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鉄剤注射⑤

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——3日後



ついに10回目、今日が最後の注射。





「「ひなちゃん、こんにちは」」


ひな「こんにちは」





今日も笑顔で迎えてくれる藤堂先生と祥子さん。





藤堂「ひなちゃんいつもより表情が明るいね。今日で注射終わるからかな」


ひな「は、はい。よくおわかりで……」


藤堂「ははっ、ひなちゃんわかりやすいから。あ、前回ごめんね。どうしても診なきゃいけない患者さんがいて。大丈夫だった?」


ひな「はい。宇髄先生と祥子さんが夫婦って教えてもらいました」


藤堂「あー、ひなちゃん知らなかったんだってね。びっくりした?(笑)」


ひな「それはもう。でも、すごくお似合いで素敵な夫婦だと思います。宇髄先生かっこいいし、祥子さん美人だし」


祥子「あら。うれしいこと言ってもらった!ありがとう。でも、五条先生とひなちゃんもお似合いよ?」


ひな「えぇっ!? わ、わたしはそんな……五条先生と釣り合ってないです。見た目も中身も、五条先生は完璧だから……」


藤堂「そんなことないよ。五条先生の横にちょこんっているひなちゃん、すごくかわいいよ?」


ひな「ちょ、ちょこんって……」


藤堂「ははっ。まぁ、バランスがいいなと思うよ、ひなちゃんと五条先生は。さぁ、聴診しようか」





と、まずは聴診してもらった。





藤堂「うん、いいよ。そしたら横になろう」





今度はベッドに横になって、祥子さんに準備してもらう。

すると、





藤堂「ひなちゃん、今日は採血もするね」





えっ!? 採血も!?

聞いてなかったよ……





ひな「採、血……ですか?」


藤堂「うん。貧血の数値がどのくらい良くなったか確認するよ。だから、いつもより少し長いけど頑張ろうね」


ひな「はい……」


祥子「そしたら採血から先にするね。ひなちゃん、手のひらギュッとしてー……」





と、手のひらを握って……





チクッ……





祥子「はい、もう力抜いていいよ。ひなちゃん大丈夫?」


ひな「だ、だいじょぅぶです……」





だけど、やっぱり採血は怖い。

血が抜かれてるって思っちゃって……





藤堂「ひなちゃん息止めないよ。そんなに身体強張らせなくて大丈夫」


祥子「採血はすぐ終わるからね。もう少しよ」





先生たちに緊張してることも見抜かれちゃってる。

そして、採血が済むと一度針を抜いてもらい、





祥子「ひなちゃん、ちょっと気分悪い?平気?」


ひな「はい……」





気分は悪くないけど、すでにちょっと疲れた。





藤堂「少し休んでからにしようか。採血緊張したでしょ。顔が火照ってるから」





って、おでこに置かれた藤堂先生の手が、熱もないのに少し冷んやり。

祥子さんも藤堂先生も、わたしのことよくわかってくれてて、たとえ同じ治療でも、毎回わたしの状態に合わせて治療を進めてくれる。

それが安心感に繋がるんだなと、今も外来だったらどうなってたことかと、最終日にしみじみ。





藤堂「そろそろいいかな。ひなちゃんいけそう?もうちょっと休む?」


ひな「いえ、大丈夫です。早く終わりたいです……」


藤堂「早く終わりたいのね(笑)そしたら、最後頑張ろうか」


祥子「さっきとちょっと場所変えて針入れるね。いくよー……」





と、採血とは違う場所に針を刺してもらい、鉄剤が投与される。




祥子「ひなちゃん、さっき採血したしいつもよりゆっくり入れるね。ごめんね、早く終わりたいのにね。」





え……いつもよりゆっくりなの……?

