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迷宮19-2)夢だと思うの

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『お、かあ、さん……?』


 わたしは、どこかの部屋の上から、中を覗いているような感じで見ていた。
 出口は、透明な壁に阻まれて出られない。


 お母さんが泣いていて。
 すぐ側に駆け寄りたいのに、出来なくて。
 お父さんが、お母さんを支えるのが見えた。


 ここは、どこなの?
 ベッドで眠っているのは、わたし……?


 わたしの身体から伸びている糸は、ベッドで眠るわたしに繋がっていて。
 ひっぱっても、取れなくて。


 ベッドの周囲には、弟と、あと、トラックの運転手さんがいた。
 運転手さんはね、わたしが顔を覚えていたからすぐにわかったの。
 ごめんね、わたしが飛び出したせいで。
 信号は赤だったから、トラックの運転手さんは少しも悪くなくて。
 だけど必死に、お母さんに頭を下げているのが見える。
 声は聞こえないけれど、動きでわかった。


 でも、あれは誰だろう?


 わたしの眠るベッドの側に、見慣れない背中があった。
 お医者様?
 ううん、ちがうよね。
 だって、お医者様なら白衣を着ているもの。

 長く伸ばした黒髪を後で縛っている男性。
 少し、アンティークな服を着ている。
 どこか懐かしいような、不思議な気持ちだ。
 会った事なんて、ないと思うのに。


 お母さんが、ベッドで眠るわたしの手をとって、さらに泣きはじめた。
 わたしはズキンと心臓が跳ねるのを感じた。


 ……きっとこれは、わたしが死んじゃった時の夢なのね。


 ごめんね、お母さん。
 親より先に死んじゃうなんて。


 お父さん、黙ってるね?
 つらいときは、何も言わずにじっと耐えるのがお父さんだものね。
 ごめんなさい。

 
 ごめんね、伸くん。
 今頃きっと、こんなことなら俺が雑貨屋まで案内しておけばよかったって、きっと後悔してるよね。
 駄目なおねーちゃんで、ほんと、ごめんね……。


 いつの間にか、わたしも泣いてて。
 でもどうにも出来なくて。
 その場にうずくまった。
 死んでしまったことを、本当に後悔した。




 ……?



 どれほど、出られない出口でうずくまっていたかな。
 だれかが、わたしを呼ぶ声が聞こえた。


 ――さん――迷宮――さん……


 羅針盤懐中時計が、淡く輝いた。


『迷宮さん……っ!』


 この声、ルーくん?!

 
 ルーくんの呼ぶ声が、直接、頭の中に響いた。
 必死に、精一杯叫ぶ声。

 
 ルーくんに何かあったの?
 そうだ。
 迷宮の、みんなは?

 わたしは、はっとして立ち上がる。


 出口から見える家族に、わたしは深く、頭を下げる。
 きっとこれは、神様からの贈り物だ。
 死んじゃったときは、本当に一瞬だったから。
 夢でも、みんなの姿を見れて、よかった。
 声が届かなくとも、謝れて、よかった。


 大好きでしたよ。


 わたしは、出口に背を向けて、トンネルの中に戻った。
 来た時とは反対の糸を辿るようにして、わたしは進んでいく。


 進めば進むほど、ルーくんの声と、羅針盤懐中時計の輝きが増してゆく。
 わたしは、光が溢れる出口に、一直線に飛び込んだ。

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