21 / 68
みっかめそのさーん。
しおりを挟む「なるほど、あっこを通るにゃ通行証と通行料が必要と」
それは門を通っている人達の様子を遠くから観察した結果の結論だった。
まじかー、詰んでるじゃん。
『詰んでるんですか?』
「詰んでるでしょうよ」
両方無いよアタシぁ。どうすりゃいいのよ。
『このままで通ろうとしたらたしかにそりゃダメでしょうけども、ユーリャさんは吟遊詩人でしょう?』
「まぁそうすけど」
草木の隙間に潜みながらの会話である。
変な人になりそうなので、ちゃんと小声です。
『吟遊詩人だと分かる装備で行けば大丈夫ですよ』
「まじ?」
え、ザルすぎん?
変装とかだったらどうすんの?
『まじです。吟遊詩人は定住してない流民扱いなので、通行料さえ払えば大丈夫です』
「あー、そういうことっすか」
『そういうことです』
やっぱザルだよね。
そうやって通行料ちょろまかす人とかいるんじゃないの。
『吟遊詩人だって誤魔化す人も居ますが、パフォーマンスすればすぐボロが出ますんで、その時に徴収してますよ。どこの国も』
「なるほど」
それなりに目立つもんね、吟遊詩人。
その点、ガチで職業が吟遊詩人なアタシは上手いこと行ける可能性が高いんすね。なるほどなるほど。
そうと決まれば装備の変更だ。
メニュー画面を開いて、装備の項目をタップすると、ゲームで集めていた装備たちが並んでいた。
「うーん、詩人ぽい装備……色々あって迷っちゃうね」
『特に、ファンタジーな世界観に合いそうな物が、一番良いと思います』
アイコンしか分からんから何となくでしか選べんなコレ。まあいいか。
「じゃぁー、デカめの羽根が付いたデカめの帽子とー……、あとは、そうだな……なんかこうシュッとしてヒラっとしてフワッとした、なんかこう……形が派手めな服かな」
『擬音の数多いな』
「服の説明苦手なンすよ」
頭から順番に選んで装備していく。
大きめの羽根がついた紺色の帽子に、カーキ色のマント。服は、襟が立った胸元がガッツリ開いた白いシャツに紺色のベスト。それから紺色の……なんだっけ、裾が広がったシュッとしたパンツ……パンタロンパンツ?
靴は先がなんかシュッとしたショートブーツかな。
えーと、あとは、適当に金色系のアクセサリーを装備するか。
よし。これは良い感じですね。
『おお、いいですね! ファンタジーに出て来る吟遊詩人っぽい!』
「でしょ?」
アイテムを選択して装備する、を選択したらもう着てるのマジで便利だな。
「あとは、……ハープでいいか」
吟遊詩人といえばハープでしょ。
『ギターも捨て難い』
「でもここファンタジーじゃん」
『くっ……じゃあシタールとか!』
「シタールって、ギターの弦のとこ長くして背面を丸くしたみたいなやつ?」
『それだ!』
「一応あるけど……」
『あるの!?』
吟遊詩人なんで色んな楽器集めてました。
「でもひとつ問題があってね。コイツでけぇんすよ」
これ座って弾く楽器だからたしかに見栄えはいいんだけど、あのゲームだと武器じゃなくてインテリア、つまり家具なんよね。
だからこそデカくて豪華なんだけども。
『あー……』
「詩人だからってこんな高そうなの持ってうろうろしてると思われてもね」
『たしかに』
なんか弾けそうな気がするから弾けるとは思うけど、それ以前にさ。
「そもそも、シタールってあるんすかこの世界」
『…………どうだっけ』
「はい、ハープで行きます」
『はぁーい』
危ない橋は渡らないに限る。
というわけでハープを……、ハープ……、……うん。
「……んー……」
『どうしたんですか?』
「どのハープがいい?」
『そんなに種類が!?』
「いや、そりゃそうでしょ。初期装備の攻撃力低めのやつから、最難関ダンジョン用まであるよ」
何に驚いてるんすかね。ハープは吟遊詩人の基本武器じゃよ。
『あ、初期装備のにしときましょう』
「……それもそうすね」
『間違ってスキル使って街が吹き飛んだら困りますからね』
「うん」
マジでそれありそうで怖い。
やだわー、そんなんなったら一気に犯罪者だもん。
まだ二人と合流出来てないのにそんなんとか、マジでやだわー。
初期装備の小さなハープを装備して、軽く伸びをする。
まるで長年着てたみたいなしっくり感の装備たちに、逆に違和感を感じてしまう。
元が普通の人間だから仕方ねェんだけどさ。
「よし、ほんじゃ行きますか」
『あっ、ちなみにですが、お金、ゲームで使ってたヤツ一応使えますよ』
今更小出しされた新情報に、進めようとしていた足が止まる。
「それ早く言って?」
『てへぺろ』
シバくぞ。
『あ、でもそれ古代文明の遺物扱いなのでめちゃくちゃ希少です』
「いや使えねぇじゃん」
『だから一応、って言ったじゃないですか』
なんなのお前。
いや、まぁ、何かで使えるだろうから一応ありがたい情報ではあるけどさぁ。
今言う必要あった? なかったよね?
