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side2 ジュリエッタが消えた世界

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謁見の場では、呼び出された貴族家当主や、次期当主、近衛兵に魔法師団員と、錚々たる顔ぶれが揃っていた。


伯爵「突然の呼び出しとは…全く。忙しいんですよ私は。一体なんの為の呼び出しだ?わかるか?子爵殿」


顎に手を当て髭をさすりながら、隣にいる子爵に話し掛けた伯爵。


子爵「知りませんよ。私は娘の傍に居てやりたいのだ。無意味な茶番だったら文句言ってやりますよ」


突然の呼び出しに憤り、怒りを露わにする子爵家当主。


男爵「お前のところの娘か……あれは酷いもんだった。誰かに依頼された。と、言ってたそうじゃないか」


男爵という下位貴族でありながら当主は顔が広く、高位貴族や国の重鎮とも渡り歩く逸人である。


子爵「酷いってもんじゃない!娘は壊れてしまったよ。破落戸を野放しにしているこの国は腐ってる!国王も、その息子も、王妃も!依頼主は隠された。揉み消しだよ」


男爵「滅多な事を言うな。王族侮辱罪で投獄されるぞ。揉み消し…ということは高位貴族か…酷いもんだ。
私の娘も、高位貴族の娘に大火傷を負わされた。実行犯はなんの咎も受けず、のうのうと暮らしておるわ」


暴漢に遭った子爵令嬢の親と、魔法攻撃で大火傷を負った男爵令嬢の親、その他にも、アイリスと関わった事で人生を狂わされた令嬢、令息の親が一堂に会した。

ザワザワとする謁見の場。その場に颯爽と現れたのは、国王の弟である『メルセデス公爵』と、公爵家嫡男『セフィーロ公爵令息』そして、拘束具を手首に装着した『アイリス・メルセデス公爵令嬢』だった。

『高貴な青薔薇』と呼ばれるメルセデス公爵の登場に、会場の騒めきが一層大きくなったところで、宰相補佐である、メルセデス公爵の妻、セリーナの兄が声を張り上げた。


宰相補佐「静粛に!国王の御成である!頭を垂れ控えろ!」


声の終わりと共に、王冠を被った裸の大将……いや、国王陛下と、第一王子殿下アルファード、まだ6歳の第二王子殿下エスクードが壇上に現れた。

国王陛下が玉座に座り、アルファードとエスクードが左斜め後ろに立ったところで謁見が始まった。


国王「お集まりの貴族諸侯!急な呼び出しに応えてくれ感謝する!クアトロ宰相補佐、頼む」


宰相補佐「本日、伝統ある魔法学園にて催されていた、学園祭のダンスパーティーで、アルファード王子殿下とメルセデス公爵の養女アイリス嬢が共謀し、ジュリエッタ・メルセデス公爵令嬢を断罪し、王城の塔に幽閉、そして身分剥奪と国外追放を言い渡した!」


「アイリス嬢が養女?」「断罪して幽閉?」「なんの罪で?」


ザワザワとする貴族達。それに対し「静粛に!」と、国王の近衛騎士が声を張り上げた。


国王「事実であるか、アルファード。そしてアイリス嬢」


アルファード「……はい……間違いありません」

父である国王に尋ねられ、答えたアルファードだったが、断罪は間違いであったと、悪女アイリスに騙されたのだと、この時すでに分かっていた。

学園から王城までの馬車の中で、セドリックから渡された資料を読んでいた為、『アイリスがジュリエッタに虐められていた』というのが嘘だと知ったのだ。

後悔してももう遅い。恋に溺れ、欲に溺れ、王子として有るまじきに行為をしてしまった。

無実の女性、しかも自分が望んで婚約者に選んだ女性を蔑ろにし、有りもしない罪で断罪してしまった。

だから、意気消沈したまま国王の問に力なく答えた。 

項垂れる息子を見、(間違いに気付いただけマシだな)と、国王は思っていた。(それに比べて……)


アイリス「……とても悲しゅう御座いますが、事実ですわ。罪を犯した者はそうあるべきだと思うのです!幼少期から毎日、ジュリエッタに暴力を振るわれ、罵られ、学園でも階段で突き飛ばされたり、手鏡を割られたり、扇子で殴られたり、取り巻きを使って暴言を吐いたりと、それはそれは恐ろしい事を沢山されてきたのです!」


また始まった悲劇のヒロイン、アイリス劇場が。

一人喋り続ける悪女に、謁見の場に集まった貴族達や、近衛兵、魔法士、国王、王子達、宰相補佐、メルセデス公爵、セフィーロが、無言で聞いていた。

アイリスの話を事実なのだと信じて憤る貴族も居たが、大半がデマカセだと思ってる。
特にアイリスの被害に遭った令嬢、令息の、親は全部が嘘だと分かってた。

子爵令嬢の父と、男爵令嬢の父は、拳をギュッと握り締め、怒りで魔力が揺らいでいた。『暴走寸前だマズイ』と、いち早く反応した魔法師団長が駆け寄り、魔力を分散させ声を掛けた。

