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王子か鬼か③

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*ひなのside





——1週間後





ひな「ケホッ…………ケホケホ……」


藤堂「ひなちゃん、深呼吸してね」





藤堂先生が雷を落としてから1週間、わたしは本当に病室から出してもらえなかった。

というより、発作も熱もなかなか落ち着かなくて出ることができなかった。

熱は下がったけど、まだ咳と軽い発作が出てしまう。

聴診する藤堂先生も安心できるような顔はしていない。





藤堂「うん、いいよ。少しマシにはなったけど、まだ胸の音が気になるから今日も安静にしててね」


ひな「……」





いつもの優しい王子様なんだけど、ノートを取り上げられて怒られて、熱と発作で注射も座薬も嫌なこといっぱいされて、テストは全科目受けられずに夏休み突入。

たぶん、初めて藤堂先生が嫌いになった。





藤堂「……そしたら、またお昼に来るからね。寝ちゃって大丈夫だから、ゆっくり休むんだよ。何かあったらすぐ呼んで」





ぽんぽん……





……っ。





無視して黙ってたら、去り際に頭をぽんぽんされた。

嫌いだけど、優しく包み込んでくれる藤堂先生の声と笑顔と匂いと……というか、藤堂先生の全てにまんまとやられる。

嫌いだけど、藤堂先生なんて嫌いだけど……





……はぁ、もう。





もっとブスで意地悪な主治医だったら遠慮なく嫌いになるのに、王子様なのは本当ずるい……。










***



~食堂~



昼休み。

今日も偶然黒柱が揃い、みんなで昼食タイム。





宇髄「藤堂、そんな落ち込まんでも(笑)」


藤堂「俺、ひなちゃんにこうして嫌われるの初めてです」


五条「俺なんかもうどれだけ嫌われてると思ってるんですか……」


藤堂「悠仁は嫌われようが何だろうが、恋人だから絶対戻ってくるでしょ?俺は所詮ただの主治医だからさ。はぁ、ひなちゃんに嫌われるって堪えるね……」


工藤「ただの主治医ではないと思いますよ?ひなちゃんは藤堂先生以外の主治医なんて考えられないんじゃ?」


神崎「そうですよ。そんな悩まなくても、藤堂先生は永遠の王子様だから大丈夫です。ひなちゃんが藤堂先生を嫌いになるなんて、ないですないです!」


藤堂「でもさ、結局試験受けさせなかったんだよ?ノートもまだ取り上げたまま、勉強だってさせないのに、ひなちゃんの嫌いな注射や吸入はしてって、今の俺はきっと鬼だろうな。さすがに今回は嫌われたよ。王子様でいたかったけど(笑)」


工藤「そういえば、追試はいつなんですか?」


藤堂「それが、傑に聞いたら1週間後だって。その後すぐに再試があって、お盆明けに再再試みたい」


宇髄「1週間後か。今無理させると後に響くがなー……でも、さすがに追試は受けさせないといきなり落第させるわけにいかんし、やむを得んか」


藤堂「えぇ。ただ、身体にかなり負担がかかるのは事実なので、昼からひなちゃんと話をしようかと。入院が伸びて長丁場になるのは目に見えているので、先にその覚悟はさせておきます」





ということで、昼休憩後、いくつか仕事を終えた藤堂はひなのの元へ。










***



コンコンコン——





藤堂「ひなちゃん、こんにちは」





15時頃、部屋に藤堂先生が来た。

わたしはサッと背を向けて布団を被る。





藤堂「もぉ~。そんなすぐに隠れないで(笑)」





ふんっ!

藤堂先生の顔なんて見たくないんだから。





藤堂「気分はどう?お昼たくさん残してたけど、食欲なかった?」


ひな「……」


藤堂「ねぇねぇ、ひなちゃん。先生、ひなちゃんと少しお話ししたいな。だから、先生にお顔見せて」


ひな「……」


藤堂「うーん、やっぱり嫌か。ひなちゃんとお話ししながら食べようと思って、おやつも持って来たんだけどなー」





……お、や、つ?





ひな「……ケホッ、ケホケホ!」





プリンかな?メロンパンかな?と、不覚にもおやつは食べたいな……と思ってしまい、口の中に唾液が溢れてきたせいでむせてしまった。





藤堂「ひなちゃん、そっち向いたままでいいから顔だけ出しな。お布団に潜ってると喘息出ちゃうから」


ひな「…………ケホッ、ケホケホケホッ……」


藤堂「ほーら、ひなちゃん?発作出るよ」





無視してたけどまたすぐ咳が出てしまい、発作になるのはさすがに怖いので、仕方なく顔だけ出した。





藤堂「お利口さん。大丈夫?苦しくなってない?」





ぽんぽん……





ピクッ……





もぅ……ここの先生たちはすぐ頭触る……。

それをされると気が抜けちゃうから、そうやって頭撫でないでよ……。





と思ってたら、





……!!





