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盲目の少女と戦うロボット 3

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 大きく深呼吸をし、張り詰めた空気からの解放を感じながら窓の外を眺める。周囲の住宅はほとんど明かりが消えていたが、まだ街道の方では賑わう人々の声が聞こえたような気がした。景色を楽しんでいると、博士が

「一将、今日貸してた傘返して、今から干してくる」

といつもより小さな声で話しかけてきた。
きっと寝ている少女に気を使っているのだろう。俺は、無言で頷きながら、まだ湿っている折りたたみ傘を渡した。
博士は、それを受け取り、居住スペースのある上階へ向かった。
俺は、その姿を見送り、少しの間夜の風景を楽しんだ後、博士の後を追った。



 階段を上り、部屋を見渡すと電気を消そうとしていた博士が

「うん?まだ用事があるのかい?」

と眠たそうに瞼をこすりながら言った。

「ああ、実はメンテナンスを十分にして欲しい」

と俺は、返答した。すると、博士が

「別に構わないが、明日にしてくれないかな?」

と欠伸をしながら、答えた。俺が頷き、承諾の意思を見せると

「じゃあ、破損箇所とかも調べるからいつものようにラボの検査カプセルに入ってね、おやすみー」

と博士が言うと、俺の返答を聞かず電気を消し、寝室へ入っていった。
博士は眠たくなるとせっかちになることが多い。
小さくため息をついた後、階段を上がり言われた通りに、カプセルに入り、スリープ状態になった。



窓から差し込む暖かな日差しに気が付き、朝独特の倦怠感を感じながら、俺は体を起こす。
階下では、何やらせわしなく移動する音と美味しそうな朝食の匂いがする。
俺は、大きく伸びをした後に、久しぶりに食す温かい食事に心躍らせながら、下へ向かった。
部屋に顔を出すと、博士が

「おはよう!今日は気持ちがいい朝だね」

と楽しそうに言ってきた。俺は、

「ああ、確かに気持ちがいい朝だな」

と返し、出来上がりつつある料理の味を想像しながら食器を運ぶのを手伝った。
食器をある程度運び終わると、博士が

「よし、完成した!下で寝ている彼女起こしてきて」

と頼まれた。俺は、頷き階下に降りると、少女は静かに寝ていた。

「朝だぞ、そろそろ起きろ」

と声を掛けると、彼女は少し怪訝な顔で、体を起こした。俺は、続けて

「昨日は突然倒れるから驚いたぞ」

と言いった。彼女は、照れくさそうに

「緊張の糸が緩んでしまって‥‥‥本当に迷惑をかけてすみません」

と言い、続けて

「ここはどこなのですか?」

と訊ねてきた。俺は、

「ここは橘博士の家の診察室だ、上で朝食を作って待っているからお礼はその時に言えばいい」

と答え、彼女を上階へエスコートしようと手をつかもうとしたが、昨日の一言と噓が頭をよぎった。ここで、手をつかめば信用は完全になくなってしまうのでは?そう危惧した俺は、周りを見渡した。すると、玄関先にカイロの箱があるのが見えた。俺は、1つ手に取り出来るだけ手を温めた。十分に温まった手で、彼女をエスコートし上階へ上がると、博士が珍しそうな顔でこちらの様子を見ていた。椅子まで案内すると、彼女は

「ありがとうございます」

と少し微笑み言った。博士が

「おはよう、今日はハムエッグトーストを作ったんだ、君の目の前に置いてあるよ、後飲み物は左前にあるから気を付けてね」

と言い、俺が疑問符あげていると、彼女が

「ありがとうございます」

と返し、まるで見えているかのように、食事を始めた。俺が不思議そうに見ていると、博士が

「あれ?一将、食べないの?」

と聞いてきた。俺は

「ああ、食べるよ」

と少し動揺した感じで答えた。食事を進めていると、博士が

「一将、彼女の名前って?」

と聞いてきた。俺は、

「そう言えば聞いていなかったな」

と答え、彼女に

「君の名前を聞いてもいいか?」

と問いかけた。口に入ったトーストを咀嚼し終えると彼女は

「東雲彩花です」

と小さな声で答えた。それを聞いた博士が

「東雲?!あの国を支えている財閥の1つの東雲グループの?」

と少し早口になりながら言った。なるほど、ようやく合点がいった。東雲財閥を含む有力財閥は、軍によって守られている。しかも、そこらの傭兵では太刀打ちできないような優秀な兵士しか護衛につけない。もちろん、敵国の普通の兵などでも相手にならないだろう。昨日の腑に落ちない点が1つ消えたことに少しの爽快感を感じていると

「あの‥‥皆さんのお名前も聞いてもいいですか?」

と彼女が質問してきた。すると、博士が

「僕は、橘颯太で、君をエスコートしてきたのが漆山一将くんでーす」

 と元気に答えた。漆山一将というのは、博士が勝手に呼んでいる呼称で本当はP-007と言うのが正しい。俺は、そんなことを考えながら、トーストにかじりついていた。皆の食事が終え、食器を片付けようとすると、博士が

「そうだ!彩花ちゃんに杖をあげよう!そうすれば1人で多少は動きやすくなるだろう」

そう言うと、彼は階下へと向かった。俺は、そのお節介をやく姿に日常を感じ、少し笑い、彼女に

「今日は軍に昨日の報告をしに行くから、用意を済ましといてくれ」

 と言い、皿を洗い始めた。
彼女は微笑みながら小さく頷き、博士を待っていた。皿を洗い終えると、博士が部屋に戻ってきた。

「はい、これ」

と言いつつ、割と年季の入った杖を彼女に手渡すと

「ありがとうございます、お風呂に入りたいのですが借りてもよろしいですか?」

 と問い、博士が

「いいよ、浴室まで案内するよ、着替えは妻のものを用意しておくね」

 と答えた。彼女が軽く頭を下げ、博士に付いていった。博士には、奥さんがいたらしいが、戦争のせいで亡くなったらしい。博士は、あなたの前でも明るかったんだろうなと写真立てに写る綺麗な奥さんに心の中で問いかけた。
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