上 下
10 / 64

それはアカン

しおりを挟む
 




 「その悪女と貴様の根回し済な者の証言など、なんの証明にもならんな」

 小馬鹿にしたように、なんか腹立つ顔でまた堂々と俺たちを指差す王子と、困惑通り越して冷めた目を向ける観客達ギャラリー

 それはそうだろう。
 素晴らしいと評判の公爵令嬢を婚約者に持ちながら、他の、しかも身分の低い男爵令嬢にうつつを抜かした挙句、公爵令嬢を追い詰め、前世返りするような程の絶望を味わせた。
 なおこの国で前世返りした者は、余程辛い思いをしたのだろう、という先入観というか、とても都合のいいプラス補正が掛かる為に優遇される事が多い。

 そんな事も知らない王子の好感度は、爆下がりと言っても過言では無いだろう。

 特に公爵令嬢は学園の生徒達からの信頼も厚い。
 悪名らしきものと言えば、嫉妬深く我儘、という貴族女性によく居るステータスくらいか。
 浪費癖があるとかも聞くが、それで公爵家が破綻するならともかく、寧ろ必要経費だと思うんだ俺。

 国の偉い貴族の娘が、みすぼらしい服着てたら他の貴族女性だってそれ以下のもの着なくちゃいけなくなる。
 別にこれはそうしないとダメとかいう法律がある訳じゃないけど、もしそうなってしまったら、何が起きるか、という事の方が重要視されていると思う。

 さて、では何が起きるか。

 まぁ、戦争だよね。

 考えてみて欲しい、王家以外の貴族全てが酷い服を着ていたら。
 酷く貧しい生活をしていたら、諸外国からどう見えるだろう。
 国民からどう見えるだろう。

 不満が溜まらない訳が無い。
 悪評が流れない訳が無い。

 必然的に王家がヤバくなるのは、容易に想像がつくのではないだろうか。

 「いや、もう本当に頭大丈夫?」
 「やかましい!俺は正常だ!!」

 正常でそれってヤバくない?

 いや、もうちょい考えようよ。
 知らないなら調べようよ。

 なんなの、無能なの?

 胡乱げな眼差しを無能王子に向ける俺と、そんな俺の顔にスリスリと顔を寄せる公爵令嬢。めっちゃ可愛い。

 そこでようやく、保護者が姿を現した。

 「ええい!やめんかお前達!」

 王子の実の父、王様である。
 髭をたっぷりと蓄えた、まさに王様!って感じの外見である。
 トランプのカードにこんなん居た気がする。

 頭痛のせいか眉間にガッツリと皺を寄せ、こめかみを指先で解しながらの登場である。

 だがしかし、王子はどこまでも王子だったらしい。

 「父上!王である貴方からも言ってやって下さい!こんな悪女が王太子妃になった日には、財政、治安が悪化し、破滅するだけです!」

 いや、貴族が何かしら浪費する事で国に金を落とす事は、経済を回す一助だけど。
 それが無しで経済が回るなら良いだろうけど、消費者が居なきゃ経済は回らない訳で。

 本当に何言ってるのコイツ。

 むしろ公爵令嬢が浪費しなかったら他の貴族女性も何も買えなくなるよね。
 どう考えても必要経費じゃん。

 え?何この王子どんだけ視界狭いの?
 大体、嫉妬深く我儘とか、めっちゃ愛されてる証拠やん、こんな美少女の何が不満なのコイツ。

 改めて考えるとめっちゃイライラして来た。シバきたい。頭皮爆破したろかこの野郎。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

あなたへの手紙(アルファポリス版)

三矢由巳
歴史・時代
ある男性に送られた老女からの手紙に記されていたのは幕末から令和にかけての二つの家族の物語。 西南の役後、故郷を離れた村川新右衛門、その息子盛之、そして盛之の命の恩人貞吉、その子孫達の運命は…。 なお、本作品に登場する人物はすべて架空の人物です。 歴史上の戦災や震災関連の描写がありますのでご容赦ください。 「小説家になろう」に掲載しているものの増補改訂版です。

召喚勇者は怪人でした

丸八
ファンタジー
廣野雄介は高校一年のある日、誘拐され怪しげな心霊手術を受け、古代遺跡から発掘された金属塊を体内に埋め込まれ秘密結社の尖兵へと改造された。 しかし、その場から謎の光と共に消失するのであった。 再び廣野雄介が現れたのは日本と違う世界だった。 監察官と名乗る存在に、勇者として魔王を倒すようにと異世界へと転送されたのだった。

