廃棄街のポロネーズ

妙儀

文字の大きさ
上 下
3 / 5
2 失われた世界

小屋

しおりを挟む
 「セイナ」

 女性の優しい声が自分を呼んでいる。

 「セイナ」

 今度は男性の優しい声だ。
 女性と男性の顔が自分を覗きこんでいる。
 天井の照明による逆光で顔は良く見えないが、自分の両親なのであろう。

 「皆さんは人類のより良い未来を作り出す為、ここにいるのです」

 議長が会議室の中央でそう言っている。
 何度誇りに思い、何度不安で押しつぶされそうにさせた言葉。
 回りにはまだ幼い、だが見慣れた十二人の面々が座っていた。
 そう、物心ついたときからいた、自分以外の人間。
 私はその中でも、自他共に認める高い研究能力の持ち主だ。

 一部の者が影で自分のことをとやかく言っているのは知っていた。
 どれだけ私が研究に力を注いでいるかも知らず、妬んでいる者など鼻で笑うしかない。
 そう、あの“宇宙”を見たことも無い連中など、哀れみの目で見ていればいいのだ。

 議長はそんな私をよく褒めてくれた。
 だが私は、自分の両親に抱きしめられ、褒めて貰いたかった。

 その両親はどこにいるのだろうか?

 そういえば去年、自身の誕生会で満面の笑みを浮かべるドワイトを見て、十三人會きっての皮肉屋ジョルノが、自分の隣の席でボソリと言ったのを思い出す。

 「試験管ベイビーの誕生会か」

 それは直視したくない自分の不安を突く言葉だった。
 ちょうどガラクタが山積みされた押入れの戸をそっと覗き込むのに似ており、運悪く振動を与えればホコリまみれのガラクタに飲み込まれるようなものだった。
 慌てて私は押入れの戸を両手で閉めた。

 自分が試験管の中から誕生したなど考えるのも恐ろしい。
 でも、もしあの記憶、逆光で見えない両親の顔がもし、作られたものなら?
 私はいったい……いったい……


 セイナは汗まみれで起き上がった。
 体の上には薄汚れた毛布がかかっている。その毛布から発する異臭に顔をしかめ、セイナはゆっくりと立ち上がった。
 そこは大人四人が横になれば一杯になるような小屋の中だった。
 壁に大きな色あせた海のポスター、小さな棚の上にはガラクタみたいなコップに工具、生活用品。
 セイナはフードを外そうと引っ張ったが、半透明の部分が顔に当たり外れない。困ったセイナはあちこち触りながら外れる部分を探したが見つからなかった。

 「あ~、もう外れてよ!」

 フードを引っ張りながらそう言うと、あっけなくフードは顔から外れた。が、その勢いでバランスを崩したセイナは軽く悲鳴をあげて尻餅をついてしまった。

 「あ、起きた」

 その声にセイナが顔を向けると引き戸が開いており、少女が立っていた。

 「どっかおかしいとこない? あんなデッカイの頭にくらってさ」

 尻餅をついたセイナの前に、しゃがみ込んだ少女の人指し指が、四十インチはあるヒビの入ったモニターを指した。


 つづく
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Wild in Blood~episode dawning~

まりの
SF
受けた依頼は必ず完遂するのがモットーの何でも屋アイザック・シモンズはメンフクロウのA・H。G・A・N・P発足までの黎明期、アジアを舞台に自称「紳士」が自慢のスピードと特殊聴力で難題に挑む

ベル・エポック

しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。 これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。 21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。 負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、 そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。 力学や科学の進歩でもない、 人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、 僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、 負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。 約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。 21世紀民主ルネサンス作品とか(笑) もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正で保存もかねて載せました。

英雄の息子だし軍に入ったけど、戦う気がないから追放、最新鋭機を操縦できる最強の存在だからって、また期待されても、悪いけど今は整備士だから。

ちちんぷいぷい
SF
太陽系の大地球圏を中心とし、植民惑星を支配する銀河連合。 宇宙開拓暦2345年。  第2次星間大戦が勃発。 シリウス星系の惑星ティル・ナ・ノーグを盟主とした シリウス同盟は、独立をかけ、再び立ち上がる。 大戦のさなかに現れた強敵ーー。 シリウス同盟の最新鋭小型戦闘宇宙船『インフィニティ』。 銀河連合は、『インフィニティ』打倒のため 第9世代小型戦闘宇宙船スクエアを投入する『スクエア作戦』を発動した。 彗星の如く現れた銀河連合、新鋭のエース 銀髪赤眼のマリア・ルカ大尉はスクエア0号機 ファルシオンに搭乗し、機動要塞ネフィリムに着任した 謎の女性マリアの正体と秘められた真の目的ーー。 先の星間大戦の英雄である父を持つ ユウキ・スレインは 天性の素質を持つ操縦士として 周囲から期待されるが 戦う覚悟がなく 居場所をなくしてしまい 銀河連合に所属する、機動要塞ネフィリムに整備士として乗艦していた。 スクエアを超えた、次世代新型戦闘宇宙船開発計画 『ネクスト』。 ネクスト実験機とし、開発された1号機『ノヴァ』に 唯一、承認された、ユウキは再び、操縦士となり戦うことを選ぶのか。 2万年もの悠久の時を刻み、太陽を廻る白きプラネット 太陽系第9番惑星エリュシオンで新たな時代の戦いの幕があがろうとしている。 『機動要塞ネフィリム』

水槽のキリーフィッシュ

凪司工房
SF
【汚染され、皆同じスーツ姿の世界で、それでも私は望む。彼女の姿が見たい――と】 近未来。外を出歩く為には銀色のスーツとヘルメットに身を包まないといけない。 そんな中で学生生活を送るイチミヤエリカは委員長のサエキヨウコに特別な思いを寄せていた。 これは着飾ることが失われた息苦しさの中で、それぞれに考え、もがき、望んだ、少女たちの物語。

The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-

とちのとき
SF
Summary: The girls weave a continuation of bonds and mythology... The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure. Illustrations & writings:Tochinotoki **The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular. ※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。

時空超越少年

シンマヨ
SF
アニメ感覚で簡単に読めるのがウリの小説! 時空超越少年 現代と未来を融合させたファンタジー。 気が付けば見知らぬ土地、何が待ち受けているのか。

SFサイドメニュー

アポロ
SF
短編SF。かわいくて憎たらしい近未来の物語。 ★ 少年アンバー・ハルカドットオムは宇宙船飛車八号の船内コロニーに生まれました。その正体は超高度な人工知能を搭載された船の意思により生み出されたスーパーアンドロイドです。我々人類はユートピアを期待しています。彼の影響を認めれば新しい世界を切り開けるかもしれない。認めなければディストピアへ辿り着いてしまうかもしれない。アンバーは、人間の子どもになる夢を見ているそうです。そう思っててもいい? ★ 完結後は2024年のnote創作大賞へ。 そのつもりになって見直し出したところいきなり頭を抱えました。 気配はあるプロト版だけれど不完全要素がやや多すぎると猛省中です。 直すとしても手の入れ方に悩む部分多々。 新版は大幅な改変になりそう。

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

処理中です...