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嘘と隠し事②

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藤堂「ひなちゃーんわかる?病院着いたよ」





救急車を降りるとさっそく藤堂先生の声がする。





ひな「ゔっ……っく……ハァッ、ゔゔぅ……っ……」


藤堂「息止めないよ。痛くてもちゃんと呼吸してて」





声をかけられながら初療室に運ばれると、





宇髄「ひなちゃーん、もう少し頑張るよ。意識飛ばさないぞ」





って、宇髄先生の声。





ひな「ん"っ……い"っっ……だぃ……ハァッ……ゔぅ……ハァッ……っ」


藤堂「ひなちゃん息して息!止めたら余計痛いよ、苦しくなるよ」





藤堂先生の優しい声が聞こえてくるけどそれどころじゃない。

こんなに痛いのは、久しぶりか初めてかも。





ひな「い"ぃ、っ……ハァハァ……ん"ん……っ……」


宇髄「ひなちゃん今から診るからなー。お手手退けるぞ」





と、お腹を押さえる手を退けられて、スカートとパンツを脱がされた。

すると、





宇髄「……ん?ひなちゃん生理じゃないのか?」





宇髄先生の言葉が聞こえて、





あっ……





頭の中が真っ白に。



今朝、五条先生に生理が来たって言ったこと、絶対に、間違いなく伝えられてる。

きっと宇髄先生は、わたしが生理痛で運ばれてきたと思ってたんだろう。

だけど、脱がしたパンツには血もナプキンもついてない。

これは、もう完全にやってしまった……。





宇髄「ひなちゃーん、ひなちゃんわかる?生理は?今お腹痛いの生理じゃないのか?」





肩をトントントンと叩かれてうっすら目を開けた。



生理じゃないです……

お腹痛いのは……どうしてでしょう。

たぶん、また悪いものが溜まってるんじゃないでしょうか……



なんて心の中では呟くけど、痛くてそんなこと言える状態じゃ……ううん、痛くなくても言えるわけない。

そして、





宇髄「ちょっとお腹押すぞ?」





下腹部を押さえられて、





ひな「ん"ん"ーーっ!!!」





この世の終わりかと思うほどの激痛が走る。





ひな「い"っ……ゔぅっ、い"ぃ……ハァッ……ん"…………っ……ハァッ……」





痛みによるものか、バレたことによるものか、とにかく冷や汗がダラダラ。





藤堂「ひなちゃん息するよ!頑張るよ!」


宇髄「こらこらこら、意識飛ばすな!」





意識保たなきゃいけないことはわかってるんだけど、痛みにもバレたことにもこれ以上は耐えられず、





もう、やだ……





わたしは意識を手放した。










***



*五条side





五条「はぁ……すみません……俺のせいです……」





宇髄先生と藤堂先生からひなの報告を受けた。

学校で腹痛を起こして倒れたひなは今ICU。

子宮にかなりの分泌液が溜まって炎症も起こし、39度を超える高熱が出てる。



宇髄先生の見立てによると、ひなにはしばらく生理が来てない。

熱が出るほどの炎症が起きてることを考えると、今日どころか半年くらいは生理が来てなかっただろうって。

熱や痛みが今まで出てなかったとしたら、偶然か奇跡だと。





五条「今朝は確かにしんどそうでした。でも、本人は大丈夫って言うし、俺も生理のせいだと思い込んでて……。ひなの大丈夫を過信しました」


藤堂「悠仁のせいじゃないよ。生理があったのにヘモグロビン値を疑わなかった俺が悪い。これは主治医の責任」


宇髄「五条も藤堂も悪くない。あれだけ張ったお腹、おかしいなんてとっくに気づいてたはずだ。それをここまで隠したひなちゃんが悪い。生理だって、来たと言われたら疑う余地がないだろ。例え家族だろうが恋人だろうが、血まで見るわけじゃないんだから……」


五条「それはそうですが、トイレに置いてあるナプキンが減ってるのとか、生理用ショーツが洗濯カゴに入ってるのは、俺なんとなく目にしてたんです」


藤堂「それって、嘘がバレないようにひなちゃんが計算でしてたってこと……?本当に生理が来てないならだけど」


宇髄「生理は100%来てないぞ。じゃないとこんなことになってない」


藤堂「ですよね……。ということは、ひなちゃんが賢くなったのか。いや、ズル賢くかな?どちらにせよ厄介だな……あの子に嘘も隠し事も上手くなられると相当困る」


五条「はぁ……ちょっと油断したらこれか。相変わらずあいつは……」


宇髄「呆れたもんだな。まぁ、容体が安定するまでは俺らこそ油断できないが……。今は工藤に付いててもらってるから、2人ともまた連絡する」


「「はい。よろしくお願いします」」










***



*ひなのside



目が覚めるとICUだった。

高熱とお腹の痛み、おまけに喘息も出てきてしまい、3日間もICUでうなされた。

今朝になって、容体が落ち着いたからと病室に移してもらえたんだけど……





宇髄「……」
藤堂「……」
五条「……」





ベッドに座るわたしは今、先生たちに鬼の形相で見つめられてる。

そしてなぜ先生たちが怒ってるのか、その理由はもちろんわかってる……。

この異様に張り詰めた空気の中、誰が何を言うでもなく、ただ冷たく鋭い視線を向けられてるのに耐えられなくて、自分から口を開いた。





ひな「ごめんなさぃ……」


宇髄「わかってるなら自分で言えるな。何がごめんなさいなんだ」





どう見ても怒ったら1番怖そうな宇髄先生は、やっぱり1番怖い。

腕を組み、淡々とした口調で問い詰めてくる。





ひな「嘘、ついてました……」


宇髄「どんな」


ひな「生理……本当は来てないのに、来たって……」


宇髄「そうだな。で、いつから来てなかった?」





え……?