師団長(ここではマズイです。怒りはご最もですが、今は抑えて下さい。悪女は必ず裁かれます)コソコソ

それで少し冷静になり、「手数掛けた。申し訳ない」と言葉を返し、その後は傍観に徹した。


アイリス「~ですの。ですから陛下、悪女ジュリエッタは裁かれるべきなのです。
あ!そうだわ!国の腐った種は国外追放では生温いですわね。そう思いませんこと?
ねぇ、アル。わたくし達がもっともっと幸せになる為には邪魔者は排除すべきだと思いませんか?
ふふふ。そうよ、そうだわ!クラウン陛下、ジュリエッタの処分は公開処刑に致しましょう!
民達も、悪女が裁かれるのを見たら安心出来ると思うのです!次期王太子妃のわたくし最初の仕事ですわ。国の膿を排除!これで未来永劫クラウン王国は安泰ですわ!」


やっと話すのをやめ大人しくなったアイリスに、国王は深いため息を吐いて、クアトロ宰相補佐に報告書の朗読を促した


クアトロ「只今アイリス嬢が述べた全てはであると、先に告げさせて頂きます」

アイリス「それこそ嘘だわ!」

クアトロ「魔法士、アイリス嬢に沈静魔法を」

魔法士「は!《サイレンス》」

アイリス「!!……!……!?」ピーチクパーチクと煩い悪女に魔法を掛け黙らした。やっと静かになったところで報告書を朗読していった。


クアトロ「民からの苦情と、生徒やその親からの苦情、王子付き影からの報告と、述べさせて頂きます。これは全て真実だと、国に、王に誓います。
今から述べる暴虐の数々は、全てアイリス嬢と友人の令嬢達によるものです」

1、すれ違いざまに扇子で平民の生徒を殴打。被害者多数。

2、ミスト男爵令嬢を魔法的としての魔法攻撃。令嬢は顔と腕に大火傷。現在治療院で治療中。

3、セリカ子爵令嬢を暴漢に襲わせる為、破落戸に依頼。
市井で誘拐され暴行され、路地裏にて発見。現在、子爵家にて療養中。

4、市井にて幾度となく無銭飲食。店主は身分で脅されたとの事。頻繁に来て参ってしまった為、城に苦情を申し入れた。被害に遭った店は5店舗。

5、走り回ってた市井の子供がアイリス嬢に激突。まだ5歳の幼子に蹴る引っ叩く等の行為。腕の骨を折る重症。

6、モコ子爵令嬢を階段上から突き飛ばし、落下した令嬢は重症。治癒魔法で完治済だが、外出恐怖症に陥り子爵家にて療養中。

7、スカイラ伯爵令息を空き教室に呼び出し、アイリス嬢の友人、カムリ伯爵令嬢に、肉体的、性的に接触するよう要求。
スカイラ令息に好意を持っていたカムリ令嬢が、アイリス嬢に頼んだとの事。

8、魔法実技試験、筆記試験、共に影武者を使い受けたとの事。アイリス嬢は魔法の腕が悪く、筆記も赤点、苦肉の策として影武者をたてたようです。

9、その他、細々した嫌がらせ。令嬢を池に落とす。ペン等の小物を強奪。教科書を破る。見目の良い男子生徒に肉体関係を迫る。これはアイリス嬢が友人に指示してやらせたとの事です。

クアトロ「次の事柄は教会の大司教様からの報告です」

セフィーロ公爵令息が、意識のないジュリエッタ公爵令嬢を抱え治療に訪れた際、全身をスキャン魔法で調べた結果、毒の蓄積と『沈黙の呪い』を掛けられてる事が発覚。

毒はすぐさまキュア魔法にて解毒済。『沈黙の呪い』は、幼少期に掛けられていた為、解呪できず、その方法は『死』でしか解けないとの事。

ジュリエッタ嬢の無表情や無感情は、呪いのせいであるとの事です。

掛けた人間は、幼少期に近くにいて、ジュリエッタ嬢に強い怨みを持ってる人物という事で、大司教様が言うには、公爵夫人かアイリス嬢ではないか?と報告を受けています。


長い長い朗読が終わり、内容の酷さに謁見の場が静まり返ってるところに、「最後に…」とクアトロ宰相補佐が話し始めた内容に場が騒ついた。


クアトロ「アルファード王子殿下とジュリエッタ公爵令嬢の婚約を妬んだアイリス嬢は、2人の交流を阻み続けた。
純で素直な王子殿下は、アイリス嬢の策略にまんまと嵌り、長年の交流の末、心と身体で2人は結ばれた。
だが、2人は異母兄妹、血の繋がりがある為、その行為は禁忌に値する。よって婚姻する事は不可能である」


