上 下
29 / 64

そうなんですね

しおりを挟む
 





 「王子!」
 「エトワール!」

 それはまるで、長い間会えなかった恋人同士の、感動の再会であるかのようだった。
 目に涙をいっぱいに溜めた可憐な少女と、美麗な王子の姿は、御伽噺にすら語られてしまいそうな程の美しさだ。

 「あぁ、会いたかったわ、わたしの王子様...!」
 「俺もだよ、可愛いお姫様...」

 ひしっ!と抱き合う二人に、見張りの兵士と侍女が冷めた目を向けた。
 それもその筈、脳内お花畑な二人は、月に一度の面会を、月初めに早速使ってしまっているのである。

 「ねぇ王子、目の下にクマが出来てるわ...、あまり眠れていないのね?」
 「ふふっ、エトワールには隠し事が出来ないな、...でも、君も少し痩せたんじゃないか?」

 「もう!王子ったら、女の子に体型の話は失礼よ!」
 「ふふ、ごめんごめん、君はいつも綺麗だよ」
 「王子......」

 控えている兵士と侍女をまるで居ないものであるかのようにイチャイチャと乳繰り合い始める二人は、恐ろしい程に鈍感なのだろう。
 ぽっと頬を染めながら、王子を見詰める少女は、ほんのりと色付いた己の唇と王子のそれが重なるのを待っているようだった。
 いわゆる、キス待ち顔である。

 そんな中、侍女と兵士はそっと距離を詰め、室内の二人に聞こえない音量で話し始める。

 「ねぇ、あの方達自分のした事覚えてないの?」
 「どれだけ説明しても理解されなかったらしい、もう終わりだな」

 「え...どれだけお花畑なの...」
 「廃嫡されたからには、二人とも二度と子宝に恵まれない体にされるだろうに、呑気なもんだ」

 それは至極当たり前の事だった。
 廃嫡されたとはいえ、王族は王族。

 もし子供でも出来ようものなら、王位継承権が発生してしまう。
 例え親がどれだけ無能でも、子供だけを保護し、相応の教育をすればそれなりの人間にはなる。
 そうなれば、国家転覆等の旗頭にされたりなど、余計な火種となるだろう。
 例え王子と子供の血が繋がっていなくとも、母親が王子の妻であったのならば、血筋などどうとでも捏造が出来るのが、この世の嫌な所だ。

 王子が考えを改め、反省し、罪を償う姿勢を見せれば、回避出来るかもしれない未来ではあったのだが、このままではその可能性はゼロである。

 現在のこの状況が、王子を見極める為の時間だと気付く事が出来れば状況は変わるかもしれないが、それを親切に教えてくれるような人間は、もはや誰も居ない。

 かつては、王子に巻き込まれ、子を望めない体にされる予定の少女に憐憫の気持ちを持っていた侍女ですら、この少女の言動から察するに、全て自業自得なのだと気付いてからは冷たい視線しか送る事が出来なくなっていた。
 むしろ、嫌悪感しか感じられないのである。

 身から出た錆、という言葉がピッタリだった。
 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

あなたへの手紙(アルファポリス版)

三矢由巳
歴史・時代
ある男性に送られた老女からの手紙に記されていたのは幕末から令和にかけての二つの家族の物語。 西南の役後、故郷を離れた村川新右衛門、その息子盛之、そして盛之の命の恩人貞吉、その子孫達の運命は…。 なお、本作品に登場する人物はすべて架空の人物です。 歴史上の戦災や震災関連の描写がありますのでご容赦ください。 「小説家になろう」に掲載しているものの増補改訂版です。

召喚勇者は怪人でした

丸八
ファンタジー
廣野雄介は高校一年のある日、誘拐され怪しげな心霊手術を受け、古代遺跡から発掘された金属塊を体内に埋め込まれ秘密結社の尖兵へと改造された。 しかし、その場から謎の光と共に消失するのであった。 再び廣野雄介が現れたのは日本と違う世界だった。 監察官と名乗る存在に、勇者として魔王を倒すようにと異世界へと転送されたのだった。

