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眠れない夜①

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そして、その夜。





電気は消灯されて部屋は真っ暗。

窓から月の明かりだけが少し入るくらい。





はぁ……

夜になるとやっぱり寝れない。





夜の間は看護師さんがそーっと扉を開いて見回りに来る。

いつもはドアに背中を向けて布団をかぶって、目をつぶって寝たふりをしてる。

すると、看護師さんは寝てると思って帰っていく。



が、今日はなんだか気配が違う。

背中にすごく気配を感じる。





看護師さんじゃないのかな……?





とにかく誰かがずっとそこにいる気がする。

でも、目を開けるわけにはいかないし、それにだんだん怖くなってきた。

早くどっか行ってと願いながら息を殺した。










「……寝れないか?」





ビクッ……





突然声をかけられたので身体がビクッとしてしまった。

でも、布団を被ってるからバレてないはず。



すると、声の主はベッドのすぐ横にきて、わたしの頭に大きな手をぽんと置いた。





ビクッ……





また身体が反応してしまう。





「……バレてるぞ。寝たふりしてるだろ」





なんでバレちゃうんだろう……。





もう誰がいるのかはわかってる。

わたしはゆっくりと目を開けたけど、真っ暗で何も見えない。

なんとなく人の気配はするけど姿は見えなかった。



すると、枕元にある小さな柔らかい明かりがついて、今度はしっかり五条先生が見えた。





五条「ずっと起きてたのか?」





夜だからか、少し小さめのボリュームで話す五条先生の声はすごく優しかった。





コクッ……





わたしはそっと頷く。





五条「いつも夜になると眠れないんだろ?何で寝れないんだ?」





五条先生、夜はいつも寝れないって気づいてたんだ……。





夜はあの人がずっと家にいた。

いつ部屋に来て何されるかわからないから、怖くて目なんか閉じてられなかった。

夜中に酔っ払って帰ってきたあの人に、殴られたり蹴られたりよくしてた。



1番怖かったのは、たしか4年生くらいの時だったかな。

馬乗りで腕を押さえつけられて、抵抗したら殴られて。なぜかズボンもパンツも脱がされて、なにをされてるのかわからなかったけど、とにかくとんでもない激痛が走ったのは覚えてる。

もう二度と味わいたくない痛み。

直感的に殴られたり蹴られるよりも酷いことが、自分の身体に起きた気がした。



そのあとにすぐあの人の女がきて、

"そんなガキ相手にしないで、わたしとしてよ!"

って、あの人は女に引っ張られて行ったから、結局すぐ解放されたけど……



思い出すと今でもあれが1番身震いする。



それに、夜は咳が出ることも多くてうるさいって怒られるから、必死に布団に潜って止めたりしてた。





そんなことを思い出したせいか、気づけば身体が震えて、呼吸も荒くなる。





ひな「ッハァ、ッハァ……ハァハァ……ッハァハァ…………」


五条「落ち着いて、ゆっくり深呼吸するぞ。大丈夫だ」





布団をめくって、五条先生が背中をさすってくれる。

でも、苦しさが治らない。

だんだんと発作が起きてしまった。





ひな「ハァハァ……ッハァ、ケホッ、ケホケホケホッ……ッハァハァ……」


五条「ごめん、ちょっと身体起こすな」





そう言って、どんどん呼吸が荒くなるわたしの身体を起こすと、五条先生もベッドに腰掛けてわたしの身体を支えながらまた背中をさすってくれた。





五条「ゆっくりゆっくり。大丈夫だから。ちょっと吸入するよ。口開けて」





すると、先生はポケットから何かを取り出し、わたしの口に当てて呼吸に合わせてボタンを押した。





ひな「ハァハァッ、ッケホ……ハァハァ…………ッハァ……ッハァ…………」


五条「ゆーっくり呼吸続けて……」





いつもは恐怖のこの低い声も、優しく言われるとその低音の響きが落ち着く。










ひな「スー……ハァハァ……スー……ハー……」


五条「落ち着いたな。ちょっと胸ごめんな」





発作が治まると、五条先生はわたしを支えながら胸に手を滑り込ませて聴診した。





ビクッ……





五条「……まだ怖いか?俺のこと……怖い?」


ひな「ごめんなさい、身体が勝手に……」





身体がガタガタ震えて説得力は0だけど、首をブンブン横に振る。



すると、





……!!?





わたしは突然、五条先生の胸に抱き寄せられた。





五条「震えてもいいから、少しこうしてよう。つらいこと思い出させて悪かった。もう大丈夫だ」





"トクン"





……あれ?

五条先生の匂い……なんだろ、なんか……懐かしい……?

そんな感じがする。



なんの匂いだろう?

わたし、この匂いを知ってる気がする。





五条「何が怖い?何が怖かった?夜眠れない理由があるだろ。話せるか?」


ひな「……ヒック……ヒック……夜は……あの人が家にいるから……だから…………ヒック……」





気づけば涙を流して五条先生の白衣を握り締めながら、思いのままにひたすら夜眠れない理由を話してた。

五条先生はわたしを抱きしめたまま、静かにそれを聞いてくれた。





五条「そうか。ずっと怖かったな、ひとりでつらかったな」





背中を撫でながら頭も撫でてくれる。

優しくて大きな手。

まこちゃんが優しいって言ってたのは本当だったな。










しばらく五条先生の胸で泣いてると、





ひな「グスン、ッハァ……ハァハァ……ヒック…………」





今度は泣きすぎたせいかまた少し苦しくなってきてしまった。

すると、五条先生は抱きしめる身体を少し離して、またわたしを落ち着かせてくれる。





五条「いいか?苦しくなったら、落ち着いてゆっくり深呼吸しなさい。君は苦しいと息を止める癖があるから余計に苦しくなるんだ。しっかり息を吸って、しっかり吐き切る。自分のペースでいいから意識して呼吸してごらん。ほら、吸ってー……はい、吐いてー……」


ひな「スー……ハァハァ、スー……ハァー……スー……ハー……」


五条「な?落ち着いただろ?ちゃんと呼吸すれば、さっきみたいに薬を使わなくても治まるから。呼吸が大事なんだ。覚えといてな」


ひな「……はい」





そして、そのあとはすぐに眠ってしまった。

もちろん、五条先生はしばらくそばについててくれたみたい。


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