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2 失われた世界
小屋
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「セイナ」
女性の優しい声が自分を呼んでいる。
「セイナ」
今度は男性の優しい声だ。
女性と男性の顔が自分を覗きこんでいる。
天井の照明による逆光で顔は良く見えないが、自分の両親なのであろう。
「皆さんは人類のより良い未来を作り出す為、ここにいるのです」
議長が会議室の中央でそう言っている。
何度誇りに思い、何度不安で押しつぶされそうにさせた言葉。
回りにはまだ幼い、だが見慣れた十二人の面々が座っていた。
そう、物心ついたときからいた、自分以外の人間。
私はその中でも、自他共に認める高い研究能力の持ち主だ。
一部の者が影で自分のことをとやかく言っているのは知っていた。
どれだけ私が研究に力を注いでいるかも知らず、妬んでいる者など鼻で笑うしかない。
そう、あの“宇宙”を見たことも無い連中など、哀れみの目で見ていればいいのだ。
議長はそんな私をよく褒めてくれた。
だが私は、自分の両親に抱きしめられ、褒めて貰いたかった。
その両親はどこにいるのだろうか?
そういえば去年、自身の誕生会で満面の笑みを浮かべるドワイトを見て、十三人會きっての皮肉屋ジョルノが、自分の隣の席でボソリと言ったのを思い出す。
「試験管ベイビーの誕生会か」
それは直視したくない自分の不安を突く言葉だった。
ちょうどガラクタが山積みされた押入れの戸をそっと覗き込むのに似ており、運悪く振動を与えればホコリまみれのガラクタに飲み込まれるようなものだった。
慌てて私は押入れの戸を両手で閉めた。
自分が試験管の中から誕生したなど考えるのも恐ろしい。
でも、もしあの記憶、逆光で見えない両親の顔がもし、作られたものなら?
私はいったい……いったい……
セイナは汗まみれで起き上がった。
体の上には薄汚れた毛布がかかっている。その毛布から発する異臭に顔をしかめ、セイナはゆっくりと立ち上がった。
そこは大人四人が横になれば一杯になるような小屋の中だった。
壁に大きな色あせた海のポスター、小さな棚の上にはガラクタみたいなコップに工具、生活用品。
セイナはフードを外そうと引っ張ったが、半透明の部分が顔に当たり外れない。困ったセイナはあちこち触りながら外れる部分を探したが見つからなかった。
「あ~、もう外れてよ!」
フードを引っ張りながらそう言うと、あっけなくフードは顔から外れた。が、その勢いでバランスを崩したセイナは軽く悲鳴をあげて尻餅をついてしまった。
「あ、起きた」
その声にセイナが顔を向けると引き戸が開いており、少女が立っていた。
「どっかおかしいとこない? あんなデッカイの頭にくらってさ」
尻餅をついたセイナの前に、しゃがみ込んだ少女の人指し指が、四十インチはあるヒビの入ったモニターを指した。
つづく
女性の優しい声が自分を呼んでいる。
「セイナ」
今度は男性の優しい声だ。
女性と男性の顔が自分を覗きこんでいる。
天井の照明による逆光で顔は良く見えないが、自分の両親なのであろう。
「皆さんは人類のより良い未来を作り出す為、ここにいるのです」
議長が会議室の中央でそう言っている。
何度誇りに思い、何度不安で押しつぶされそうにさせた言葉。
回りにはまだ幼い、だが見慣れた十二人の面々が座っていた。
そう、物心ついたときからいた、自分以外の人間。
私はその中でも、自他共に認める高い研究能力の持ち主だ。
一部の者が影で自分のことをとやかく言っているのは知っていた。
どれだけ私が研究に力を注いでいるかも知らず、妬んでいる者など鼻で笑うしかない。
そう、あの“宇宙”を見たことも無い連中など、哀れみの目で見ていればいいのだ。
議長はそんな私をよく褒めてくれた。
だが私は、自分の両親に抱きしめられ、褒めて貰いたかった。
その両親はどこにいるのだろうか?
そういえば去年、自身の誕生会で満面の笑みを浮かべるドワイトを見て、十三人會きっての皮肉屋ジョルノが、自分の隣の席でボソリと言ったのを思い出す。
「試験管ベイビーの誕生会か」
それは直視したくない自分の不安を突く言葉だった。
ちょうどガラクタが山積みされた押入れの戸をそっと覗き込むのに似ており、運悪く振動を与えればホコリまみれのガラクタに飲み込まれるようなものだった。
慌てて私は押入れの戸を両手で閉めた。
自分が試験管の中から誕生したなど考えるのも恐ろしい。
でも、もしあの記憶、逆光で見えない両親の顔がもし、作られたものなら?
私はいったい……いったい……
セイナは汗まみれで起き上がった。
体の上には薄汚れた毛布がかかっている。その毛布から発する異臭に顔をしかめ、セイナはゆっくりと立ち上がった。
そこは大人四人が横になれば一杯になるような小屋の中だった。
壁に大きな色あせた海のポスター、小さな棚の上にはガラクタみたいなコップに工具、生活用品。
セイナはフードを外そうと引っ張ったが、半透明の部分が顔に当たり外れない。困ったセイナはあちこち触りながら外れる部分を探したが見つからなかった。
「あ~、もう外れてよ!」
フードを引っ張りながらそう言うと、あっけなくフードは顔から外れた。が、その勢いでバランスを崩したセイナは軽く悲鳴をあげて尻餅をついてしまった。
「あ、起きた」
その声にセイナが顔を向けると引き戸が開いており、少女が立っていた。
「どっかおかしいとこない? あんなデッカイの頭にくらってさ」
尻餅をついたセイナの前に、しゃがみ込んだ少女の人指し指が、四十インチはあるヒビの入ったモニターを指した。
つづく
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