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夢と過去の記憶②
しおりを挟む「ひな、ひな、起きて!」
「グスン……グスン……うぅ、Tom……」
トム……
この前のお兄さん……
「ひな~、またソファーでお昼寝しちゃったの……。寝ながら泣いて、nightmareでしょ?」
「Tom?ダディーとマミーは……?」
「ひなのダディーとマミーはお空だよ。そっか、今日は雨だからダディーとマミーも泣いてるみたいだね。それで、ひなも涙が出たんだね」
「ダディーとマミーに会いたいよぉ……」
「ひな?ダディーとマミーはお空からひなを見てるから会えないんだよ」
「ひなもお空行く!」
「ダメだよ、ひなはまだ行っちゃダメ。大きくなっておばあちゃんになるまでお空は行っちゃいけないんだ」
「Tomもお空行かない?」
「うん。ひなが大きくなっておばあちゃんになるまで行かないよ。俺はずっと、ひなといる」
***
*五条side
ひな「スー……スー……」
藤堂「ひなちゃん、今は落ち着いて眠ってるね」
五条「はい」
ひな「スー……トム……」
……っ!?
ひな……今なんて……
神崎「ひなちゃんなんかしゃべった」
藤堂「夢見てるのかな?」
ひな「スー……スー……ト……ム……」
ひなの目からスーっと涙が流れた。
鼓膜の破れた耳に入らないように、そっと指で拭う。
神崎「ん?ト?」
藤堂「トムって聞こえなかった?」
神崎「トムって誰?犬の名前とか?」
……俺の名前だ。俺のミドルネーム。
小さかったひなは"悠仁"って言いにくかったみたいで上手に言えなかった。
お袋がTomって教えると、こっちはすぐに言えたから、ひなはずっとトムって呼んでた。
神崎「ね~?ねぇ、五条先生聞いてる~?」
五条「え?あ、すみません、もう一度お願いします」
藤堂「トムって知ってる?」
五条「俺です」
「「……へ?」」
『へ?』って……
なんだよ、その反応……
五条「俺です。俺、アメリカで生まれたんでミドルネームあるんです。Tomがそうで、ひなは悠仁って言えなかったからTomって呼んでました」
神崎「ちょっと!なにそれ、聞いたことないよっ!」
いや、言ったことなし……
わざわざ言うことでもないだろそんなもん……
藤堂「それ、ひなちゃんの大事な情報だよ?教えといてくれないと」
五条「なんかすみません……」
ひな「スー……スー……トム……スー……」
ひな……。
俺はそっとひなの頭を撫でた。
藤堂「悠仁、俺は先に戻るね」
神崎「俺も」
と言って、2人は気を遣ってくれたのか医局に戻って行った。
***
*ひなのside
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ…………
また目が覚めた。
先生たちは誰もいない。
外が見えないけど、部屋が少し暗くなってて静かだからきっと夜なんだと思う。
すると、そーっとベッドのカーテンが開いて五条先生が来た。
五条「起きてたのか」
頭にそっと手が乗せられる。
その瞬間、なぜか涙が溢れ出した。
酸素マスクのせいか声を出そうと思っても出しづらい。
すると、五条先生がマスクを外してくれた。
五条「呼吸、苦しくないか?」
ひな「……コクッ」
五条「身体痛いか?」
低くて落ち着いた、とても優しい声……。
そっと握ってくれた右手は大きくて温かい。
五条先生の優しい手……
こんな時に限ってまた優しくなる。
でも、もう優しくしないでほしい。
ずっとこのままでいたくなるから……
でも、五条先生……
わたしは、もうダディーとマミーのとこに行きたい……
だからやっぱり……
ひな「もう、死なせて……」
***
*五条side
今……なんて……?
ひなの目からは涙が流れ落ちた。
あの時と一緒。
部屋で暴れた時と、同じ目と顔してる。
五条「……死なせるわけないだろ。お前は生きるんだ」
ひな「生きてても……もう意味ないから……。痛い、苦しい、つらい。やっぱりあの人から逃げるなんて無理だった。ボロボロになって、みんなに迷惑かけて、ここにいてもわたしは邪魔者になる。また傷も増やしちゃった……顔にだって傷つけて……。もういらない、こんなわたしもういらない……」
***
「ひな……もう行かなきゃ……」
「ヒック……ヒック……うぅ、Tom……ひなここにいたい!!!Tomと一緒がいいの!!……ヒック……ヒック……」
そうだ、トムだ……。
昔、一緒に住んでたお兄さんがいた。
「ひな、よく聞いて……?今はバイバイしなくちゃいけないけど、いつか必ずまた会えるから。だから、悲しくてもつらくても生きてて」
トムが生きててって……
「ヒック……ヒック……Tom、また会える?……ヒック」
「うん、必ず。だから、ひなのかわいい顔をもう汚さないで。俺にかわいい顔見せて?」
顔を汚さない、ようにしてたの……。
ごめんね、Tom……
約束守れなくて……
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