131 / 209
嘘と隠し事②
しおりを挟む藤堂「ひなちゃーんわかる?病院着いたよ」
救急車を降りるとさっそく藤堂先生の声がする。
ひな「ゔっ……っく……ハァッ、ゔゔぅ……っ……」
藤堂「息止めないよ。痛くてもちゃんと呼吸してて」
声をかけられながら初療室に運ばれると、
宇髄「ひなちゃーん、もう少し頑張るよ。意識飛ばさないぞ」
って、宇髄先生の声。
ひな「ん"っ……い"っっ……だぃ……ハァッ……ゔぅ……ハァッ……っ」
藤堂「ひなちゃん息して息!止めたら余計痛いよ、苦しくなるよ」
藤堂先生の優しい声が聞こえてくるけどそれどころじゃない。
こんなに痛いのは、久しぶりか初めてかも。
ひな「い"ぃ、っ……ハァハァ……ん"ん……っ……」
宇髄「ひなちゃん今から診るからなー。お手手退けるぞ」
と、お腹を押さえる手を退けられて、スカートとパンツを脱がされた。
すると、
宇髄「……ん?ひなちゃん生理じゃないのか?」
宇髄先生の言葉が聞こえて、
あっ……
頭の中が真っ白に。
今朝、五条先生に生理が来たって言ったこと、絶対に、間違いなく伝えられてる。
きっと宇髄先生は、わたしが生理痛で運ばれてきたと思ってたんだろう。
だけど、脱がしたパンツには血もナプキンもついてない。
これは、もう完全にやってしまった……。
宇髄「ひなちゃーん、ひなちゃんわかる?生理は?今お腹痛いの生理じゃないのか?」
肩をトントントンと叩かれてうっすら目を開けた。
生理じゃないです……
お腹痛いのは……どうしてでしょう。
たぶん、また悪いものが溜まってるんじゃないでしょうか……
なんて心の中では呟くけど、痛くてそんなこと言える状態じゃ……ううん、痛くなくても言えるわけない。
そして、
宇髄「ちょっとお腹押すぞ?」
下腹部を押さえられて、
ひな「ん"ん"ーーっ!!!」
この世の終わりかと思うほどの激痛が走る。
ひな「い"っ……ゔぅっ、い"ぃ……ハァッ……ん"…………っ……ハァッ……」
痛みによるものか、バレたことによるものか、とにかく冷や汗がダラダラ。
藤堂「ひなちゃん息するよ!頑張るよ!」
宇髄「こらこらこら、意識飛ばすな!」
意識保たなきゃいけないことはわかってるんだけど、痛みにもバレたことにもこれ以上は耐えられず、
もう、やだ……
わたしは意識を手放した。
***
*五条side
五条「はぁ……すみません……俺のせいです……」
宇髄先生と藤堂先生からひなの報告を受けた。
学校で腹痛を起こして倒れたひなは今ICU。
子宮にかなりの分泌液が溜まって炎症も起こし、39度を超える高熱が出てる。
宇髄先生の見立てによると、ひなにはしばらく生理が来てない。
熱が出るほどの炎症が起きてることを考えると、今日どころか半年くらいは生理が来てなかっただろうって。
熱や痛みが今まで出てなかったとしたら、偶然か奇跡だと。
五条「今朝は確かにしんどそうでした。でも、本人は大丈夫って言うし、俺も生理のせいだと思い込んでて……。ひなの大丈夫を過信しました」
藤堂「悠仁のせいじゃないよ。生理があったのにヘモグロビン値を疑わなかった俺が悪い。これは主治医の責任」
宇髄「五条も藤堂も悪くない。あれだけ張ったお腹、おかしいなんてとっくに気づいてたはずだ。それをここまで隠したひなちゃんが悪い。生理だって、来たと言われたら疑う余地がないだろ。例え家族だろうが恋人だろうが、血まで見るわけじゃないんだから……」
五条「それはそうですが、トイレに置いてあるナプキンが減ってるのとか、生理用ショーツが洗濯カゴに入ってるのは、俺なんとなく目にしてたんです」
藤堂「それって、嘘がバレないようにひなちゃんが計算でしてたってこと……?本当に生理が来てないならだけど」
宇髄「生理は100%来てないぞ。じゃないとこんなことになってない」
藤堂「ですよね……。ということは、ひなちゃんが賢くなったのか。いや、ズル賢くかな?どちらにせよ厄介だな……あの子に嘘も隠し事も上手くなられると相当困る」
五条「はぁ……ちょっと油断したらこれか。相変わらずあいつは……」
宇髄「呆れたもんだな。まぁ、容体が安定するまでは俺らこそ油断できないが……。今は工藤に付いててもらってるから、2人ともまた連絡する」
「「はい。よろしくお願いします」」
***
*ひなのside
目が覚めるとICUだった。
高熱とお腹の痛み、おまけに喘息も出てきてしまい、3日間もICUでうなされた。
今朝になって、容体が落ち着いたからと病室に移してもらえたんだけど……
宇髄「……」
藤堂「……」
五条「……」
ベッドに座るわたしは今、先生たちに鬼の形相で見つめられてる。
そしてなぜ先生たちが怒ってるのか、その理由はもちろんわかってる……。
この異様に張り詰めた空気の中、誰が何を言うでもなく、ただ冷たく鋭い視線を向けられてるのに耐えられなくて、自分から口を開いた。
ひな「ごめんなさぃ……」
宇髄「わかってるなら自分で言えるな。何がごめんなさいなんだ」
どう見ても怒ったら1番怖そうな宇髄先生は、やっぱり1番怖い。
腕を組み、淡々とした口調で問い詰めてくる。
ひな「嘘、ついてました……」
宇髄「どんな」
ひな「生理……本当は来てないのに、来たって……」
宇髄「そうだな。で、いつから来てなかった?」
え……?