君、終の夜に会いたること

いくま
BL
■あらすじ  平安の頃。  出家僧 源環は飢えで死にかけている。おそらくは今晩が最後の夜だろう。  環の友、藤原時沙が草庵を訪れて思い出を語り始める。手元にはニリンソウの花。  環が時沙を裏切った理由は何なのか?  最後の夜に二人は分かり合えるのか? ■登場人物 源環(俗名みなもとのたまき、僧名げんかん)  主人公。世捨て人の僧侶  『宇部の乱』に加担した罪で出家  都の外れ、本寺に近い山に籠もり  飢えで死にかけている 藤原時沙(ふじわらのときすな)  源環の友  『宇部の乱』鎮圧の功労者  藤原祥家一族の筆頭  源環を出家へ追い込んだ張本人 高津名女房(たかつなのにょうぼ)  時沙にツレない性悪にして才女  後に時沙の正妻となる 宇部兼依(そらべのかねより)  古代の氏族、宇部一族の筆頭  藤原家に不満を持つ氏族と組み、  『宇部の乱』を起こすも  藤原時沙に討たれ滅びる ■花言葉  二輪草(ニリンソウ)  「友情」「協力」「ずっと離れない」

妹を盲信溺愛する婚約者には愛想が尽きた

章槻雅希
恋愛
 今日も今日とてリンセは婚約者にデートをすっぽかされた。別に珍しいことではない。彼は妹を溺愛して、何事にも病弱で可憐な妹を最優先にするのだ。  格上の侯爵家との婚約をこちらから破棄するのは難しい。だが、このまま婚約を続けるのも将来結婚するのも無理だ。婚約者にとってだけは『病弱で可憐な、天使のような妹』と暮らすのは絶対に無理だ。  だから、リンセは最終兵器侯爵家長女に助けを求めたのだった。  流行りっぽい悲劇のヒロインぶりたい妹とそれを溺愛する兄婚約者ネタを書いてみました。そしたら、そこに最強の姉降臨。 『アルファポリス』『小説家になろう』『Pixiv』に重複投稿。

異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。第2部

kaonohito
ファンタジー
俺、マイケル・アルヴィン・バックエショフは、転生者である。 日本でデジタル土方をしていたが、気がついたら、異世界の、田舎貴族の末っ子に転生する──と言う内容の異世界転生創作『転生したら辺境貴族の末っ子でした』の主人公になっていた! 何を言ってるのかわからねーと思うが…… 前世での社畜人生に嫌気が差し、現世ではのんびりマイペースに過ごそうかと考えていた俺だったが、信頼できる仲間や、気になる異性ができたことで、原作とはまた違った成り上がりストーリーを描くことになってしまったのだった。 ──※─※─※── 本作は「異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。」の第2部にあたります。まずはそちらからお読みください。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/177250435/358378391 ──※─※─※── 本作は、『ノベルアップ+』『小説家になろう』でも掲載しています。

【フリー台本】一人向け(ヤンデレもあるよ)

しゃどやま
恋愛
一人で読み上げることを想定した台本集です。五分以下のものが大半になっております。シチュエーションボイス/シチュボとして、声劇や朗読にお使いください。 別名義しゃってんで投稿していた声劇アプリ(ボイコネ!)が終了したので、お気に入りの台本や未発表台本を投稿させていただきます。どこかに「作・しゃどやま」と記載の上、個人・商用、収益化、ご自由にお使いください。朗読、声劇、動画などにご利用して頂いた場合は感想などからURLを教えていただければ嬉しいのでこっそり見に行きます。※転載(本文をコピーして貼ること)はご遠慮ください。

魔力ゼロの天才、魔法学園に通う下級貴族に転生し無双する

黄舞
ファンタジー
 魔法に誰よりも強い憧れを持ち、人生の全てを魔法のために費やした男がいた。  しかし彼は魔法の源である魔力を持たず、ついに魔法を使うことができずに死んだ。  強い未練を残した彼は魂のまま世界を彷徨い、やがていじめにより自死を選んだ貴族の少年フィリオの身体を得る。  魔法を使えるようになったことを喜ぶ男はフィリオとして振舞いながら、自ら構築した魔法理論の探究に精を出していた。  生前のフィリオをいじめていた貴族たちや、自ら首を突っ込んでいく厄介ごとをものともせず。 ☆ お気に入り登録していただけると、更新の通知があり便利です。 作者のモチベーションにもつながりますので、アカウントお持ちの方はお気軽にお気に入り登録していただけるとありがたいです。 よろしくお願いします。 タイトル変えました。 元のタイトル 「魔法理論を極めし無能者〜魔力ゼロだが死んでも魔法の研究を続けた俺が、貴族が通う魔導学園の劣等生に転生したので、今度こそ魔法を極めます」

処理中です...