天井の方から、目の前に、ゆーっくりと、キラキラ輝くあんみつが舞い降りてきた。





藤堂「ふふっ。美味しそうでしょ。これあんみつって言うの。ひなちゃん食べたことある?」





食べたことない……

けど、あんみつは知ってるし、食べてみたかった。





……ゴクッ





そんなあんみつを目の前に差し出され、思わず喉が鳴ってしまう。



でも、こんなの絶対機嫌取り。

藤堂先生なんかに、騙されちゃダメ!



と、あんみつを見つめながらグッと我慢。





ひな「……」


藤堂「あれ、ひなちゃん本当にいらないの?ここのあんみつ美味しいのに~」





って言いながら、藤堂先生はわざとあんみつをフリフリしてくる。





ひな「……ゴクッ」


藤堂「ふ~ん、いらないの。じゃあ、こっちならどう?」





と、あんみつが引っ込むと、今度は取り上げられたノートが降りてきた。

これには、あっ……!となって布団から手を伸ばすと、またすぐにひょいっとされてしまい、





ひな「あ、ちょっと……!!」





ノートを追いかけるように藤堂先生の方へ振り返ると、ちゃっかり目が合った。





藤堂「いつまでも意地張ってないの。ノート返してあげるから、まずはちゃんとお話ししよう。ね?ほら、座って。あんみつも食べるよ」





ぽんぽん……

ニコッ

キラキラキラ~





と、優しい笑顔の王子様に、ここで敢え無く降参した……。










***



——30分後



美味しいあんみつを食べて、





はぁ……あんみつ美味しい。

しあわせ。

藤堂先生はやっぱり本当に王子様よね。こんなリアル王子様に出会える世界線ってどこにある?

藤堂先生以外の主治医なんてあり得ないよ、絶対無理。だからもう、怒らせないようにしよっと!





と、すっかり機嫌が戻っていたのも数分前までのこと。

わたしは今また、完全に俯いてしまってる。



この前受けられなかったテストの追試が1週間後。

追試は余裕を持った日程になっておらず、朝から晩まで3日間ぶっ通し。

再試に引っかかれば、翌日以降もさらに続く可能性だってある。

追試を受けることは許可されたけど、本来ならば安静が必要な状態。

身体に無理を強いることになるから、間違いなく悪化するだろうし、夏休みいっぱいは退院できなくなる可能性もあるって。

テストを受けるにあたって、そのことは予め覚悟しておくように言われた。





またしんどくなるのも、夏休みが無くなるのも嫌だけど、それはもう仕方ない……。

ちゃんと勉強して、テスト受けて単位取らないと。

そもそもわたしが医大生になった時点で、こういうことが起こるのは既に覚悟の上だったしね。





ひな「わかりました……それでもいいので、追試まで勉強もさせてください。再試に引っかからないように、ちゃんと勉強してテストに臨みたいです。テストが終われば、しっかり治療に専念します」


藤堂「よし。そしたら、このノートは返しておくね。でも、くれぐれも頑張り過ぎないように。テスト受けるの止めたりしないから、具合が悪くなれば必ず言うんだよ。約束ね、いいね?」


ひな「はい……」










***



そして、1週間後。



追試1日目は無事終了。

でも、その日の夜にさっそく熱が出てしまい、翌日、2日目のテストを終えて帰ってきたら、38度超え。





五条「ひな泣くな」


ひな「うぅ……こんなんじゃ明日集中できないじゃん。全部再試になるかもしれない……ヒック、ゲホゲホッ!」


藤堂「そんなに心配しなくても、ひなちゃんなら大丈夫。あのノート見てればわかるよ。よく勉強して理解できてるから。よし、ひなちゃんちょっと注射打つよ。すぐ終わるからね、いくよー……」





ピクッ……





ひな「……っ。もう、どうしてわたしはこんなすぐ熱出るの?せめて明日終わるまで待ってくれればいいのに。というか、わたしのノート勝手に見ないでよ……ばかっ!!」


五条「こ~らぁ、ひなぁ~?」


藤堂「ごめんごめん(笑)」


五条「自棄になりすぎだ、怒るぞ?」


ひな「やだ!しんどいんだから……しんどいのに怒らないでよ……。もう助けて……なんとかして……テスト落ちちゃうよ……うぅ……グスン、グスン」


五条「よしよし、しんどいな。しんどいのはわかってるから。藤堂先生、注射も点滴もしてくれたし、これで明日はなんとかなる。あとはひながしっかり寝たら、朝にはマシになってるぞ」





と、五条先生にもずっと付いててもらって、この日は早くに就寝。



そして、翌日の追試最終日。

朝は一旦微熱まで下がったものの、昼からはフラフラ。

それでもなんとか追試を終えると、そこからはもう完全にダウン。

翌日に1つだけ引っかかった再試を死にそうになりながら受けた後、高熱と喘息でしばらく寝込んでしまった。


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