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そういや馬鹿だった

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 口の端を上げて笑った。

 俺には真の仲間が居るのだ。
 あの女は周囲の人々を利用する事にしか能がない。
 それにひきかえ俺には信頼出来る者からの人望がある。

「ルディ、無事か? 怪我は?」
『ありがとうございます、お陰様で傷一つございません』

 気遣う言葉を掛ければ、ホッとしたような安堵した声が返ってきた。

 しかしなるほど、それは重畳。
 あの女の毒牙は奴に届かなかったらしい。

「そうか、動けるか、なら助けに来い」
『は?』

 素っ頓狂な声だった。

「聞こえなかったのか? 助けに来いと言ったのだ」
『……殿下、あの、何を仰っているのですか』

 奴の要領を得ない意味の分からない返事に、眉間へと皺が寄る。

「お前こそ何を言っている? 主君が助けを求めているのだぞ」
『…………殿下』

 聞き慣れない、落ち込んだようなこの男の珍しい様子の声音に、首を傾げる。
 いつもと違う様子に不信感が募った。

『僕は、貴方様を助けられるのならば、既に助けに行っております』
「どういう事だ?」
『僕はもう、貴方様のお役に立つ事を許されていないのです』

 訳が分からなかった。

「何を言う!? 一体誰が許さないというのだ、この俺の命令だぞ!?」
『陛下の温情により、僕は跡継ぎから外されるだけで済みました。
 双子達はそれぞれ別の修道院に送られ、ジャスは一兵卒として働いているそうです、そんな中、僕が殿下に何を出来るというのでしょう』

 一体何に嘆いているのかさっぱり分からない。
 五体が欠けている訳でも、勘当された訳でもない。
 俺と同じように、ただ廃嫡を宣言されただけだ。

「権力に屈したとでも言いたいのか?
 一体何年俺の傍に居たんだ、あの女の策略に、何度嵌められれば気が済む!?」

 何もかも全てあの女が立てたシナリオ通り進んでしまった。
 だからこそ俺達はそれに抗わなければならないというのに。

「何を気弱になっているんだ! 家督なら後からでも取り返せる! だがこのままではこの国は破滅してしまうんだぞ!?」
『殿下、あぁ殿下、どうしてあなたはそうまで真っ直ぐなのですか?』
「当然だろう、俺はエトワールの為に……」
『どうしてそう、真っ直ぐに馬鹿なんですか』
「なんだと?」

 突然何を言い出すんだこの眼鏡は?
 お前は俺の部下で、俺はこの国の王子だぞ?
 それを、馬鹿だと?

 いかん、落ち着け。
 王子たるもの常に堂々と、余裕を持っていなければならない。
 俺は何度も何度もあの女に嵌められ、辛酸を舐めさせられてきた。
 しかしこの眼鏡にはこれが初めての挫折だったのだ。
 だからこそこんなにも意味の分からない事を言うのだろう。
 そんな時の部下の言葉くらい聞いてやらねば。

『貴方はご自分のされた事を理解しておられない、そして、それを理解するつもりなど微塵もないのでしょう』
「何を当たり前の事を、やってもいない事を認めてたまるものか」
『それがどれだけ殿下の御首を締めているのか、ご理解下さいませ』
「ふざけるな! お前まで俺が悪いと言うのか!」
『違います殿下、このままでは殿下は……』

「もういい!」

 やはり駄目だ。
 
 主の危機に立ち向かえないような男をどうして信頼出来る?
 何かがあった時にこんな男が何の役に立つ?

 こんな弱気な部下など要らない。

「お前には失望した。もっと信念を持った男だと思っていたのに、残念だ」
『殿下! お待ちください殿下!』
「うるさい!」

 俺は苛立ちのままに、この通信を切断したのだった。


 
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