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みんないっしょのいつかめそのにー!

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「だから……どうして……こんな短時間で……!」
「へー! あれが街かー!」

 またしても地面と仲良くなってるミルガイン君と、楽しそうに遠目から街の石壁を見渡すドラゴさん。
 位置的には、街から少し離れたそれなりに見渡せる小さな丘の上だ。

「うぐっ、朝食が……!」
「ミルガイン君、もったいないから朝食は胃に戻そ?」
「が、頑張りま、ぐぅ……!」

 えっぷえっぷしてるミルガイン君の背中をさすりつつ励ます。無理すんな無理すんな。
 ジェットコースター苦手なタイプなんすね。分かる。気持ち悪くなるよね。内臓揺れるから。
 正直アタシも落下する時のあの感覚あんま好きじゃないんすよね。ただ早いだけなら平気なんだけどな。

「ねーねー、門番さんいるよ?」
「メルガイン君が居るんで大丈夫らしいですよ」
「ふんふん、そっかー」

 何が大丈夫かよく分からんけど頷いてるな、ドラゴさん。うん。いつも通りだな。

「アンタさんら、そこで一体何してはるん」
「ん? どちらさま?」

 なんか知らん声が聞こえたので振り返ると、知らない人が立っていた。

 黒いうさぎ耳で、黒髪。赤と黒を基調とした中華と和装足して割ったみたいな不思議な雰囲気の服と、金色の扇。そして何故か姫カット。ついでに麻呂眉。吊り目な感じのクールビューティな、どこか雅な雰囲気のイケオジだ。

 うん、イケメンじゃなくて、イケオジ。

 大事なことなので複数回言います。イケオジ。

 え、何この人、濃い。バニーイケオジじゃん。

 ていうか、異世界ってこんなにもオッサン率高いモンなの?
 大体のファンタジーラノベじゃ女の子とか若い子と知り合ってんのにめちゃくちゃオッサン率高いんだけど、どうなってんだこれ。
 あ、そうか、これが現実か。

「そらこっちのセリフですわ。若い女の子におっさん連中が寄ってたかって、恐ろしわぁ」

 バサッと扇を広げて口元を隠しながら、大仰な仕草で嫌悪感をあらわにするバニーイケオジ。うさぎ耳が気になるドラゴさんは耳ばっかりじっと見つめている。仕方ないね。

「女の子なんていませんよ?」
「……はァ、見苦しゅうてかなんわ。言い訳なんぞ、大人のすることですのん?」

 ハーツさんの言葉すら一蹴するみたいな独特の訛りは、現代日本で地味に聞き覚えがあった。

 これは大阪弁ではない。いわゆる関西、京都弁、または京弁と言われるアレが一番近いだろうか。この嫌味っぽい雰囲気の喋り方がまさにそうだ。

 とはいえ、本場京都の訛りはここまで露骨な蔑みの感情なんて見えないし、普通にここまで訛ってないから、これが世にいうファンタジー訛りなのだろう。知らんけど。

 とか考えつつ、客観的に状況を見てみる。
 地面に両手をついて苦しんでるオトコの娘と、それを囲む三人のイケオジ。うん。なるほど。こりゃ確かにそう見えるな。
 嫌味っぽいけど、わざわざ一人でこの人数に立ち向かえる程度には正義感のあるひとらしい。扇を持つ左手の甲に冒険者章が見えることから、このひとも冒険者のようだ。

「メルガイン君、また女の子に間違えられてますよ」
「僕は! れっきとした! 男子です!」

 口の端から若干胃液を垂らしつつ、ミルガイン君が叫んだ。歯を食いしばり、本気で反抗するみたいな声だ。

「は?」
「どうしてみんな僕を女の子だと思うんですか……!」

 普段から女の子に間違われ続けているからか、だんだん腹が立って来たのかもしれない。ここしばらくハーツさんと行動してたからかな。
 ハーツさん相手がなんだろうが興味なかったらほとんど気にしないから露骨な女の子扱いとかしなかっただろうし、アタシもそこまで興味ねェからなぁ。ドラゴさんは、ドラゴさんだし。

「……可哀想に、おっさん連中に脅されて、しゃーなしそう言うてはるんやろ? ほんま卑怯やわぁ」

 あー、やっぱそう来るよねー。偏見というか、先入観ってなかなか取れないもんっすわ。

「だろうと思った。ほっときましょこんなオッサン。こっちの話聞く気一切ない奴の戯言なんぞ、聞いてる暇ねェですし」
「そうですね。それよりも早いとこ冒険者組合に行きましょう」

 そそくさと進もうとするハーツさんである。うん、これお腹空いてるな?