「仕方ねェ、当初の目的通りに行くか……」
『何をするんです?』
ハープをの弦を爪弾き、ポロン、という音を響かせてから、告げる。
「歌うんだよ」
「いやー、儲かった儲かった」
待機列の最後の方に並んで、ポロンポロンとハープ弾きつつ歌ってたら、聞いてたらしき人達からめっちゃポケットにお金入れられたんだけど、これ吟遊詩人の営業的に合ってんのかな。
『なんか、ちょっと怖いくらいお金くれましたね皆……』
まぁたしかに、歌ってる途中でチップをポケットに突っ込まれたのは予想外だったけど。
「そりゃあそうさね。いくら暫くすりゃ入れるとはいえ待ち時間なんて暇だし、そこで最高のパフォーマンス見たら、それなりにチップも弾むってモンよ」
『たしかに、すごかった』
「しかしハープ習ったことないのに弾けるもんなんすね」
聞こえてくる声にぽそぽそと返しつつ、お金を数える。
えーと、銅貨っぽいのが四十枚、銀貨っぽいのが……ん? これ鉄? 分からんな……。まあいいか。それぞれ各十枚はあるし。
『いや、一番は歌声でしょう。あんな良い声で歌われたら人によっては大金積みますよ』
「まじかぁ、なんか照れますね」
さすが、めっちゃこだわっただけあるね。
『連写もする指も弾みました』
「何してんすか」
『ご馳走様でした』
なんなんすかコイツまじで。
「ま、とりあえず、これだけありゃ街には入れるっしょ」
ベストのポケットでジャラジャラしてる硬貨を指先で確認しつつ、小さく呟く。
多分五千円くらいの価値にはなってるんじゃないかな。知らんけど。
どっかで価格の調査しとかないとなぁ。
「おお、吟遊詩人か! さっき聞こえて来た歌はアンタだったんだな!」
「あ、はい」
ようやく自分の番が来たと思ったら、門番の兵士は、なんかめっちゃ嬉しそうに応対してくれた。
「この街には娯楽が少ないからなぁ、歓迎するよ。アンタの通行料は銅貨十枚だ」
「え? でもさっきの商人さんは銀貨だったような」
「吟遊詩人は珍しいからな。この街では優遇措置されてんだ」
そんなんあるの?
え、大丈夫それ。
「えぇー、それはなんかちょっと申し訳ないンだけどなァ」
「申し訳ないと思うなら街でたくさん歌ってくれりゃいいさ」
「まじかぁ」
これ、またどっかで歌わないといけないパターンじゃん。
まぁ、吟遊詩人って職業だからか知らんけど、歌ったり弾いたりって行動に対する羞恥心耐性があんのか、ノリノリで歌えるからいいんだけどさ。
ポケットからチップでもらった銅貨を十枚数えてから、門番の兵士に渡す。
「はいたしかに。そんで、この国で市民権は取るかい?」
「出来れば取りたいと思ってますねェ」
「んじゃあ、役所が詳しく教えてくれるよ。この道をまっすぐ進んで突き当たりのデカい建物だ。そんで、この簡易通行証見せるといい」
「おー、ありがとうございます」
渡された紙を見る。読める。やったぜ。
細かいとこは置いといて、走り書きで、吟遊詩人、ってでっかく書いてあるのが一番気になるけど。
「いいってことよ。ちなみに役所を左に進むと酒場があるからそこ行くといい。よく歌い手や弾き手を募集してるぞ」
「何から何まで、ありがとうございます」
酒場は情報収集の基本だから、めちゃくちゃありがたいですありがとうございます。
「なぁに、おれの行きつけの酒場ってだけさ」
「ええー、客として来るならチップくれるんすよね?」
「ははは! アンタの歌が良かったら払うさ!」
「その言葉忘れないでくださいよー?」
「わかったわかった! さあ通んな。アルヘインへようこそ!」
そんな感じで、なんか知らんけど明るく爽やか朗らかに、しかもめちゃくちゃ簡単に門を通過出来てしまったのだった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
解体の勇者の成り上がり冒険譚
無謀突撃娘
ファンタジー
旧題:異世界から呼ばれた勇者はパーティから追放される
とあるところに勇者6人のパーティがいました
剛剣の勇者
静寂の勇者
城砦の勇者
火炎の勇者
御門の勇者
解体の勇者
最後の解体の勇者は訳の分からない神様に呼ばれてこの世界へと来た者であり取り立てて特徴らしき特徴などありません。ただひたすら倒したモンスターを解体するだけしかしません。料理などをするのも彼だけです。
ある日パーティ全員からパーティへの永久追放を受けてしまい勇者の称号も失い一人ギルドに戻り最初からの出直しをします
本人はまったく気づいていませんでしたが他の勇者などちょっとばかり煽てられている頭馬鹿なだけの非常に残念な類なだけでした
そして彼を追い出したことがいかに愚かであるのかを後になって気が付くことになります
そしてユウキと呼ばれるこの人物はまったく自覚がありませんが様々な方面の超重要人物が自らが頭を下げてまでも、いくら大金を支払っても、いくらでも高待遇を約束してまでも傍におきたいと断言するほどの人物なのです。
そうして彼は自分の力で前を歩きだす。
祝!書籍化!
感無量です。今後とも応援よろしくお願いします。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる