1 / 64
はじまりはじまり
しおりを挟む「クロエリーシャ・フォルトゥナイト! まさか貴様がエトワールに嫌がらせをしていた首謀者とはな......、そんな女に王太子妃など言語道断!、今日をもって、貴様との婚約は破棄させてもらう!」
高らかに言い放たれた言の葉は、卒業パーティの会場に響き渡った。
その美麗な声の主は、ロストシュヴァイト王国第一王子であり、聖ロクサーヌ学園生徒会長でもある、アレクサンドルフ・ロストシュヴァイト、18歳。
金糸のような鮮やかな金髪、青石のような碧眼の美青年は、その完璧な顔面を怒りに歪めながら、目の前の一人の令嬢を睨み付けていた。
「...............」
王子に相対するその令嬢は無言のままに、じっと王子を見詰めている。
癖のある黒髪に猫のような金色の吊り目、赤い唇は薔薇の花弁のようですらある。
出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいるナイスバディの、気の強そうな美少女。
例えるならば、気位の高い黒いペルシャ猫のような彼女は、その黒髪が映える真紅の薔薇のようなパーティードレスを身にまとっていた。
国で三番目の家格である公爵家の唯一の娘であり、貴族令嬢の代表とすらされる彼女にはその通りの気品が溢れ、王子に相応しい婚約者として学園に君臨していた。
だが、学園では黒薔薇の君とすら揶揄される彼女は、王子の言に反論すらしない。
無言を貫く彼女に、痺れを切らした王子が追撃の言葉を発した。
「貴様、謝罪くらいしたらどうなんだ!、心優しいエトワールが、一体どれほど傷付いたと思っている!?」
「やめてください王子!、こんな事ダメです!!、クロエリーシャさんにもきっと何か理由があるんです!、そんな事するような人じゃ...!」
王子の言葉のすぐ後、人混みから突然出て来たのは、どうやら件のエトワール・ライアン男爵令嬢らしい。
ピンクゴールドのストレートの髪と、同色の瞳を涙で潤ませた彼女は、確かに美少女だった。
その身に纏う白に近いピンクのドレスは、令嬢の外見とも合ってまるで白百合のような美しさだ。
だが、王子に用意して貰ったドレスにも関わらず、黒薔薇の君と比べてしまうと体格的にどうしても負けている部分が多い。
が、補って余りある程には可憐な令嬢である。
だがしかし、言動から察するに、貴族らしさという物は一切持ち合わせていないようだ。
その証拠に、彼女の家の家格は男爵であるにも関わらず、公爵令嬢である黒薔薇の君に対して、堂々とさん付である。
元々、男爵が平民街で見付けた己の隠し子だというのだから、貴族社会に馴染めていないのは当たり前、のつもりなのだろう。
卒業パーティを迎える今日まで、誰がなんと言おうが直そうとしない事から、学園の生徒先生達からは諦めの感情しか向けられていない令嬢である。
0
お気に入りに追加
271
あなたにおすすめの小説
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる