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迷宮3-2)冒険者さんいらっしゃい!
しおりを挟むわたしの意識がこの世界に来た時に、この迷宮も生まれたようなのよね。
冒険者達の会話でわかったの。
道理でレンガとか、屋外なのに新品ぴかぴかだと思ったわ。
思わず口に入れたくなるぐらい、クッキーっぽい見た目なのよね。
もちろん食べれないけれど。
出来立てほやほやの迷宮は、ちょっと珍しいらしくて。
こんなに小さいのに、冒険者達がぽつぽつ訪れるのですよ。
「なんだこれ、本当に迷宮か?」
「一本道じゃん……」
気の抜けた様子で、冒険者達が呟く。
あー、うん。
そう思うよねぇ。
わたしもそう思う。
ごめんなさいね、期待にそえれるような大迷宮じゃなくて。
あっ。
さっき宝箱の中身を持っていかれたのに、まだ補充して無いよ。
『コビットさん、急いで薬草を宝箱に仕込んでくださいな』
『こびっ☆』
ぴょこんっ☆
わたしのお願いに反応して、最奥の女神像の前に、小人のコビットさんが現れた。
コビットさんは、玩具の兵隊のような格好をしている。
子猫ぐらいの大きさで、色々と雑用を担ってくれる可愛い相棒だ。
予め用意しておいた薬草をいそいそと宝箱にしまいこんでコビットさんが姿を消すのと、冒険者が最奥の部屋に到着するのがほぼ同時だった。
「おい、いまなんかいなかったか?」
「そうか? 気のせいじゃないかなー」
そうそう、気のせいですよ、気のせい。
コビットさんが見つかって退治でもされちゃったら、わたしマジで泣く。
この迷宮、まだコビットさんしかいないんだからね。
コビットさんがいなくなったら、わたしはぼっち確定ですよ。
退治されずとも捕まって売り飛ばされでもしたら、ここから動けないわたしは助けにも行けないしね。
コビットさんは迷宮に棲む妖精みたいな存在だ。
たぶん、わたしの迷宮のレベルが上がればもっと増える感じなんだけど、いまは一人だけ。
コビットさんは迷宮の中を自在に行き来できるから、早々掴まったりはしないと思うけどね。
「……しょぼすぎないか、これ?」
宝箱の中をあけて、がっくりと項垂れる冒険者さん。
うん、ごめんね。
薬草ぐらいしか、まだ用意できないんだよね。
でもその薬草は、コビットさんが一生懸命迷宮の裏手で育ててくれてたりするのよ。
さんさんと煌く太陽の光と、コビットさんの愛情がたっぷり詰まってるから許して?
「まぁまぁ、こんなちっこい迷宮じゃこんなもんだって。むしろレアなお宝があったらなんかの罠が心配だよ」
「それはそうなんだが」
「この薬草、結構新鮮じゃない? 冒険者ギルドに持っていけば意外と買ってくれるかもよ?」
うんうん、そうそう。
その薬草、ちょっと効力お高いらしいのよ。
一昨日来た冒険者の中に薬草に詳しい人がいてね。
色々仲間に解説していたのを聞いてたんだけど、同タイプの薬草よりも二割り増しの回復効果が見込めるとか何とか。
調合に失敗したら無駄になっちゃうけどね。
コビットさんが一生懸命育ててくれた薬草だから、捨てないで欲しいな。
「一応持って帰るかぁ」
冒険者はがさごそと腰のバッグに薬草を詰めて去って行った。
良かったよかった。
昨日来た冒険者さん達ってば、宝箱開けた瞬間に「ゴミじゃん!」って叫んで薬草投げ捨てたからね。
泣きじゃくるコビットさんをなぐさめるの、大変だったよ。
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