目を瞑って宰相補佐の話を聞いていた国王は、ゆっくりと立ち上がり沙汰を下した。


国王「恋に溺れ、欲に溺れ、王子としての責務を果たさず、咎のない一人の令嬢を無実の罪で断罪し投獄した、アルファード第一王子よ。沙汰を下す。王位継承権剥奪。離宮にて幽閉とする。王位継承権は、第二王子エスクードに」


アルファード「…うぅっ…はい…畏まりました…うっ…離宮にて生涯反省致します…」


いつも凛として格好良い兄様が泣いてるのを見て、エスクードは困惑していた。そして、王位継承権の譲渡に。
不安でオロオロとしていたら、「ごめんな…」と、アルファード兄様に頭を撫でられ、釣られて泣き出した。

エスクードの側近がすかさず王子を抱え、脇幕に下がったのを横目で確認した国王は、大罪人である悪女アイリスに沙汰を下した。


国王「数々の悪行に、反省しないその姿勢。王子を誑かし続けた罪は重い。アイリス・メルセデス公爵令嬢に沙汰を下す。
身分剥奪の上、寒冷地スノートレイにある修道院に収容。神に身を捧げなさい。
公爵家に咎は無しとする。私の過ちで授かってしまったアイリスを育てて貰った恩もある。
コンチェルト…我が弟よ…すまなかった。国王として、兄として、そなたに謝罪致す」


それまで黙って成り行きを見守っていた、コンチェルト・メルセデス公爵は深く頷き、


公爵「謝罪はいりません。私も娘可愛さに色んな問題から目を逸らしていました。その結果がこれです。
アイリスの義父として、国の宰相として、私も罪を償おうと思います。セフィーロの学園卒業をもって公爵位を譲り、隠居致します。
アイリスの被害に遭われた方々に謝罪を致します。本当に申し訳ございませんでした」


セフィーロは、義姉の沙汰が下った辺りから様子がおかしくなったアイリスを見て首を傾げていた。

それまで国王やクアトロ叔父上を睨み付け、声が出ないのに大口開けてなんか言ってたのに、今はガックリと頭を下げ、身体が左右に揺れている。

何か得体の知れない者に操られてるかのように、身体がユラユラと揺れているのだ。

不気味に思ったセフィーロが、父に話し掛けようとしたら、謁見の間の扉が開き、一人の近衛兵が入って来て声を張り上げた。


近衛「謁見中に失礼致します!緊急事態のため急ぎ報告のため入室させて頂きました!
王城敷地内の塔の牢にて投獄しておりましたジュリエッタ公爵令嬢が姿を消しました!」


公爵「な!?」

セフィーロ「ジュリ姉様が!?」

クアトロ「!?」

国王「近衛よ誠か?」

近衛「は!事実であります!見張りの者も、鍵番の者も、誰も見ておりません!忽然と姿を消しました!」

セフィーロ「父上、ボク姉様を探しに行きます!」

公爵「頼んだセフィーロ。王よ、謁見はこれで終わりで宜しいか?私も娘の捜索に出る故、御前失礼する」

国王「あい、分かった。近衛師団長よ、第3騎士団で捜索を。魔法師団長よ、第1魔法士団で索敵を。みな協力してジュリエッタ嬢の捜索にあたれ」

クアトロ「では、アルファード王子は…セドリック侯爵令息、フィガロ騎士団長子息、マジェスタ魔法師団長子息!前へ!側近として最後の仕事だ。王子を離宮にお連れしろ」

セドリック「は!ではアルファード王子こちらへ」

フィガロ「は!行くぞアル……」

マジェスタ「はいは~い。行くよバカアル」

クアトロ「近衛副師団長。罪人アイリスを城の地下牢へ」

副師団長「は!」


「ジュリエッタが消えた」との報告で各々が捜索に動きだしたが、どこにも姿は無かった。
魔法士達が魔力を辿ったが、「まるで世界から消えたようだ」と、何処にも反応が無く項垂れた。

1年、2年と探したが見付からず、近衛や魔法士が諦める中、公爵とセフィーロは探し続けた。何年も何年も。

それはセフィーロが老衰で亡くなるまで続いたが、結局見付から無かった。
消えた令嬢は何処にいるのか、誰も分からなかった。

が、その行方を知っていた者は居た。聖国の枢機卿だ。『ジュリエッタの捜索は禁ずる』と、神の啓示を受けた枢機卿は、「御心のままに」と、捜索の依頼を頑なに受けなかった。

ただ、セフィーロが逝く時に、「異世界で幸せに生きていますよ」と伝え、気休めだが、憂いを晴らしてから見送った。


一方、罪人として修道院へ送られたアイリスは、呪い返しに遭い、全身に黒い戸愚呂を巻き付かせ、感情を無くし、表情を無くしたまま、生涯を修道院で過ごした。

因果応報、自業自得、当然の報いと囁かれ続けた。

悲劇のヒロインを演じたアイリスは、本当の意味で悲劇の公爵令嬢ヒロインになったのだった。
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