「ねーねー、あの人うさ耳生えてるけどさー、うさぎって性欲めちゃくちゃ強いってホントかな」

 そしてさすがのドラゴさんである。空気を読まないその姿勢。素晴らしい。便乗しとこ。

「え、うさぎは毎日発情期、ならどっかで聞いたっすけど」
「あ、つまり今回は好みの女の子だと思ってナンパしてるってことですかね?」

 意図を察してくれたのか、それともただ単に興味を惹かれた話題だったのかは分からないが、ハーツさんまでノってくれた。ありがてぇ。

「ははーん、なるほど。おっさん連中に囲まれてるから絡まれてると思って、そこを助けたらワンチャンあるかもと?」

 ニヤニヤチラチラうさぎのおっさんを見ると、彼は顔を真っ赤にして声を荒らげた。意外とウブなのかもしれない。なにそれキャラ濃すぎか。

「アンタさんらええ加減にしぃや! 憶測だけでもの言うなんぞ、恥ずかしいと思えへんの!?」
「そのセリフそっくりそのまま返すっすわー」

 憶測だけで喋ってたのアンタじゃん。

「はァ!? なんなんアンタさんら!」
「見たらわかるっしょ。冒険者仲間っすわ」

 左手の甲を見せると、ハーツさんとミルガイン君も左手の甲をおっさんへ見せる。ドラゴさんだけ仲間はずれでちょっと寂しそうである。

「……アンタさんら知りませんの? 最近、新人冒険者の行方不明者が増えて来てるって噂」
「なにそれ」
「そーなの?」

 全然知らんけどそれ。

「あぁ、アレですか」
「あ、ハーツさん知ってるんだ」
「はい。冒険者組合で……」

 なるほど冒険者組合。

「その犯人、アンタさんらやった、ちゅうわけですか……」
「いえ、冒険者組合の左遷されてきた組合員さんでした」

 ふむふむ。

「新人冒険者を、こうやって寄ってたかってなんややましいことしてはったんやろ!」
「この冒険者章をスタンプする時に、冒険者章じゃなくて奴隷印を持ち出して来て、それで言うことを聞かせてから人身売買してたらしいですよ」

 うさぎのおっさんの想像よりもヤバい真実だった。

「……な……なんやの!? そない恐ろしこと言うて!」
「マジでヤバいヤツじゃんそれ」
「こわー……」

 これが事実は小説よりも奇なり、って事案か……。異世界怖いな……。

「今は冒険者組合支部長がちゃんと捕まえて、絞ってるらしいですよ?」
「よかったー」

 マジでよかったすわ。まだそんなんが組合に居たらドラゴさんとか絶対危なかったもん。希少種族なんて絶好のカモでしょ。

「そないな話、一体どっから仕入れましたん……!?」
「なにせ、被害者になるところでしたからね」

 は?

「なにそれ? 聞いてないんすけど」
「ハーツさんが? 奴隷にされそうになってたってこと? は?」

 初耳なんすけど?

「…………そ、そんな、じゃあ、誰よりも早く犯人見付けて、冒険者組合から謝礼金たんまり貰うはずやったあーしの作戦は……」
「知らんがな」

 うさぎのおっさんの話は放置して、もっと重要な話をせねばならん。

「それよりもハーツさん、その話聞いてないんだけど、ちゃんと説明してくれるんだよね?」
「わぁ、ユーリャさんが普通に喋ってる怖い」
「そうだよハーツさん、ちゃんと説明してもらわねェと、俺ら街ぶっ飛ばしちまうよ」
「え、ドラゴさん、一人称と喋り方が別キャラになってる」

 ドラゴさんと二人でハーツさんに詰め寄る。

「ちょっと! あーし置いて勝手に話進めんといてくれん!?」
「あー、悪ィね。ちょっと黙っててくれないかな」
「今それどころじゃねェんだよ」
「…………」

 なんか言ってるうさぎのおっさんをあしらう。
 怒りが湧いてきてるからか、顔はともかく雰囲気がめちゃくちゃ怖くなってるのは自覚があった。
 でもそれは仕方ないからスルーだ。
 うさぎのおっさんの顔が引きつってるけど知らん。

「わたしのために怒ってくれる仲間……素晴らしいなぁ……」
「誤魔化されないよハーツさん」
「現実逃避しても意味ねェよ?」

 ハーツさんも顔を引きつらせながら、周囲を見渡した。

「いやなんであーし見るんですのん。黙れ言うたんはアンタさんらでしょうに。あーしは知りませんえ」
「メルガイン君」
「頑張ってください!」

 望みを絶たれたハーツさんがミルガイン君に助けを求めるが、当のミルガイン君は真顔で応援しただけだった。

「待って、見捨てないでください!」
「僕には何も出来ませんから……!」
「メルガイン君の薄情者!」
「僕ミルガインですから!」

 うん、そういうのどうでもいいからハーツさん説明してくれるかな?

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