君、終の夜に会いたること

いくま
BL
■あらすじ  平安の頃。  出家僧 源環は飢えで死にかけている。おそらくは今晩が最後の夜だろう。  環の友、藤原時沙が草庵を訪れて思い出を語り始める。手元にはニリンソウの花。  環が時沙を裏切った理由は何なのか?  最後の夜に二人は分かり合えるのか? ■登場人物 源環(俗名みなもとのたまき、僧名げんかん)  主人公。世捨て人の僧侶  『宇部の乱』に加担した罪で出家  都の外れ、本寺に近い山に籠もり  飢えで死にかけている 藤原時沙(ふじわらのときすな)  源環の友  『宇部の乱』鎮圧の功労者  藤原祥家一族の筆頭  源環を出家へ追い込んだ張本人 高津名女房(たかつなのにょうぼ)  時沙にツレない性悪にして才女  後に時沙の正妻となる 宇部兼依(そらべのかねより)  古代の氏族、宇部一族の筆頭  藤原家に不満を持つ氏族と組み、  『宇部の乱』を起こすも  藤原時沙に討たれ滅びる ■花言葉  二輪草(ニリンソウ)  「友情」「協力」「ずっと離れない」

妹を盲信溺愛する婚約者には愛想が尽きた

章槻雅希
恋愛
 今日も今日とてリンセは婚約者にデートをすっぽかされた。別に珍しいことではない。彼は妹を溺愛して、何事にも病弱で可憐な妹を最優先にするのだ。  格上の侯爵家との婚約をこちらから破棄するのは難しい。だが、このまま婚約を続けるのも将来結婚するのも無理だ。婚約者にとってだけは『病弱で可憐な、天使のような妹』と暮らすのは絶対に無理だ。  だから、リンセは最終兵器侯爵家長女に助けを求めたのだった。  流行りっぽい悲劇のヒロインぶりたい妹とそれを溺愛する兄婚約者ネタを書いてみました。そしたら、そこに最強の姉降臨。 『アルファポリス』『小説家になろう』『Pixiv』に重複投稿。

異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito
ファンタジー
俺、マイケル・アルヴィン・バックエショフは、転生者である。 日本でデジタル土方をしていたが、気がついたら、異世界の、田舎貴族の末っ子に転生する──と言う内容の異世界転生創作『転生したら辺境貴族の末っ子でした』の主人公になっていた! 何を言ってるのかわからねーと思うが…… 前世での社畜人生に嫌気が差し、現世ではのんびりマイペースに過ごそうかと考えていた俺だったが、信頼できる仲間や、気になる異性ができたことで、原作とはまた違った成り上がりストーリーを描くことになってしまったのだった。 ──※─※─※── 本作は「異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。」の第2部にあたります。まずはそちらからお読みください。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/177250435/358378391 ──※─※─※── 本作は、『ノベルアップ+』『小説家になろう』でも掲載しています。

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞
ファンタジー
 魔法に誰よりも強い憧れを持ち、人生の全てを魔法のために費やした男がいた。  しかし彼は魔法の源である魔力を持たず、ついに魔法を使うことができずに死んだ。  強い未練を残した彼は魂のまま世界を彷徨い、やがていじめにより自死を選んだ貴族の少年フィリオの身体を得る。  魔法を使えるようになったことを喜ぶ男はフィリオとして振舞いながら、自ら構築した魔法理論の探究に精を出していた。  生前のフィリオをいじめていた貴族たちや、自ら首を突っ込んでいく厄介ごとをものともせず。 ☆ お気に入り登録していただけると、更新の通知があり便利です。 作者のモチベーションにもつながりますので、アカウントお持ちの方はお気軽にお気に入り登録していただけるとありがたいです。 よろしくお願いします。 タイトル変えました。 元のタイトル 「魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます」

処理中です...