いつから来てなかったって聞かれるとは思ってなかった。

倒れた日に嘘ついたことを怒ってるんだと思ったから、想定外のことに頭が混乱し始める。





五条「いつからって聞いてるだろ。返事せんか」





ビクッ……





五条先生の低い声……。

優しい五条先生が続いてて、この人が鬼であることをすっかり忘れてた。

鬼レベル……4.5だ。





ひな「その……だいぶ前から……」


五条「だからそれいつだ。俺は今日までに3回生理来たって聞いたんだがな。お前がぶっ倒れた日と、2ヶ月ほど前と、修学旅行のすぐ後と。どれが嘘だ、どっから嘘ついてた」





あっ……





ここで、先生たちの怒りが半端ではないことにも気づいた。

これまでの嘘も全部バレてるんだって……。





ひな「ごめんなさい……」


五条「ということは、全部嘘だな……?」


ひな「……」


宇髄「もちろん嘘だよな。でなきゃ、そんなパンパンな腹になってないもんな」





あぁ……終わった……





生理の嘘は、このお腹を隠すためだったってことも全部バレてる。

今回はICUにいる間、ずっと工藤先生がみてくれてた。

いつもなら、特にICUに入ったら、先生たちが嫌というほど代わる代わる来るのに、どうして工藤先生だけなんだろうって。

主治医の藤堂先生も来なきゃ、担当医の宇髄先生も来ない。そして、五条先生も来てくれない。

って、朦朧とする意識の中でずっと思ってた。

その理由はわたしのせいだったんだ。

わたしに呆れて怒ってたから、3人とも一度も来てくれなかったんだ。





あぁ、今すぐここから消えてしまいたい……





返事ができない代わりに、目に溜め込んでた大粒の涙をこぼした。





藤堂「ひなちゃんはいつになったら約束守るの?しんどい、痛い、苦しい……どれも1秒で言えることを絶対に言わないね。そのくせ、わざわざ嘘ついたり隠したり。いい加減にしなさい」


ひな「……ヒック……ック……ヒック……」





怒ったら1番怖そうなのは宇髄先生。

でも、実際に1番怖いのは藤堂先生だ。



キラキラ優しい王子様。

普段優しい人ほど、怒ると馬鹿みたいに怖いんだった……。

次に約束破ったら雷落とすって言われてたのにね。



藤堂先生の諭すような物言いに、ただ嗚咽をもらすしかない。





宇髄「ひなちゃん、本気で俺らに隠し通せると思ったか?」


五条「初めてお腹が悪くなった時も黙っててこんなことになったよな……?痛い思いして、嫌な治療も何回もしたのに、どうして同じこと繰り返すんだ!!我慢して倒れたら大変なことになる、周りのみんなにも迷惑かけるって、そんなこともわからないのか!!!」





宇髄先生に藤堂先生に、次から次へといろんなことを言われ、終いには五条先生に怒鳴られてしまい、





ひな「ごめん……ヒィッ、ク……なさ……ヒック……ケホケホッ、ぃ……ハァッ、ハァッ……ごめんなさい!! ……ケホケホケホッ……!!」





発作なんだか過呼吸なんだか、結局わたしはこうなってしまった。





藤堂「ひなちゃん、深呼吸するよ。もう大丈夫だから落ち着こうね」





さっきまでの怒気は一切消えて、いつもの優しい優しい藤堂先生の声がする。





宇髄「ゆっくりでいいから呼吸整えていくぞ」





宇髄先生もすっかり元通りだけど、わたしが先生たちのようにすぐ切り替えられるわけもない。





ひな「ケホケホッ……ハァハァッ……ごめんなさっ……ケホケホッ!! ……ッハァ……ヒック……ごめんなさぃ……ハァハァッ」


宇髄「ひなちゃん、もう謝らなくていいから落ち着こう。怒ってないから、な」


藤堂「1回吸入しようか。ひなちゃんお口開けてごらん」





怒ってないなんて言われても、さっきまでめちゃくちゃ怖かった。

わたしのせいでこうなったことも、先生たちがもう怒ってないこともわかるけど、身体が勝手に先生たちの手を払い除ける。





ひな「ヤダッ……ヒック、ヒック……ぅぅ……ケホッ……ケホッ、ケホケホッ!!」





すると、『はぁ……』とひとつ小さなため息をついた五条先生が、





五条「ひな」





ぎゅっ……





って、優しく包み込んできた。





五条「すぐパニックになるな。もう大丈夫だから、ほら一緒に落ち着くぞ。ゆっくり吸ってー……はい、吐いてー……」





本当はこんなに優しいのに、わたしのバカ……。

嘘なんてつくんじゃなかった……。



後悔先に立たずとはこのことかと、覚えたての言葉がただ頭の中で繰り返される。


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