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第二章

ランドリック視点~憎い女のはずなのに1

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 俺の目の前で倒れたルピナを咄嗟に駆け寄って抱きかかえる。

「ランドリック様⁈ ここはゼカ風邪が蔓延していて危険ですから、そんな女は放っておいてください!」

 明るい小麦色の髪の女が叫ぶ。確かグリフェといったか。
 それを無視して、俺は側にいたモナについて来てもらい、ルピナを彼女の部屋に連れていく。
 後ろでまだ何か言っていたあの修道女にはあとで話を聞いておきたいところだが、いまはルピナを休ませることが先だろう。

「助かります。あたしじゃルピナを抱えられないから」

「いや、いい。それより、ゼカ風邪はそんなに蔓延しているのか?」

 先日訪れた時はここまで酷くなかったはず。

「はい。でも、冬のゼカ風邪と違って、喉の腫れ具合が酷いようなんです」

「喉の腫れ……?」

 ゼカ風邪の症状は咳と熱だ。初期のうちに処置すれば問題ないが、放置すれば高熱に苦しみ、体力のない子供や老人だと死に至ることもある。だが、喉の腫れなどはない。

(本当に、ゼカ風邪か……?)

 季節も気になる。
 ゼカ風邪がはやるのは毎年冬の時期だ。真夏のいま流行るような病ではないはずだ。

「ルピナが煎じてくれた飲み薬のおかげで普段よりずっといいんですけれどね」

「彼女は独自に薬を作れるのか?」

「えぇ。修道院に来る前はお母様のご友人が薬師だったそうです。それで習ったことがあるのだとか」

 ……アイヴォン伯爵夫人の友人が薬師?
 あり得ないのではないだろうか。

 何度か会っているが、ルピナほどではないにしても選民意識の強いご婦人だ。
 その彼女が薬師などという平民がなる職業の人間と親しくするだろうか。治癒術師ならまだわかるが。

 ましてや、娘のルピナに薬草を触れさせるだろうか。ルピナもルピナで「そんな雑草をわたしの前に出さないで!」と叫びそうだ。
 怪訝に思いながらもルピナの部屋につき、そっとベッドに横たえる。

「無理させ過ぎちゃった……」

 モナが泣きそうな声を出す。
 最近ずっとルピナといる彼女はルピナの治癒魔法に頼らず、できるだけ薬で処理していたように思う。
 ルピナに命じられて雑用をやらされているのかと思えば、自主的に手伝っているようだった。そんな彼女でもルピナの治癒魔法に頼らねばならないほど患者の状態が悪かったのか。

「そんなに患者が急増しているのか?」

「そうですね。なんせ、患者がどんどん増えてしまって。喉の腫れが酷くなってから来る患者もいるから」

「……患者を、いますぐ隔離したほうがいい」

「えっ」

 俺の勘違いならいい。
 だがもしかすると、これはゼカ風邪じゃない。

 以前隣国で流行った病に似ているのだ。確かクゼン病といったか。
 初期症状はゼカ風邪に似ているのだが、激しい咳と全身の痛み、喉が酷く腫れて呼吸困難を起こす。喉の痛みを止められれば呼吸困難は免れるが、放置すれば息が出来なくなり死亡する。

 杞憂であればいい。だが、万が一ということがある。
 ベッドの中のルピナが苦し気に身じろぎする。ぐったりとした身体は熱もあるようだ。
 この状態で治癒魔法を行使していたのだろうか。
 無茶をする。

「でも……」

 モナが席を立つのを渋る。
 ちらりと、俺とルピナをみる。
 あぁ、そうか。

「ルピナの看病を俺がするわけにはいかないか。モナは彼女を診ていてくれ。俺が院長に隔離を進言しておく」

「っ、ありがとうございます!」

 がばっとモナに頭を下げられた。ヴェールがめくれそうな勢いに苦笑する。
 部屋のドアを開けていても、未婚の、それも婚約者でもない異性を残してはいかれなかったのだろう。護衛騎士も部屋の外に控えてはいるが、こちらも男性だ。
 俺がベット脇を退くと、すぐにモナがルピナのヴェールを少しずらして薬湯を飲ませた。


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