上 下
23 / 26

エンカウントはまだまだ続く? いいえ、もうお腹いっぱいです(3)

しおりを挟む
 ……って、ちょっとまって。
 店の奥にひっこんだ店員さんが、両手に抱えるように包みを持ってきたけれど、それはまさか私が頼んだタルトではないわよね?

「わぁ、こんなにたくさん! ありがとうございますっ」
「ミュリエルちゃんが喜んでくれるならうれしいな。また一緒に買いに来ようね!」
「はいっ」

 ちょっと青ざめた私の前で、ミュリエルがうれしそうに包みを受け取る。
 あぁ、よかった、焦ったわ。
 でもミュリエル?
 あなたそんなに抱えて、帰り道は大丈夫なの?

「ミュリエル。それを持ちながら学園に帰るのは困難だわ。馬車をお呼びなさい」

 お姉様、あっさりというけれどそれは無茶です。
 ミュリエルには、馬車を呼べる伝手もお金もありませんから。
 あぁ、これもきっと仲良くなる前だと、悪役令嬢らしい意地悪に見えてしまうんだろうな。
 いまはもうミュリエルも仲良しだから、ミュリエルを心配していっているのだと伝わるけれどね。
 
「馬車なら……一緒に乗せていくよ……ルシアンの友人も一緒に……」
「おにーさまっ?! おにーさまは、マリーと一緒に帰るんでしょう? わたくしはおにーさまとだけ一緒にいたいのですわ」

 ぎゅうっとレーゼンベルク様に引っ付くマリー様は、彼に見つからない角度でめいっぱいこちらを睨みつけた。
 せっかく良くなったお姉様の顔色がまた陰る。
 
「レーゼンベルク様、お気遣いをありがとうございます。
 ですがこちらは四人で来ておりますから、マリーゴールド様の馬車に全員乗るのは無理があります。
 マリーゴールド様の馬車へは、お二人だけで乗られるのがちょうど良いのではないでしょうか」

「だな。クリス達は俺達が乗ってきた馬車で連れて帰るよ。外に待たせてあるしね」

 ロイス、ナーイスッ!
 不機嫌マリー様と一緒の馬車なんて、絶対に嫌ですからね。
 お姉様のHPが帰宅までに確実になくなるもの。
 ロイスと同じ馬車というのも私の精神が削られていくけれど、そこはもう、我慢しましょう。
 私はただのモブ。
 この世界の主役であるお姉様とミュリエルが最優先です。

「でも……」
「おにーさま、早く帰りましょっ」

 名残惜しそうにルシアンお姉様を見つめるレーゼンベルク様を、マリー様がぐいぐいと引っ張って店を出ていく。
 あぁ、レーゼンベルク様も大変だなぁ。

 店員から私の分とロイスの分のタルトの包みを受け取って、私達も店を出る。

「あっ」
「おっと!」
 お菓子の袋を幸せそうに抱えていたミュリエルが躓いて、即座にビターが抱き止めた。
 はわわと慌ててビターから離れるミュリエルの耳は真っ赤で、「ごめんなさいっ」と謝る姿も愛らしくて。
 ビターはビターで、「ミュリエルちゃんの分もボクが持つんだよ」って言いながら、こちらもなんだか顔が赤い。
 これは……ビターのルートに進んでるかな?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。

曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」 きっかけは幼い頃の出来事だった。 ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。 その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。 あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。 そしてローズという自分の名前。 よりにもよって悪役令嬢に転生していた。 攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。 婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。 するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?

処理中です...