んん、いいんじゃなーい。じゃあ、左手の小指を賭けてもらおうかしら」

 口元に人を食ったような笑みを浮かべたジャンヌが、一瞬だけ男爵に人差し指を向ける。

 合図だ。 
 俺に男爵の思考を読め、っていう。

 「この小娘、生意気にもイルローズのネクタイなんかして、どっかの小金持ちの不良娘と見たよォ。イキがってここに来たこと後悔させてあげるよォ! だと」
 
 イヌワシの巣みたいな男爵の頭に指を差した俺は言った。

 「おい、カバガエル」
 「……!? ん?……んん?」

 ジャンヌの言葉に、男爵が目をパチパチさせる。

 「私は小指を賭ける。そちらは何を賭けるのだ? カバガエル」
 「んん? カバ……ガエル……ん? それってもしかして、私の……ん?」
 「こちとら金には困ってなくてな、金以外のものを賭けられるかと聞いているのだ、カバガエル」
 「わ、わたしは……」

 男爵の身体が小刻みに震え始める。

 「カバガエルじゃないっての!!」

 ゼーハーと息を吐き、両手でテーブルを叩く男爵。

 「……そうね、私の身体や命以外なら何でも賭けるわよォ」
 「ふん、カバガエルの身体や命なぞ誰がいるか」

 おいおい、イラつかせスキルもたいがいにしろよ。血管切れて男爵倒れちまうぞ。

 そんな俺の心配をよそに、冷たい眼差しを男爵に向けるジャンヌ。

 「VIPルームへ入れる、パスカードを賭けてもらう」

 巨顔を近づける男爵。ジャンヌはそれにまったく微動だにしない。
 さながらマッコウクジラとイルカの睨み見合いだ。

 「いいよォ、でもねェ、それだと左手の指を全部賭けて貰うことになるけどォ?」
 「ではお互い賭けるものは決まったな」

 間髪入れず答えるジャンヌに男爵の顔色が変わる。

 (この小娘ェ……頭イカれてるんじゃないのォ?)

 男爵の思考に苦笑する俺。

 (ふん、まあいいよォ。絶対!!! 私には勝てないんだからねェ)

 さーて、イカサマ対イカサマの勝負開始、ってか。

 
 つづく 
 

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