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プロローグ

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キーンコーンカーンコーン——




春の心地よい風が吹き抜ける、4月上旬。

中学校の体育館では、始業式が始まった。










***



「——それでは、校長先生よりご挨拶です。」


「えー、皆さん、おはようございます。今日からいよいよ新学期が始まりますがー……」















「ケホッ……ケホケホッ……ハァ、ハァ……」





あれ……?

さっきから苦しい。





「ケホケホッ……ハァハァ……ケホッ……ハァハァ……」





あぁ、止まらないやつだ……





「ケホケホケホッ……ハァハァ……ケホケホッ……ゲホゲホゲホッ!」





あれ……どうしよう、本当に止まらない。なんで?

目の前がぼやけてくるし、校長先生も何言ってるかわかんない……





「……ゴホッゲホッゲホゲホゲホッ……ッハァ……ッハァ……」





それにもう息が……





「ゲホッゲホゲホゲホッ……ハァ、ッハァハァ、ッハァハァハァ…………」





息ができないっ……




















————バタンッ!




















ピーポーピーポーピーポーピー……




















***



*ひなのside



「栗花落ひなの(つゆりひなの)さん、13才です。学校で始業式の最中に倒れたとのこと。意識はあるようですが呼びかけには応じません。喘息による発作と思われます。」


「了解。みんな急ぐぞ! バイタル確認してライン取って!」





響き渡る医師たちの慌ただしい声。

ガチャガチャピーピーと鳴り響く機械音に、眩しく照らすライト。





「ハァハァ……ハァハァ……」


「……なのちゃーん! ひなのちゃーん!! わかるかなー? 病院だぞ。わかったら手握ってお目目開けてー!」





わたしの名前……誰かが呼んでる声がする……

病院に運ばれたの?





「……ハァハァ……ハァハァ、ゲホゲホッ……ハァ、ゲホッ…………」


「しっかりしろ! 寝るな! ちゃんと呼吸して!!」





なんか言ってる……





「……ゲホッ、ハァハァ……ゲホゲホッ、ハァハァ、ハァ、ァ…………」





でも、苦しくてわかんない……





「……なのちゃん!…………のちゃん!……ひな……」





わたしの意識はここで途絶えた。










***



遡ること、2時間前——





「……おい。テメェ、そこで何してんだ?」





ビクッ……!





「が……っ、学校に……」


「んぁあ!?誰が行って良いっつったあぁぁ!?まぁた俺のこと告げ口する気か!?」





ビクッ……!!





「ご、ごめんなさっ……」





ガッシャーン!!!ドンッ!!!バシッ!バシッ!!!ドカッ!!ボコッ!!





「ゔっ……ゴホッゴホッ…ゔゔっ…痛……ゃめ……、ごめ…な……さぃ…ゴホッゴホッ……ごめん…なさい!」


「うっせーんだよこのゴミクズがっ!行くならとっとと行きやがれ!!俺が帰るまでに家にいなきゃ許さねーからな!!でなきゃどっかで死んでこい!!」





ドカッ………………バタンッ……















……はぁ、ぁ……。

始業式くらい、行きたいなってだけなのに……。





玄関で靴を履いてたらあの人が来て、今日は朝から殴られた。

床に倒された時に受け身がとれたし、手で覆ってたから今日もなんとか顔は守れた。

お腹も背中もたくさん殴り蹴られた気がするけど、制服で隠れてるから誰にもバレずに済む。





「ハァハァ……ゔっ……痛ぃ……ハァハァ、ケホッ……ッハァ……」





玄関の外に蹴り飛ばされて、起き上がれないくらい身体が痛いけど、早く行かないとまた酷い目に遭う。

必死に体を起こして学校に行って、フラフラだったけど始業式にも間に合った。



でも、校長先生の話を聞いてるとき。

咳が止まらなくて胸が苦しくなってきて、視界がぼやけて、耳も遠くなって、息もできなくなって——










***



*五条side



「栗花落ひなのさん、13才です。学校で始業式の最中に倒れたとのこと。意識はあるようですが呼びかけには応じません。喘息による発作と思われます。」





……つゆり、ひな……の……?





「了解。みんな急ぐぞ!バイタル確認してライン取って!」


「ハァハァ……ハァハァ………」


「ひなのちゃーん!……ひなのちゃーん!!わかるかなー?病院だぞ。わかったら手握っておめめ開けてー!」





呼びかけに応じてるのか、ひなの目が微かに開き指もピクッと動いた。

ただ、呼吸がちゃんとできてなくて、意識がどんどん遠のいている。





「……ハァハァ……ハァハァ、ゲホゲホッ……ハァ、ゲホッ…………」


「しっかりしろ!寝るな!ちゃんと呼吸して!!」


「……ゲホッ、ハァハァ……ゲホゲホッ、ハァハァ、ハァ、ァ…………」


「ひなのちゃん!……ひなのちゃん!!……ひな!!」





そして、ひなは完全に意識を失った。










「ダメだ……おいラインまだか!?早く点滴入れろ!!家族に連絡は?」


「すみません全部まだです……!先生、服切ります!!」





ビリビリビリーーーッ——





と、看護師が服にハサミを入れ、ひなの肌が露出した時……





「…………っっ!?」





その場にいる全員が一瞬固まった。

真っ白で透き通るような肌の上には、酷いあざや傷痕がいくつもあって、誰がどう見ても虐待を受けた身体だとわかる。





「五条先生、こ、これって……」


「悪い、家族に連絡するのやめて。すぐ警察に連絡を……。……っ、おいっ!みんな手止めるな、早くしろっ!外科と内科にも連絡して!」


「「は、はい!!」」


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