普段からこの注射ゆっくりされるのに……





ひな「わたし大丈夫です。気にせず早く入れてください。なんならいつもより早くても……」


祥子「ダメダメ。それはできないの」


ひな「え?なんで……?」


藤堂「この薬は2分以上かけてゆっくり入れないといけないから、いつもより早くはできないんだよ」


ひな「え?2分以上とか決まってるんですか??」


祥子「早く入れると副作用が出るからね。だから、一応2分以上ってなってて、ひなちゃんの場合はいつも3分以上かけるようにしてるのよ」


ひな「それでいつも長いんですか……」


祥子「ごめんね。意地悪してるわけではないのよ?(笑)」


ひな「いえっ……意地悪とは思ってないんですけど……注射も大きいし仕方ないかと思ってました」





と言うと、





藤堂「あー、ひなちゃんに教えとこうか」





そう言って、藤堂先生が突然どこかに行ったと思ったら、トレーを持って戻ってきて、





藤堂「ひなちゃんに注射してる鉄剤はこのフェジンっていうのだよ」





って、注射器に入れる前の薬を見せてくれた。





ひな「あれ?なんか小さい……」





見せてくれたのは赤黒い液体の入った小さな瓶のようなもの。

赤黒いと言ってもほとんど真っ黒な感じ。

それに、注射器に入ってる薬液より全然少ない。





藤堂「貧血を治す薬は実はこれだけ。これを、いつもこのブドウ糖で薄めてひなちゃんに入れてるんだよ」





へぇ~そうなんだ。

薬って薄めて注射したりするんだ。



って藤堂先生、丁寧に教えてくれたけどこれってもしかして……





藤堂「医者になったら貧血の患者さんはたくさん診ることになるだろうからね。この薬の名前は覚えとくといいよ」





やっぱりだ……

やっぱり、わたしが医者になるからって教えてくれたんだ。



宇髄先生と一緒。

本当に医者になれるかなんてわからないのに、まったく先生たちは気が早い……。





ひな「わ、わかりました。ありがとうございます」





というところで、





祥子「ひなちゃーん、終わったわよ。お疲れ様」


ひな「終わり?注射終わりですか?」


祥子「うん、終わったよ」





腕を見るとテープを貼ってくれてて、祥子さんはお片付け中。





やった……やっと終わった……!





大っ嫌いな注射に通うのは本当にしんどかった。

もうやらなくていいと思うと、一気に身体の力が抜ける。





ひな「はぁ……終わったぁ…………」





思わずそう呟くと、





藤堂「よく頑張りました」





ぽんぽん……





って、藤堂先生が優しい微笑みで頭をぽんぽんしてくれた。

それから、藤堂先生と祥子さんは処置室を離れて、わたしは血液検査の結果が出るまでベッドで待機。










コンコンコン——



3、40分後、検査結果を持った藤堂先生……と、五条先生も入ってきた。





ひな「五条先生!」


五条「お疲れ様。ご機嫌だな(笑)」


ひな「だって、やっと注射が終わったから!」


五条「そうだな。でも、結果次第では引き続き注射するぞ?」


ひな「えっ……」





なんで……?

上がり切ったテンションがみるみるうちに冷めていく。





ひな「まだやるんですか……」


五条「そりゃ、数値が悪かったらな。ま、それを今から藤堂先生が話してくれるから、ほら、しっかり聴きなさい」





と、五条先生に支えてもらって身体を起こす。





藤堂「ははっ。そしたら検査の結果お話しするね」


ひな「はい……」


藤堂「まずはヘモグロビン値。これが12まで上がったよ」


ひな「え、じゃあ正常値ですよね?」


藤堂「うん。でもギリギリね。それから、フェリチン。貯蔵鉄の方も30になったけど、僕としてはこっちもギリギリかな。ひなちゃんの身体を考えると、安心できる数字とはまだ言えない」


ひな「え……でも正常範囲なのに。もしかして……」





数値は正常になってるのに、藤堂先生はギリギリって言ってばっかり。

五条先生の引き続き注射って言葉が頭をよぎる。





藤堂「大丈夫。ギリギリだけど、注射はもうしないよ。今日でおしまい」


ひな「本当ですか!?」


藤堂「うん。ひなちゃんよく頑張ったしね。ただ、何度も言うけどギリギリ正常値あるだけで、油断すればすぐに数値が悪くなると思う。そうなればまた注射だから、調子に乗らないように」





せっかくよくなったのに、また注射というわけにはいかない。





ひな「はい、わかりましたっ」





いつもよりハキハキと返事した。





藤堂「特に、走ったり運動したりしないように注意してね。今は貧血が改善されて身体が軽く感じるから、たくさん動きたくなると思う。でもそこは我慢するんだよ?貧血や喘息の方も悪化してしまうから」


ひな「はい。気をつけます」


藤堂「それから、しばらくは鉄分やタンパク質をしっかり摂ること。そんなに偏った食事はしてないと思うけど、ひなちゃんは少食だから。たくさん食べて体力もつけるように」


ひな「はい。頑張ります」


藤堂「よし。そしたらこれでおしまい。定期健診はこれまで通りだから、また来月の初めに来てね」


ひな「ありがとうございました!」


藤堂「それで、今日はこれから五条先生と帰るんだよね」


ひな「え?そうなんですか?」





五条先生から何も聞いてなかったから、今日も遅いのかと思ってた。

隣に立つ五条先生を見上げると、





五条「あぁ。もう上がるから、一緒に帰るぞ」





ぽんぽん……





と、優しい五条先生の笑みが。





ゃ、やったぁ……//

一緒に帰れるんだ……っ!!





藤堂「ふふっ。ひなちゃん顔真っ赤。素直でいいんだけど、熱出したら入院させるよ?」


ひな「えっ……⁉︎ ぇ……//」





顔が真っ赤だとか、熱が出たら入院させるとか、照れたらいいのか驚けばいいのか……

最後に藤堂先生からちゃっかり揶揄われて、五条先生とお家に帰った。


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