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終章
影
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「それはもう、人前だと言うのにまるで気にせずに」
「ははっ、鋼のやつも中々やるなぁ」
そう言うと、男はくっくっと喉を鳴らした。50そこらの壮年男性であるが、白髪交じりの頭を後ろで一つに括り、口元に髭を伸ばした顔立ちは、古めかしい和装と、畳敷きの茶室によく似合っていた。
そんな彼の様を、女___蘆屋沓子は、くすりともせずに眺めていた。
「感心している場合ではありませんよ、土御門卿」
「赤ん坊の頃から面倒見てたんだ。息子同然なんだよ」
土御門卿と呼ばれた男は、しみじみと言った。
「もう少し、成長に浸らせてくれ」
「とぼけないでください」
沓子は、ずい、と身を乗り出した。銀縁眼鏡のレンズ越しに、土御門を睨む。
「成長、などとおめでたいものではありません。覚醒です。___式三鋼は、酒呑童子として覚醒したのですよ」
「…」
「卿は、彼の監視と、覚醒の予防を任されていたはず」
「…」
土御門は、黙って沓子を睨み返し…やがて、深々と溜め息を吐いた。
「…そうだな。俺の責任だ」
「では、酒呑童子の監視役である土御門家…ひいては『式三』を造った、安倍の末裔として」
「分かってるよ。…酒呑童子は、俺が殺す」
「…賢明な判断です」
ここで初めて、沓子が笑みを見せた。土御門も口元を歪め、鼻を鳴らした。
「で? 『棄蘆』が、わざわざ口出ししてくるってことは、売りてえ恩の一つでもあるんだろ? 出せよ、買ってやる」
すると、部屋の襖が静かに開いた。
「流石、土御門卿は話が早い。本家の腑抜けどもとは大違いです」
その向こうに正座していたのは、巫女服を纏った一人の少女。切り揃えられた艷やかな黒髪や、涼し気な切れ長の目は、どことなく水鏡町の蘆屋の巫女を彷彿とさせる。しかし彼女は、それよりも幾分、幼い顔立ちをしていた。
少女は正座したまま、深々とお辞儀をした。
「卿もお歳ですし、一人では心細いでしょうから。…私の、娘に手伝わせましょう」
「蘆屋迅沙と申します」
迅沙と名乗った少女が、顔を上げた。濡れたような黒い双眸には、子供らしからぬ重苦しい光が宿っていた。
「…」
それを見た土御門は…静かに、舌打ちをした。
「ははっ、鋼のやつも中々やるなぁ」
そう言うと、男はくっくっと喉を鳴らした。50そこらの壮年男性であるが、白髪交じりの頭を後ろで一つに括り、口元に髭を伸ばした顔立ちは、古めかしい和装と、畳敷きの茶室によく似合っていた。
そんな彼の様を、女___蘆屋沓子は、くすりともせずに眺めていた。
「感心している場合ではありませんよ、土御門卿」
「赤ん坊の頃から面倒見てたんだ。息子同然なんだよ」
土御門卿と呼ばれた男は、しみじみと言った。
「もう少し、成長に浸らせてくれ」
「とぼけないでください」
沓子は、ずい、と身を乗り出した。銀縁眼鏡のレンズ越しに、土御門を睨む。
「成長、などとおめでたいものではありません。覚醒です。___式三鋼は、酒呑童子として覚醒したのですよ」
「…」
「卿は、彼の監視と、覚醒の予防を任されていたはず」
「…」
土御門は、黙って沓子を睨み返し…やがて、深々と溜め息を吐いた。
「…そうだな。俺の責任だ」
「では、酒呑童子の監視役である土御門家…ひいては『式三』を造った、安倍の末裔として」
「分かってるよ。…酒呑童子は、俺が殺す」
「…賢明な判断です」
ここで初めて、沓子が笑みを見せた。土御門も口元を歪め、鼻を鳴らした。
「で? 『棄蘆』が、わざわざ口出ししてくるってことは、売りてえ恩の一つでもあるんだろ? 出せよ、買ってやる」
すると、部屋の襖が静かに開いた。
「流石、土御門卿は話が早い。本家の腑抜けどもとは大違いです」
その向こうに正座していたのは、巫女服を纏った一人の少女。切り揃えられた艷やかな黒髪や、涼し気な切れ長の目は、どことなく水鏡町の蘆屋の巫女を彷彿とさせる。しかし彼女は、それよりも幾分、幼い顔立ちをしていた。
少女は正座したまま、深々とお辞儀をした。
「卿もお歳ですし、一人では心細いでしょうから。…私の、娘に手伝わせましょう」
「蘆屋迅沙と申します」
迅沙と名乗った少女が、顔を上げた。濡れたような黒い双眸には、子供らしからぬ重苦しい光が宿っていた。
「…」
それを見た土御門は…静かに、舌打ちをした。
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