いつから来てなかったって聞かれるとは思ってなかった。
倒れた日に嘘ついたことを怒ってるんだと思ったから、想定外のことに頭が混乱し始める。
五条「いつからって聞いてるだろ。返事せんか」
ビクッ……
五条先生の低い声……。
優しい五条先生が続いてて、この人が鬼であることをすっかり忘れてた。
鬼レベル……4.5だ。
ひな「その……だいぶ前から……」
五条「だからそれいつだ。俺は今日までに3回生理来たって聞いたんだがな。お前がぶっ倒れた日と、2ヶ月ほど前と、修学旅行のすぐ後と。どれが嘘だ、どっから嘘ついてた」
あっ……
ここで、先生たちの怒りが半端ではないことにも気づいた。
これまでの嘘も全部バレてるんだって……。
ひな「ごめんなさい……」
五条「ということは、全部嘘だな……?」
ひな「……」
宇髄「もちろん嘘だよな。でなきゃ、そんなパンパンな腹になってないもんな」
あぁ……終わった……
生理の嘘は、このお腹を隠すためだったってことも全部バレてる。
今回はICUにいる間、ずっと工藤先生がみてくれてた。
いつもなら、特にICUに入ったら、先生たちが嫌というほど代わる代わる来るのに、どうして工藤先生だけなんだろうって。
主治医の藤堂先生も来なきゃ、担当医の宇髄先生も来ない。そして、五条先生も来てくれない。
って、朦朧とする意識の中でずっと思ってた。
その理由はわたしのせいだったんだ。
わたしに呆れて怒ってたから、3人とも一度も来てくれなかったんだ。
あぁ、今すぐここから消えてしまいたい……
返事ができない代わりに、目に溜め込んでた大粒の涙をこぼした。
藤堂「ひなちゃんはいつになったら約束守るの?しんどい、痛い、苦しい……どれも1秒で言えることを絶対に言わないね。そのくせ、わざわざ嘘ついたり隠したり。いい加減にしなさい」
ひな「……ヒック……ック……ヒック……」
怒ったら1番怖そうなのは宇髄先生。
でも、実際に1番怖いのは藤堂先生だ。
キラキラ優しい王子様。
普段優しい人ほど、怒ると馬鹿みたいに怖いんだった……。
次に約束破ったら雷落とすって言われてたのにね。
藤堂先生の諭すような物言いに、ただ嗚咽をもらすしかない。
宇髄「ひなちゃん、本気で俺らに隠し通せると思ったか?」
五条「初めてお腹が悪くなった時も黙っててこんなことになったよな……?痛い思いして、嫌な治療も何回もしたのに、どうして同じこと繰り返すんだ!!我慢して倒れたら大変なことになる、周りのみんなにも迷惑かけるって、そんなこともわからないのか!!!」
宇髄先生に藤堂先生に、次から次へといろんなことを言われ、終いには五条先生に怒鳴られてしまい、
ひな「ごめん……ヒィッ、ク……なさ……ヒック……ケホケホッ、ぃ……ハァッ、ハァッ……ごめんなさい!! ……ケホケホケホッ……!!」
発作なんだか過呼吸なんだか、結局わたしはこうなってしまった。
藤堂「ひなちゃん、深呼吸するよ。もう大丈夫だから落ち着こうね」
さっきまでの怒気は一切消えて、いつもの優しい優しい藤堂先生の声がする。
宇髄「ゆっくりでいいから呼吸整えていくぞ」
宇髄先生もすっかり元通りだけど、わたしが先生たちのようにすぐ切り替えられるわけもない。
ひな「ケホケホッ……ハァハァッ……ごめんなさっ……ケホケホッ!! ……ッハァ……ヒック……ごめんなさぃ……ハァハァッ」
宇髄「ひなちゃん、もう謝らなくていいから落ち着こう。怒ってないから、な」
藤堂「1回吸入しようか。ひなちゃんお口開けてごらん」
怒ってないなんて言われても、さっきまでめちゃくちゃ怖かった。
わたしのせいでこうなったことも、先生たちがもう怒ってないこともわかるけど、身体が勝手に先生たちの手を払い除ける。
ひな「ヤダッ……ヒック、ヒック……ぅぅ……ケホッ……ケホッ、ケホケホッ!!」
すると、『はぁ……』とひとつ小さなため息をついた五条先生が、
五条「ひな」
ぎゅっ……
って、優しく包み込んできた。
五条「すぐパニックになるな。もう大丈夫だから、ほら一緒に落ち着くぞ。ゆっくり吸ってー……はい、吐いてー……」
本当はこんなに優しいのに、わたしのバカ……。
嘘なんてつくんじゃなかった……。
後悔先に立たずとはこのことかと、覚えたての言葉がただ頭の中で繰り返される。
12
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします
ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、
王太子からは拒絶されてしまった。
欲情しない?
ならば白い結婚で。
同伴公務も拒否します。
だけど王太子が何故か付き纏い出す。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる