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 小さな道場の真ん中に、一人の少女が正座し瞑想している。白の道着に紺色の袴を穿いた彼女は、絹のような黒髪を後ろで一つに括り、腰の辺りまで垂らしている。惜しげもなく晒されたうなじや耳は抜けるように白く、目鼻立ちはきりりとして涼やか。膝の上で軽く握られた指も、すらりと長い。齢は十五かそこらであろうか。
 道場には、彼女の他に人は無い。何の変哲もない、どちらかと言えば古びた道場で、彼女の向かう正面に神棚、その少し下に一振りの木刀が掛かっている他に物は無い。しかし、一つだけ奇妙なことに、床には彼女の坐すところを中心に、壁まで届こうかという巨大な円が幾つも、同心円状に広がっていた。それは塗料で描いたというよりは、濡れた床板の変色に見える。雨垂れが染み付いたにしては、あまりに大きすぎるが、さて___

◆◆◆

「…」

 窓から射す西日が、夜の闇に塗り潰される頃。相変わらず少女は正座し、道場は静寂に包まれている。
 しかし、注意深く観察すれば気付くかも知れない。僅かな変化に。

「…っ」

 少女の肩が、小さく震えた。それだけではない。先程から少女の呼吸は浅く、速くなり、膝の上で両手が落ち着かない様子で小刻みに動いている。白い頬には、微かな赤みが差している。
 座禅であれば、今頃師匠の喝が飛んでいるだろう。しかし、ここに彼女の変化を咎めるものはいない。

「…はっ、はぁっ」

 湿った吐息。正座した膝がもぞりと動き…落ち着かない両手を捉えた。腿の間に両手を強く挟み、彼女は深呼吸した。

◆◆◆

「っ…っ…」

 夜が更ける頃。少女は両手で袴の股ぐらを抑え、前のめりになって震えていた。

「はぁ…っ、く…」

 苦しげな息。硬く閉じた眼の端から、涙が一筋、頬を伝う。
 震えが大きく、速くなり…やがて、全身が硬く、動かなくなる。
 
 ___そして。

「…ぁ」

 びくん。
 少女の腰が、跳ねた。
 震える膝の下で、何かがきらりと光った。次の瞬間

「あ…あっ、あぁ、ぁ…」

 ふるり。ふる、ふるり。

 ___じわぁ……

 正座する少女の足元から、くちなし色の液体が、さあっと道場の床に広がった。

「ああぁ…はっ、はあぁぁ…」

 どこか艶かしくすらある苦悶の声を上げ…少女は、くちなし色を床いっぱいに咲かせる。___おしっこを、漏らす。
 袴の中におもらしを続けながら、涙を浮かべた黒い瞳で、少女は自身の咲かせた失禁の行く先を見つめる。

◆◆◆

「…っっっ」

 少女が身を震わせると、くちなし色の湖に波が立った。既に拡大は止まっている。何時間も堪え続け、遂に決壊したおしっこの縁は、道場の床に描かれた円の外周より、ずっと内側で終わっていた。
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